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死神令嬢は幾千万の死亡フラグを回避する ~ クソゲー女神への反逆 ~


 スマートフォン向け乙女?ゲーム『トキメキ☆デスサイズ』

 私が何気なく遊んだクソゲーだ。


 私のボロでちっちゃな画面でも遊べるこのゲーム。


 ネットのランキングでも下位が定位置のいわゆるクソゲーだ。


 タイトル通りにトキメクことも怪しいデスゲーム。

 主人公である悪役令嬢に数々の死亡フラグが降り注ぐ。それは周りを巻き込み大量の死傷者を出しながらゲームオーバーとなる。毎回出てくるエンドカードは心にくるものがあるものばかり。


 死神令嬢と言われた死を振りまくそのゲームの主人公。

 そんな侯爵令嬢のカトリーヌ嬢。


 つまりは今の私である!


 このゲームは体験版として配信され、オープニングとして始まったのが爆弾を仕掛けられたピアノを完璧に弾きこなすというリズムゲームであった。


 完璧に演奏を終えられなければこの会場ごと爆破されるというアホなバッドエンドとなる。


 しかもその演奏する曲が『エンブレラの死神』という気の狂った有名作曲家の死をテーマにした楽曲。

 その高い難易度と気持ち悪い戦局に、他のプレーヤー同様に、「なぜ体験版でそんなチョイスを?」と首を傾げつつ、何かに引き寄せられるように「とりあえず一回だけ」とプレーした結果、私は本編を購入してしまった。


 あの時どんな形でも良いから挫折していれば、きっと今の私はいなかったのだろう。


 一発クリアなど到底できるはずのない超高難易度の体験版。

 殆どの者が何度トライしてもクリアできず、途中で飽きてしまうようなその体験版……。あろうことか私は、うかつにも一発でクリアしてしまった。


 ああ。私のプロ級なテクが憎い……。


 そして私は、一番のお邪魔キャラであり大量殺人実行者ともなる幼馴染の令嬢の幾千万の罠をくぐり抜け、脳筋皇子、勘違い聖女、気狂い教皇、他多数の死亡イベントを看破し、1か月間みっちりとトライアンドエラーを繰り返した結果、遂には本編をクリアしてしまったのだ。


「はあ、中々良かったわ!ですが所詮はゲームですわね。(わたくし)には簡単過ぎたようですわね!おーほっほっほっ!」

 テンション爆上げで思わずロールプレーしてしまった私。


『ならば現実にしてあげましょう』

 脳内にその声が響いた瞬間、私は白い空間に飛ばされ、目の前には羽の生えた女神が……。


「人生に退屈しているのですね?お可哀想にー」

 目の前の女神は大粒の涙を流しそう言って顔を両手で覆った。


「何が?」

 首を傾げる私。


「刺激が、足りないのでしょ?お可哀想にー」

「なんて?」

 涙目で首を傾げる目の前の女神っぽい女性に合わせ首を傾げる私。


「ですから、よりリアルな刺激を女神ユミリオの名において、あなたに授けてあげましょう!」

 急に笑顔で馬鹿な提案をされる。


「いえ結構です!」

 きっぱりとはっきりと、両手を前に突き出して拒否する私。


 そんな私に目の前の女神はにっこりと微笑む。


 次の瞬間、私の目の前には漆黒のグランドピアノ。


 見渡せば私を好奇な目で見る貴族っぽい輩達に囲まれ、横を向けば壁には『カトリース様、御生誕発表会』といった見慣れた文字の横断幕。


 そう。

 私は今まさにゲームのオープンングとなる爆弾ピアノを演奏するカトリースの15才の誕生日イベントに突入したことを理解した。


「それではカトリース様、素敵な演奏をお願い致します!」

 司会でもある叔父の言葉に促され、不気味な旋律、且つ高難易度な連打を伴うこの難曲を、心の準備も待たずに演奏開始する羽目になる私。



 気合いだー!そう心で叫びながら必死で演奏する私。

 完璧に、完璧にやり遂げねば私は、そしてこの会場は……。そう思いながら髪を振り乱し、ドレスにも関わらず大股を広げなんとかやり切った私。


 待っていたのはドン引きの空間であった。


 それもそのはず。シナリオ通りなら予定していた演目は『天使の微笑み』という優しくも甘ったるい子供じみた演目だったのだから。


 その中でただ一人、幼馴染である爆弾娘、子爵家の令嬢でもあるこのユミリオだけは笑顔で拍手していた。


 そうか……、さっきは気が動転して夢かとも思ったのでスルーしたが……。


「ユミリオ、お前、神だろ?」

 ズカズカと彼女の前に歩き出しそう言うと、彼女は悲しそうな表情をした。


「何を言っているのですかカトリース様。あら、御髪が乱れておりますわ。お可哀想にー」

 そう言って首を傾げる彼女。


 そのまま私の髪を直すように顔を近づけた彼女。


「どう?最高にスリリングでしょー?」

 小声でそう言う彼女に、私は暫く思考停止に陥り呼吸を止めた。気付けば自室のベッドに座り呆けていた私。



 考えがまとまらぬまま眠ったその翌日。


 玄関に仕掛けられているトラップを外し、道端で襲われている少女という罠をスルーし、ようやく学園の前まで到着する。


 ゲームの中で言えばオープニングをくぐり抜け、本編である1日目が始まったところだ。


 ちなみに玄関のトラップが解除できなければ屋敷周辺が広範囲で吹き飛ばされ、襲われている少女を助けると「お礼に」と招待された家が盗賊団のアジトで、踏み込まれた憲兵隊により大規模な戦闘が始まり、その被害は周辺にも……。


 いずれもその後のエンドカードには、遠くでそれを覗き見る笑顔のユミリオの姿が描かれていた。


「お前!またユミリオ嬢を虐めたな!」

 校門の前では予定通りのイベントが開始された。


 脳筋皇子シーザリオ。

 私の現時点での婚約者でもある。


 校門に入ろうとした時に始まるこのイベントにより、私は全校生徒を敵にすることになる。

 全校生徒とは言っても過言ではないが、実は元々敵であったユミリオを覗けばただ一人、味方はいる。いるのだが、このゲームにおいて味方が必ずとも助けになるということはない。


 それは追々わかるだろう。

 初日には登場しないので割愛する。


 さてと……。

 私は屈伸運動を始める。


 なぜかって?

 これから全校生徒からの投石攻撃を避けねばならないからに決まっている。


 私は皇太子シーザリオの放った拳大の石を避ける。

 この石のひとつでも倒れ込んだ私に集中砲火、テンションの上がった生徒達は互いにそれを投げつけ合い、阿鼻叫喚の地獄絵図となるのだ。

 それを煽るのは皇太子シーザリオであり、そうなるように誘導したのは隣りで囁くユミリオだ。


 私はこんなところでは死ねない!

 培った動体視力をフル稼働させ、生徒達が一丸となって投げ続けるその投石を避けきった。途中で挫けそうにはなったが、空に残り30秒というカウントダウンが見えたことでなんとか持ち直した。終わりがあるなら頑張れる。


 そして、持ち石の無くなった生徒達は皆、私を怨嗟の目で睨むのだ。


 その後も、一人遅れて到着した私は、教室のドアに仕掛けられた鍵を開ける為、開錠魔法と言う名のパズルをやらされる。制限時間に終わらなければ爆破する仕組みだ。

 周辺を木っ端微塵に吹き飛ばし、自分の周りに防爆結界を張ったユミリオ以外の命を奪うバッドエンドと成らぬよう、全力でパズルを解き無事教室に入ることができた。


 遅刻により(いか)れる教師が振り下ろした、半径100メートル程を焼き尽くす濃度の特級爆炎魔法が仕込まれている鞭を躱し、なんとか無事に席へと座ることができた。


 授業中も私を退屈させる時間は存在しなかった。


 理不尽にも飛んでくる極大腐蝕毒の塊であるチョークを獣化したもふもふな両手で優しく包み込み無効化し、調合実験の薬品に混ぜられた特化爆破用硫酸弾により飛び散った液体を超級氷結魔法で凍らせ、昼食時に隣に座る令嬢のドリンクに投入された、絶対零度の特殊氷瀑弾により飛び散った氷弾を肉体強化した手で全弾掴みとり握りしめた。


 そして張り詰めた空気のまま放課後。


 帰宅する生徒たちの上空を飛んていた飛行艇から放たれた隕石落とし(メテオインパクト)による多数の隕石を、多重分身と一本足打法で宇宙まで跳ね返したところで今日の学園でのイベントは終了となった。


 ここまでのイベント全ては当然のように私の所為だと睨まれている。


 メンタルがおかしくなりそうなこの状況に、「リアルぱねー!」と嘆きながら帰宅時のイベントを軽き切り抜け玄関とベッドのトラップを解除して一日が終わった。


 私は汗をぬぐいながら一息ついた後、意外となんとかなるじゃん?と考える。

 だが、やはり問題があるなと頭を抱える。


 これがまだ1日目だという事実に心が折れそうになる。

 このゲームのシナリオは約1年間。


 1年たって進級となればユミリオ嬢も飽きたと言ってエンディングとなるのだ。


 クリア時にはその展開に「さすがにアレは無い」と思ったが、そもそもそれまでの過程でメンタルを鍛え上げた結果、普通に飲み込むことができていたのだが……。


「さすがにリアルでそれはきっついなー」

 思いがけずボヤいてしまった。


 そして一番の難点が1年あるシナリオが飛び飛びだということだ。

 初日を終えた後、シナリオ通りならこの1か月後の実技会、俗にいう運動会に一気に飛ぶのだ。


 その時のナレーションは確かこんな感じだ。


――― それから一か月。なんやかんやもありながら、私は何とか生きていた。


 なんやかんやがあったようだって……。完全に前情報無しの不明な何かがあったようだ。予測不能なトラップは本当に怖い。


 もしかしたら明日になれば勝手に時が飛ぶという希望的観測はある。


 だが恐らくは明日も普通に始まり、また数々の罠が待ち受けているのだろう。それも前情報なしのトラップが……。


 私は無事に実技会まで生きていられうのだろうか?


 実技会で勘違い聖女という私の唯一人の味方により、広範囲の浄化魔法で辺り一面が消滅するという事態に巻き込まれるイベントには参加できるだろうか?


 夏の学園祭では来賓としてやって来た正教会の気狂い教皇に邪神認定され、多数の信者達からの洗脳魔法により大量破壊と殺戮の大乱戦に発展する事体を回避できるだろうか?


 秋の収穫際の際に表面化する、一部の頭の可笑しいサークル男子達により、豊穣の女神ならぬ『飢饉の死神』と祭り上げられた私を中心に、納品に来ていた農家との全面戦争を巻き起こすまで生きていられるのだろうか?


 この世界は、1年後に存在するのだろうか?


 考えるだけで頭が痛いが今は眠ることが先決だ。

 そう考えながら0時になって天井の召喚陣から生えてきた大魔王ペテルドレルクの巨大な頭を、全力マックスで握りつぶし、この世界の消滅を防いだ私。


 いや……、こんなイベント知らねーよ!

 なんだよこれ!何気に目を開けたタイミングでヌッと出てきた不気味な鬼面、思わず心臓止まったって!こんなのが1年も続くの?いっそ逃亡した方が良いのかな?


 そう思った私だが、逃げ切れないのは分かっている。


 なぜなら、何気に自由度の高いこのゲームでは、街の外まで逃げ出すことも可能なのだ。

 だが別の街へと移動した次の日には、しっかりとその場所での別シナリオが存在し、無数の死亡フラグが降り注ぐのだから。それも、さらに難易度を上げた上級向けの内容の鬼畜イベント満載のシナリオが……。



 私は危険察知を最大限に展開したまま、気絶するように目を瞑り意識を手放した。

 


 頑張れカトリーヌ。

 1年後の平和を勝ち取るまで……。



 おしまい


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