みじかくまとめると
11.
― またきてね ―
もう今日の昼にはこの島をたつので、レイは男どもをそとにだし、使わせてもらった部屋の掃除を、残ったケンとしている。
まえにきたときと同じテーブルには、メニューを片手にもったオリビアがまた立って、「まあ、みじかくまとめると、―― 」から、はなしをはじめた。
「 ―― あたしが、『人魚と王子』のモデルになった人魚なの。ずいぶん大昔の話しだけど、まあ結婚もしたわ。でも、正式な妻じゃなかったから、王子が王様になったらすぐ違う屋敷にうつされて、それっきりよ。腹がたったから敵国のほうに行って、楽しく暮らしてやったんだけど、しかたないでしょ?なにしろ《魔法》でもう人魚にはもどれなくなってたから、人間として暮らしていかないとならなかったしね」
「でも・・・あんた、しっかり声もでてるし、目もみえてるだろ?」
アランがおそるおそるというように手をあげた。
「 ああ、『声もでないし、目もみえない』って?あんなのお芝居が勝手につくった『呪い』よ。まあ、目は最初ほんと痛かったし、耳鳴りも頭痛もひどかったけど、すっかり《空気》にも慣れたしね。もう何百年かしらね・・・。あ、それで、あたしらには《半魚人》てよばれてる、《人魚》になりきれなかったかわいい妹たちがたくさんいるんだけど、あのころエレノアはまだ小さくてね。あたしと一番仲がよかったの。それで、あたしが人間になって陸にあがっちゃったのが悲しくって、自分も陸にあがろうってずっとがんばって、このたびようやく人間になることができたんだけど、・・・時代がねえ・・・。 身元の確認もいまはしっかりされるから、急ごしらえの嘘をつくことになっちゃって、しかもあのホセにひろわれちゃったのよ。あたしもすぐに来られなかったし、とりあえず、しかたないからそれこそ《人魚》みたいに歌でかせぐことにして、あたしがむかしもらったハープをあげたの。はじめに結婚した王子にもらったのよ。ほら、《人魚》じゃなくなって『ふつうの歌』しかうたえないから、むこうもおもしろくなかったのかもね。歌えないなら弾け、みたいなかんじでくれたんだけど、腹がたったから弾かなかったわ。だってしょうがないわよね。それを了承したうえで、人間になってくれっていうから、こっちはなってやったのに、・・・実現してみると、お互い、思い描いてたのとちがっちゃったのよ・・・。 まあ、でも高そうな楽器だったから住むところをかえるときにはいつも持っていったわ。エレノアはすごく気に入ってたし、おかげで店も繁盛してたってのに、それもとりあげるなんて、あの人間の男、ほんとひどいわよねえ。 あ。 ―― 行方不明なんでしょ?ホセ。 海はひろいもの。残念ね 」
ちっとも残念ではなさそうに、オリビアはメニューをようやくテーブルにおいた。




