出て行った息子
ここでザックはちょっとレイのことをみた。
もしかして、アランはこの店のことをレイに頼みたくてつれてきたのかも、と思ったののだが、「 ―― だから、そのかわりに、おれができることをひきうけたんだ」と、アランがすこし重々しくうなずいた。
「『できること』って、なにかをさがすわけ?」
ザックがおもいついた質問に、また『宝探し』かよ、ばかにしたような顔のケンが、取り皿をくれ、と手をのばす。レイが思い出したように立ち上がり、ケンが手をだすまえに料理を分け始める。テーブルにのった大皿からのいいにおいに、ザックの腹が鳴った。
店のおやじは年季のいったエプロンで手をぬぐいながらマーシュをみた。
「・・・うちの息子を、アランがさがしてくれるっていうんだが・・・、きっとみつかってもあいつはもう帰ってこないだろう」
「そんなことないさ。マリオだってこの店のことをぜったい愛してるし、今回だって、ちょっと旅行のつもりで出かけてるだけかもしれないだろう?」
「ちょっとの旅行で半年以上なんの連絡もなしか?」
「そりゃ、 ―― 出て行き方が家出みたいだったんで、連絡しづらいんだ。伝言もなくてちょっとの荷物だけでいなくなるなんて。もう十代のガキじゃないんだから、それなりの覚悟もしてるさ。一年ぐらいは連絡しないつもりなんだろ」
マーシュがおやじのほうにからだをむけて気楽な調子でいってみせるが、おやじは首をふりながら厨房へと消えた。
「・・・えっと、ぼく、厨房を見学させてもらおうかな」
レイが気遣うようにその背をおった。
「ケン、ザック、おまえたちはできあがった料理をここへ運べ」
副班長であるジャンの命令に、ザックは不服そうな顔のケンの肩をたたきたちあがった。
うしろから、ジャンのわらいをふくんだ声がきこえてきた。
「 ―― で?それについて、おれたちに頼みたいことってのは?」
「え!?まだなにも言ってねえだろ? ―― いや、たしかに頼みたいことはあるが、なんでわかった?おれ、おまえらに会ったときから、そういう顔してたかな?」
じぶんの顔を両手でおさえ驚く《探偵》の声をききながら、ザックもちょっと、アランのひとのよさは《探偵》にむいていないかも、と考えた。