魔研
灰色の空の下、郊外の森を抜けた先に、それはぽつんと佇んでいた。
蔦が絡まり、半分崩れかけた鉄骨の建物。看板は既に外されており、建物の壁面には風雨で剥がれたペンキの痕だけが残る。
「――この研究施設、“桐原医薬研究所”って名前だったらしい。十年前に閉鎖。理由は不明」
車の中で、葵がノートPCを開きながら呟く。
「薬事法違反で強制捜査受けたとか、動物実験で炎上したって噂もあるけど、正式な記録はどこにもない。ほんとに“消された”感じ」
本郷は助手席で黙って頷き、拳銃のホルスターを確認している。
後部座席で防寒ジャケットを羽織りながら、樹は目を細めた。
「……橘が話してた“向後がいた場所”の一つがここだとしたら、確かに消されてもおかしくない」
「気をつけて。中は電源も通ってないし、セキュリティも壊れてるけど――“人の痕跡”はある」
葵がPCを回転させて見せると、そこには数日前にアップされた匿名の写真投稿。瓦礫の中に残されたケーブルや、新しめの足跡の写真が並ぶ。
「場所が特定できたの、ラッキーだったね」
「ラッキーじゃない。誰かが“見つけさせようとしてる”。そう考えるべきだ」
本郷が車を降りながら静かに言った。