表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

3


社会に出てからは、様々な状況での【言葉の重み】を経験してきた。



「やれます」「任せてください」「わかりました」



この些細な一言でさえも、社会では縛りを付ける重い足枷となる。この縛りを解放するには、それに応じた【結果】を見せなければならない。期待されていた結果を見せれないのなら【失望】になってしまうからだ。


 【言葉の重み】を社会で知った私には、自分が招いた【言葉の重み】もアッサリと捨てて、己の我儘の為に私を振り回そうとしている彼の態度がとても気に食わなかったのである。


 結局私は自分の意思を最後まで曲げる事が出来ず、彼からメニュー表を奪う様に取り上げると、彼よりも先にお酒を注文した。


そして私は、やってやったぞと言わんばかりの顔で彼に言う。


「これで私も運転が出来なくなったぞ。君が運転するしかないな」


普段お酒を注文する事のない私の大胆な行動に、友人も友人Bの顔も驚いていた。


 自分でも勢いに任せたこの行動が、あまりにも大人気なく幼稚に思える。しかし、友人の態度がどうしても気に入らなかったからこそ、これぐらいでもしてやれば流石に引くだろうと勝手に思い込んでいた。


だが、現実はほんの少し間が空いただけで、彼はしれっと言うのである。


「いや、注文するよ」


引く事を知らない友人の言葉。呆れて言葉も出ず私は鋭く睨んでしまう。酔っている友人Bも、この空気には若干酔いが覚めて苦く笑っていた。無関係の人間から見れば、二人の揉め事はとても大人らしくもない酷いものだったはずである。


「じゃあ誰が運転するんだ」


私は声を低くして彼に問う。


「そんなの代行を呼べばいいんだよ」


確かに彼の言う通り、この問題は代行業者に頼めば解決する悩みなのだ。苛立っていた私も、その当たり前のことをすっかり忘れていた。それを聞いた友人Bも


「あぁ、そうだよな。それでいいじゃないか」


と、この空気の悪さを変えたいようにフォローする。正直な所、時間が経つにつれて瞬間的に湧いていた怒りも収まってきていた私も少しは冷静になり、それならばと頷く。



しかし、それでも私の心は晴れることはなかった。



何故かは分からない。納得の出来る理由も聞けたと言うのに、心はずっとモヤモヤしていて、その後に食べた料理の味も無理に頼んだお酒の味も分からなくなっていた。


 そうして時間は過ぎていき深夜を迎える。友人は代行業者を呼び、彼の車を運転させる。友人は先程までの空気も気にする事なく、車内でも私達に喋り続けていた。しかし私はまだ晴れないこのモヤモヤにただ、友人の話を黙々と聞くことしか出来ない。


 目的地に到着して車は駐車場へ停車。業者は我々へと振り返り金額を伝える。それを聞いた友人は私達の顔を交互に見てこう言うのだ。


「一人⚪︎⚪︎円だな」


この瞬間、私がさっきまで感じていたモヤモヤの答えが分かったのだ。



【ごめん】



この一言を、彼の口から聞いていないこと。


 元を辿れば自分が飲まないと宣言しておきながら、飲酒欲に逆らえず代行を呼ぶ事となった訳で、本来は支払わなくてもよかった金額が今提示されている。この事に、【申し訳ないから自分が支払う】という気持ちは彼にはないのだろうか?


 割り勘の金額として見ればたった数百円の支払い。そんな細かい事を一々指すものではないのは分かっている。しかし、これは金額の問題ではないのだ。


 この場で支払う直前になっている場面でも、ここまでの流れで一言も【ごめん】という言葉を聞けなかった事が問題なのである。


 彼の適当な性格が、社会人になって人の見方を変えてきた私の心を悪い意味で大きく揺るがした。それをキッカケに、私の中で彼を見る目が徐々に変化していったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ