虐げられた特別な瞳の少女
エリザの証言を元に、私とシルアレク殿下はサリィ校に出向いて調べ、一人の少女の身元を特定した。
王都の閑静な区画に屋敷を構える、子爵家の次女で、名前はリンリル。年齢は9歳。
学校関係者に聞いた話だと、彼女は「成績は良いが、非常に無口な子で、学校では誰ともほとんど口を利かない」とのことだった。
私たちはすぐに、子爵家の屋敷を訪問した。
しかし、屋敷は昼間だというのにひどく陰鬱な空気に包まれていた。
出迎えた使用人たちは皆、酷く怯えた様子で、疲労困憊という顔をしている。
重苦しい空気の中、案内された薄暗い応接室で私たちを待っていたのは、頭からすっぽりとショールを被った二人の女性だった。
「で、殿下……それに、聖女様……」
震える声と共にショールがわずかにめくれ、その下の顔が見えた瞬間、私は小さく「あ」と声を漏らした。
子爵夫人と、その長女……彼女たちの顔には見覚えがあった。
昨夜、王城のパーティー会場で私が『浄化』を施した大勢の女性たちの中にいたのだ。
あの時、彼女たちもまた「なんでシワが消えないの!」「元の顔に戻してよ!」と、私に向かってヒステリックに叫び散らしていたため、よく覚えている。
親子揃って、相当ネマの化粧品に心酔していたのだろう。
彼女たちの顔は、エリザほどではないにしろ酷いもので、老婆のようにたるみきっているだけでなく、肌の一部が赤黒く変色している。
人間と化け物の境界線に、片足を突っ込んでいるような有様だった。
「わざわざ、家に来ていただけるなんて……もしかして、この顔を治してくださるの!?」
二人から、希望に満ちた声が向けられた。
「いえ……本日は、貴女たちの顔の治療に来たわけではありません」
すがり付こうとする二人を冷たく制し、私は単刀直入に切り出した。
「この家に居るはずの次女、リンリル嬢にお会いしたいのです」
「は……? リ、リンリルに……ですか……?」
子爵夫人は酷く動揺し、怯えたように目を泳がせた。
「あの子が、何か失礼な事をしましたでしょうか……? でしたら、私共からきつく言い聞かせておきますから……」
「あの子は、昔から少し頭がおかしくて……平気で、気味の悪い嘘をつくんです。学校に行く時以外は、離れの部屋から出さないようにしているので何卒……」
二人の言動から、私の胸に不穏な感情が渦巻いた。
「……嘘……とは?」
「あの……昔から『黒いモヤが見える』とか『モヤが集まって黒い虫になった』などと、ありもしない幻覚を見ては、不吉な事を言う子でして……。ネマの化粧品の流行り出してからは、私や長女の顔を見て『おばあちゃんみたいに、シワシワになってる』と失礼極まりない事を言い続けるものですから……」
「母と私で、『幻覚が見えるなんて気味が悪から、外では絶対に言うな。学校でも喋るな』とキツく言い聞かせております。勝手に外に出ないように、閉じ込めているのでご安心ください……」
二人の言葉を聞いて、私とシルアレク殿下は静かに顔を見合わせた。
リンリルという少女が、瘴気や呪いを可視化出来るのは間違いないようだ……。
それと同時に、怒りと憤りが込み上げていた。
彼女が学校で「非常に無口な子」だった理由は、家族せいだったのだ。
「……案内してください。今すぐに……!」
「ひっ……は、はい」
私たちの静かな、しかし有無を言わせぬ圧に押され、夫人と長女は震えながら部屋を出た。




