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事件は現場とネット  作者: ゆうき
始まりの息吹
3/28

交通事故

彼の名は、橘。

そして彼のポケットには――“世界を変える”鍵が、忍ばせてあった。

交信が入ったのは午前九時二十四分。

「駅西口の交差点付近でバイク事故。出血あり、救急要請中」との第一報。

樹はすぐさま無線に応答し、パトカーに乗り込んだ。

ハンドルを握るのは同僚の巡査ではなく、本郷から直々に手配された運転手。

何か――“事前に”分かっていたかのように手配が済んでいた。

(事故じゃない……直感がそう言ってる)

現場に着いたとき、すでに人だかりができていた。

歩道に転がったバイク、破損したフロント、滴る鮮血。

若い男がうつ伏せで倒れ、ジャケットの背中がズタズタに裂けている。

「こいつが……」

樹は人波をかき分けてしゃがみ込み、男の顔を確認した。

写真でしか見たことのなかった“橘”――間違いない。

「意識は……っ、薄い……!」

頬を軽く叩いて呼びかけると、男はうめくように微かに目を開けた。

目は充血し、口元には血が滲んでいる。

「う……あ……」

「大丈夫。もうすぐ救急が来るから」

樹がそう告げたときだった。

後方――交差点を挟んだ向こうの路地に、一台の黒いワゴン車が止まっているのが見えた。

ナンバーは泥で半分隠れ、窓はスモーク。

異様だったのは、救急車が来る音にも動じず、誰一人として降りる様子がないこと。

(……おかしい)

交通事故現場なら普通、何らかの関係者か野次馬なら出てきて確認する。

だがその車は、ただ“見ている”。まるで、確認しているかのように――

「本郷さん、こちら現場。負傷者の身元、恐らく橘。現場に不審車両あり、黒のワゴン。交差点西側、動きなし」

無線越しに、本郷の声が返る。

『すぐにナンバーを撮影しろ。無理なら目視で。奴らかもしれない』

「了解。……あっ」

パッ。

黒いワゴンのライトが一瞬点き、次の瞬間――急発進した。

樹は思わず立ち上がって追いかけるが、群衆の向こう側、狭い通りへと車は消えていった。

(逃げた……! やっぱり、“こいつら”だ)

その直後、橘の体がガクッと震えた。

「っ……脈、乱れてる!」

すぐに救急隊員が到着し、橘は担架に乗せられた。

だが、樹の脳裏にはワゴン車の暗いガラス越しに感じた“視線”が焼きついていた。

「これは……“始まってる”」

ぼそりと呟く。

まるで、自分の知らない劇が、すでに何幕も進んでいたかのような感覚だった。


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