そのはず
「近づくと、でかいな」アランが、こんな大きいのならオーロラ島から見えてもおかしくないのに、なんで見えねえのかな、と首をひねる。
「病院ねえ・・・」ジャンがいやそうな顔でみあげ、アランもいやそうな顔で、「あのふるい新聞記事にのってたときと変わってないみたいだな」と船を島へちかづけてゆく。
島を一周するくずれかけたレンガの壁には、ところどころにランプのあかりのようなものがともり、赤い石の囲いをうかびあがらせ、途切れたところが正面だと教えている。
「あのちいさい砂浜が、唯一船がつけるところなんだろうけど、船がないな・・・」
オーロラ島の港から先についているはずの船はない。
だが、その砂浜につくられた小さな桟橋に船をつないでおりてみると、砂地には、なにかをひきずったようなあとがのこっていた。
どう見ても、この島にはこの大きな建物しかなく、行く先は建物の中だ。
レンガはくずれてはいるが、正面には、錆びてはいるが大きく重そうな金属の立派な扉がつき、開いたままになっている。
その扉から建物の正面の扉まで十メートルほど。ジャンを先頭に一列でゆくが、建物に明かりらしきものはみあたらず、近づいていっても人の気配はない。つきだした正面口から左右対称で、同じ数の窓がある。
「 ―― 右手をおれとアランとザック、左手をケンとルイでまわってくれ」
鍵もかかっていなかった正面の扉をあけながらジャンが指示をだし、ケンははいってすぐに、左手へ走って消えた。
「こんな真っ暗であいつ見えるのか?」
アランがあきれたように懐中電灯をつける。
照らし出された正面には、病院らしく受付のようなながいカウンターがあり、奥には古い壁掛け式の電話がついていた。さらにその奥は事務所なのか、机と書棚がみえたが、なにもない。
「この中って電気つかねえの?外の電気はついてたのに?」仕事用の小型の懐中電灯をとりだしザックが、おかしいじゃん、とアランをみる。「だって、慈善団体とかいうのが運営してるんじゃなかったっけ?」
「そのはず・・・なんだけど・・・なにもないよなあ・・・」アランも顔をしかめた。




