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白より黒く、黒より白く  作者: 斎賀慶
第一章 白の書
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Episode.16 信の裂け目・後編

「ここに書かれていることは……本当なのですか?」


「神州維新府の黒きものを暴くため、仏童が白き協力者より得た情報です。

 黒き戦武が答えられぬのも無理はありません。

 君を欺いていたのですから」


 ――やはり、そうであったか。


「仏童を信じていただけましたか?」


 崇真は、白道の顔を見つめた。

 表情は変わらぬ。だが、その瞳だけが確かに光を宿していた。

 闇の只中に差す、一条の真理――それ以外に名のつけようがなかった。


「……白道様に疑念を抱いたこと、深くお詫び申し上げます」


 崇真は、非礼を詫びるかのように(こうべ)を垂れた。

 掌は、床を抑え込むように据えられていた。


「君に白き名を。仏童が授けましょう。

 今後は――白夜(びゃくや)と名乗りなさい。

 君こそが、この世界の夜を照らす、白き光なのです」


 夜を照らす、白き光。

 崇真は、己の内で名を繰り返した。

 ――白夜。

 それは、過去を赦す名ではない。

 かつての自分を白く照らすための、光の名だ。


「白夜、顔を上げなさい」


 その声に応え、白夜は背筋を正した。


「その身を縛る黒き枷――今ここに、仏童が白道紋をもって断ち切ろう。

 右手を、差し出しなさい」


 白夜は言葉のままに右手を差し出す。

 白道様の二指が縁の上でなぞり、虚空に星を描いた。


 それだけだった。音もなく、縁は外れ落ちた。

 白夜の右手首には、小さな孔がひとつ穿たれていた。

 まるで、罪そのものが刻まれたかのように。


「仏童の白き力にて、白夜の死期を払いましょう」


 再び、白道紋が孔の上に描かれた。

 その瞬間――孔は消えた。霧が晴れるように。

 いや、それよりも自然に、静かに、

 まるで初めから何もなかったかのように。


 これは――


 奇跡か。


「白道様……今のは、いったい何をされたのですか?」


 問いかけに、白道様は掌を示された。


「黒き穢れを払う、白道紋です。

 ……仏童に、出来ぬことなど、ございません」


 縁――体内で霊統因子を循環させる装置。

 それを失えば、戦将は異形へと堕ちる。

 そのはずだった。

 だが今、白夜の体には何ひとつ、異変は起きていなかった。


 ……これが自由か。

 これが、私を縛っていたものの正体か。


 忌まわしき神州維新府よ――


 貴様に支配された過去は、

 今この瞬間、焼き払われたのだ。


 この世に救いをもたらす御方。

 その御名は――


 白道様。

 まさしく、真の救世主であられる。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


今回の話は、これまでの流れとは一線を画す展開となりました。特に、信じていた存在への疑念や、過去の真実が覆されるという描写は、王道的な期待を抱いてくださっていた読者の皆様を裏切るかたちになったかもしれません。


心より、お詫び申し上げます。


しかしながら、この展開は物語の根幹に深く関わっており、今後の展開において避けては通れないものでした。真実を前にして揺れ動く主人公の姿は、彼が本当の意味で“自分の意志で生きる”ための第一歩であり、それこそが彼の物語の本質でもあります。


もし、今回の話で胸を痛めたり、戸惑いを覚えられた方がいらっしゃいましたら、どうか今後の物語を見届けていただければ幸いです。主人公が選び取る“答え”が、きっと皆様の心に届くことを願っております。


これからも『白より黒く、黒より白く』を、よろしくお願いいたします。

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