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ある時は、食べに行こうと提案してきたが、当日には寝坊をしてしまい閉店まで来ることはなかった。
またある時は、行きたい場所を聞かれ、答えたのは全部否定されて結局友人の行きたい場所へ行く事となった。
彼の一つ一つの言葉や行動が、私の怒りの感情を煽る様に撫でる。学生の頃、笑って流せていたものもいつしか、顔や態度に出てしまう程悪化していくのだった。
その内、他の友人にも彼に対する相談をする事が多くなっていった。いや、相談というよりかはこの怒りを誰かに聞いてほしかったのだ。
「私がおかしいのか?」
彼等は優しく私の相談という名の愚痴を聞いてくれるが、私が求めているような答えは返ってくる事はなかった。それは当然なのである。
私はきっと被害者面をしたくて、アドバイスも求めていたわけではない。
「アイツは我儘で酷い奴だ」
と言えば、
「そうだよね」
と相槌を打ってほしかっただけなのである。何らかの方法で、私のやり場のない怒りに救いを求めていたのだ。
彼等にはそんな私の考えが見え透いていたのだろう。私の滅茶苦茶な愚痴を頷いて賛同するのだけは避けて、大人の対応としての決まった言葉を言うのだ。
「君と友人の関係はとても長いのだから、もしも別れるとしても勿体無いと思うな」
と。
確かに、私としても友人とは何十年も共に遊んだ長い付き合い。ここまで長く一緒にいた人間はそう多くなんていない。友人に対して
「まぁ彼はこういう人間なんだ」
と潔く受け入れる事さえ出来れば、この怒りすらも感じなくなるのだろう。だが、私の中では一つだけ明確に言えるものがあった。
直接怒りをぶつけるのではなく、誰かに愚痴を吐いてしまっている時点で、私達の関係は確実に終わりへと向かっているのだろうと。
そして、その時は遂に訪れる。
すっかり社会にも慣れて、この世界での生き方に馴染んできた冬の頃。その日は友人から食べに行こうと誘われて、私は仕事終わりに目的地の店へと車を走らせて向かっていた。
約束の時刻は22時30分。私が店の駐車場に到着したのはそれよりも早い22時20分。まだ10分も余裕がある私は車内で大人しく待機することを選んだ。
時は進み約束の時刻となる。やる事もなく、車内からずっと駐車場を観察していたが、友人らしき車は一向に姿を現さない。
また寝ているのではないか?
何度もやらかしてくれた友人に自然とこの最悪のオチが頭に浮かぶ。
【着いた】というメールぐらい入れても良いのではないかと思うかもしれないが、日頃から友人を車で迎えに行く際
【もう直ぐ着くよ】
と、事前に連絡を入れておいても彼は先に用意をして待っていてくれる事は滅多になかったので、それを見続けた私は連絡をするのも面倒になっていた。どうせ連絡して漸く気付いたとしても、それはそれで腹が立つのは自分だけなのだと、とっくに諦めていた。
約束の時刻から10分が経つ。友人は今だにやってこない。これは寝坊だと思った私は溜息を吐いてスマホを取り出しメールを送る。
【着きました】
既読は付かない。あぁ、彼はまた寝てしまったんだなと半ば諦めていた。
約束の時刻から20分が経つ。全くスマホに反応がなく無駄な時間を過ごしている私は、とうとう痺れを切らしエンジンを掛ける。さっさと帰ろうと思い、ハンドルを握ったその時、ずっと沈黙だったスマホから通知の音が車内に響いた。
【先に店の中で待ってる】
何を言っているんだ?私は駐車場に着いてからずっと待っているというのに、まるでもう到着しているかの様なメッセージが届いたではないか。
ここに着いてから数十分。私よりも後に来た人達が入店するのを何度かは見ていた。しかし、その中に友人の姿などなかった。彼が店内に入っていく姿を見落としてなんかない。
では、このメッセージの意味とは?嫌な予感を感じながら私は直ぐに返信する。
【もう中にいるのか?】
【いる】
再度届いたメッセージに、私はエンジンを切り車から降りると早足で店内へと入る。迎えてくれる店員に【先に人が待っている】と説明して通り抜け、急いで店内を見渡す。
店内の奥のテーブル。確かに彼はそこに居た。机の上には既に食べ終えたおつまみ料理と、スマホ二台が置かれている。
「うっす」
彼は私に気付くと気さくな挨拶をする。私も軽く手を挙げて挨拶を返すと、眉間に皺を寄せながら黙々と彼の座るテーブルの対面席へと座る。私から説明を求めなくとも、彼はスマホを見ながら話しだした。
「いやー、22時15分には着いててさ。このサブのスマホでメールを送ったんだけど、この店のWi-Fiが調子悪いのか送信出来てなかったみたいなんだ。さっき気付いたわ」
なんだそれ?
【一緒に食事をする】
そんな大事なイベントを通信が不安定な予備スマホの方で連絡をした上に、送信が出来ていなかった事を、今気付いただと?
私という一人の人間を、雑に扱う様な理由じゃないのか?
そもそも送信完了したのを確認してから画面を切り替えるべきじゃないのか?
淡々と話す言い訳に、私の頭の中では次々と怒りの感情が湧き上がる。
そして何よりも
今回も【ごめん】がない。




