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事件は現場とネット  作者: ゆうき
第1章:始まりの息吹
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鍵の回収

 「……“中のコードは、俺の中にある”……?」

 樹が呟くように繰り返した言葉が、地下室の薄暗い空気に染み込んでいく。

 橘はそのまま再び目を閉じ、浅い呼吸だけが生きている証となった。

 本郷は腕を組み、沈思黙考の面持ちで床を見つめていたが、やがて低く呟いた。

「向後の“中”……つまり、生体情報。あるいは――DNA、網膜、声紋、何かの遺伝的コードか?」

 「それだと、もう無理じゃん。向後って、死んだんでしょ?」

 葵が背もたれに深く体を預け、PCを膝に乗せたまま、牛丼のふたを外した。

「火葬されてたら完全アウトだし、仮に遺体が残ってたとしても、敵がそれを手元に置いてないわけがない」

 樹は立ち上がり、部屋を歩きながら考え込んでいたが、ふとあることに気づいたように振り返る。

「……待って。向後の死って、確認されたわけじゃないよね」

 「えっ?」

 「『消息不明』扱いのままなの。死亡報告も遺体発見もなかった。ただ、組織の動きと、橘の証言から“死んでるはず”って思い込んでたけど……」

 本郷が眉間を指先で押し上げた。

「……確かに。公式記録でも“行方不明”。事故や病死などの記録もない。ならば、“向後はまだ生きている可能性”も、排除できん」

 葵がもぐもぐと口を動かしながら、ぽつりと漏らした。

「だとしたら、敵が探してるのは橘だけじゃないってことになるね。“鍵”である向後も同時に、どこかで――」

「――監禁、あるいは拘束されている」

 全員の視線が一点に集まった。

 本郷が静かに言った。

「向後は“殺されていない”。“利用価値”が残されているからだ。橘がUSBを持ち出したことで、彼らは“2つの鍵”がバラバラになったと焦った。だから橘を狙った。次は……」

「向後の居場所を突き止めて、残りのパーツを揃える気だ」

 樹の声に緊張が混じる。

 USBの情報、向後の所在、生体認証による“鍵”。

 事態はさらに深い闇へと潜り込もうとしていた。

「……じゃあ、私たちの次の手は」

 「“向後を探す”。――それ以外にないだろう」

 本郷の言葉に、場の空気が変わった。

 目的は変わった。データを解読するだけでは不十分。向後を見つけ出すことが、真相に至る唯一の道。

 その瞬間、葵のPCがピンという高音を鳴らした。

「……あ、解析完了。表のフォルダの中身だけだけど」

 全員が画面を覗き込む。

 そこには、取引記録、関係者の名前、銀行口座、そして――“施設リスト”という名のファイルがあった。

 樹がクリックすると、そこにはいくつもの施設名と地図座標が並んでいた。工業団地、研究施設跡、医療センターの倉庫、放棄された警備会社の研修所……。

「この中に、向後がいる……?」

 「あるいは、その痕跡が」

 本郷が小さく頷いた。

「まずは、最も可能性の高い場所から――“次の現場”に向かう」

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