平気じゃない
暴言、暴力の表現あり。ご注意を
10.
― つかまる ―
「っほ、ホセ!?」
「あっ、アランか!!よかった!たすけてくれ!」
足早にでてきたのは、陽に焼けたからだの大きな男で、もみあげには白いものがまじっているが、髪の量も十分で、太ったと言っても腹もでていなかった。
その男の無事をたしかめるように両手で肩をつかんだアランは、平気だったか?と全体をながめる。
「 平気じゃないわよ!そのクソ男を捕まえてここにつれてきな!
あたしが仲間にそいつをくれてやる! 」
きたないしゃがれ声が中からひびき、アランはホセの肩越しに中をのぞいた。
小屋だと思っていた扉の中は、床はそのまま外からの白い石のままで、どうやら壁と屋根だけを石膏ボードつくった厨房用の部屋のようだった。
その白い床石をそこだけ数枚切りとったように、とつぜん床に小さな四角いプールがあり、両手をゆわかれたエレノアが、そのうす緑色の水の中で上下にひっきりなしにゆれ、汚い声で汚い言葉を投げ続けている。
「 クソ男!!逃げんじゃないよ!! 」
「だまれ!このバケモノ!いままでおれのことをずっとだましやがって!」
振り返ったホセが腕をふりまわしながらどなりかえす。
「 ちょっときいてよ!そいつ、このあたしを拉致って、ここでずっと二人だけで暮らそうとかいってつれてきやがったんだよ!! 」
「おまえがこの病院にもうだれもいないから、って言ったから、それがいいっておもったんだ。引き取ってやったのはおれなのに、島中の男どもに色目つかいやがって!」
「 あたしの歌声にまいらない男なんていないんだよ!あー、でもそこのアランだけはかからなかった。 なんだか嫌な感じはしたんだよ。そんな人間の男いままでいなかったてのに。しかも、《仲間》をつれてまた来るとかいうからさ。ちょいと一旦、島をでようと思ってたんだ。そうしたら!そのバカホセが! あたしがハープをシートでまいて荷造りしてるのをみつけて、出てくのを許さない、なんていってあたしをなぐりやがった!おまえとはなれたくない、ずっとふたりだけでこの先暮らそうなんていって、あたしはロープでまかれておんぼろな船にのせられて、気づいたらこの島さ! 」
エレノアの顔は人間にものだったが、叫び続ける声はひどいものだった。




