逃走
古びた外階段を駆け下り、錆びた非常扉を開けると、冷たい夜風が顔を打った。
裏路地に停められた軽バンのスライドドアがすでに開いていて、中から葵が手を振っていた。
「こっちー! 早く乗って!」
本郷が先に飛び込み、樹も続いてドアを引き閉める。直後、車は低くうなりを上げて走り出した。
「よくこんなタイミング合わせられたな……!」
本郷が息を切らしながら助手席でぼやく。運転席の葵は、真剣な顔でハンドルを握っていたが――動きはお世辞にもスムーズとは言えなかった。
「言っとくけど、運転免許は持ってるからね!? 実技は……教習所ぶりだけど!」
「ぶっつけ本番すぎるだろ!」
後部座席で樹が揺れる車内に身体を支えながら、心の底から嘆息する。
「なんで東野が来なかったんだよ……」
「だって橘を見張ってないといけないし……そもそもアタシを半グレなんかと一緒にするき 」
軽バンはギリギリの路地を縫うように抜け、ようやく広めの通りに出る。
「USB、持ってる?」
葵がミラー越しに確認してきた。樹は胸元を叩いて応える。
「ある。こいつがコーディネーターの狙いだったのか?だとしても、執着がなさすぎる」