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事件は現場とネット  作者: ゆうき
回想:学生時代
19/42

中庭

ここからは樹と葵の大学生時代のお話です。

本編は一旦休憩です。

夕方、研究棟の片隅。薄暗い教室の一室で、ノートPCの光だけが葵の顔を照らしていた。無数のコードがスクロールする中、彼女の目は画面に釘付けになっている。

「また一人で残ってるの、葵」

背後から声をかけたのは、少し汗をにじませたシャツ姿の女子学生——樹だった。

「……うるさい」

葵はそっけなく返しながらも、手は止まっていた。

「ここのWi-Fi、セキュリティ穴があるって言ってたよな。ほんとに見つけたの?」

「確認してただけ。触ってはない」

「……それで、誰かにチクられたのか?」

葵は無言のまま、うっすらと頷いた。

数日前、研究室のネットワークに“無断でアクセスした”と疑われ、指導教官に強く叱責されたばかりだった。

「別に悪いことしようとしたわけじゃないのに……」

葵は、机に顔を伏せるようにして小さく呟いた。

「分かってるよ。アンタのこと、私は信じてる」

その言葉に、葵は顔を少し上げた。目には薄い驚きが浮かんでいた。

「他のやつらは、すぐ“変人”とか言うけど……私は違う。アンタの頭の回転、プログラムの理解、どれも本物だって分かってるから」

沈黙。だが、葵の目からはわずかに緊張が緩んでいた。

「……ありがと。でも、もうやめる。研究も、全部」

「なんでだよ」

「この世界にいたら、また誰かを傷つける。私は“人間”のこと、ちゃんと分かってないんだと思う。コードの方が、まだマシ」

そのときの葵の声は、どこか機械のようだった。

「だったら、私が“人間”教えてやるよ」

樹はにっこりと笑った。

「……バカじゃないの」

「うん、バカだよ。でも、アンタのバグくらいなら、一緒に直していける」

その日から、葵は樹にだけは心を開くようになった。

けれど、事件はその数ヶ月後に起こる。

研究室の端末がハッキングされた。

誰かが葵の“手法”を模倣し、違法アクセスを試みたのだ。疑いはまた葵に向いた。


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