崖しかない島
白くはねかえるその群れに近づくにつれ、たしかにたくさんの白い人の手が、水面をたたくようにつきだされているのがみえ、アランも気づいたのかおかしな声をあげた。
「いいや。よくみろ。あれは小魚の群れだ。 ―― 魚だよ」
ルイがそういったとたん、人の手は小さな魚のむれになる。
「これって《人魚》たちのいたずらだよ。だけど、おれたちはそれにひっかからないですむ」ザックたちにわかるようにちいさく空をゆびさす。
みあげたはるか上のほうに、しずみゆく陽のひかりを翼ではねかえす、おおきな白い鳥がいた。《白いカラス》だ。
次には女のながいながい髪が流れてきたが、「海藻だよ」というルイのことばで海藻になった。ザックが身をのりだしてみようとするのを、ケンにひきもどされる。
また、潮の流れがかわったとアランが言ったとき、薄暗くなった視界に、黒い小さな島がいきなりはいってきた。近づくにつれ、小さな島にめいっぱい建物をのせているのがわかり、まるで、土台の大きな立派な建物が海に浮かんでいるようだった。
ザックが『砂島』という名前から想像していたのとはちがい、その島には、きりたった黒い崖しか確認できなかった。
その崖の上にのっているのは、なかなか立派な古い聖堂教の教会のようなデザインの建物で、赤いレンガの壁に囲まれている。
建物は白っぽい石でできているようだが、黒い崖とそれほど変わらない暗さでしか目にうつらないのが不思議だった。上にのびた高い塔には、教会のように鐘もついている。




