ひとがよすぎる《探偵》
ザックがみるかぎり、ここまでレイはずっと、アランといっしょに歩きまわっている。
アランも、レイのことをずっと気遣っていっしょに歩いている。
ふたりして、ものすごく顔をみあわせて微笑みあう数が多い。
「 ―― これ、あれだ。 バートがみたら、すげえ怒るやつだ」ザックは後ろから二人をカメラにおさめてからそう思った。
「まあ、レイにしたら、人生初、『旅先でできた友達』だしね」ルイはお似合いのふたりだねえ、とのんきなことを言う。
「探偵にしちゃ、ひとがよすぎる男だけど、レイの観光案内役としたらかなり高得点だろ」ケンがどこかばかにしたようにわらう。
たしかに、ひとがよすぎる《探偵》は、今日をいれた三日間でレイをつれて島のすべてのレストランをまわり、漁師を紹介し、果物の農園もいっしょにみてまわっているらしい。
「あいつがレイの助手になりたいっていったら、レイは喜ぶだろうが、バートはこの島ごとなかったものにするかもしれねえから、探偵のままでいいだろ」ジャンが土産物屋で自分用に買ったストローハットをかぶりながら、はなしをしめた。
要は、ここでのあのふたりの仲良しぶりを、班長には話すな、ということだ。
ザックはここでとった写真は、そっとレイだけに渡すことに決めた。
ここまでみてきたかぎり、アラン・マーシュはこのせまい島のみんなと顔見知りのようにあいさつをかわし、年寄にはかならず声をかける。《探偵》というより、このせまい島をいつも見守っている頼りになる《警察官》というかんじだ。
きいたところ、《探偵》のしごとは、この島の『本島』ということになる、大陸のでっぱり部分にある同じ州内の街にたつ、ビルの事務所でうけるらしい。
まあ、そりゃこんな島じゃあ、《探偵》をやとうような仕事もないだろう。
「 ―― いや、家畜が逃げたとか、携帯電話をなくした、とかで、この島でもときどき仕事はうけてるけどな」
歩いてようやくたどり着いた港と反対側のがけっぷちにたつ小さなレストランで、入った時に二人ほどいた地元客は、マーシュとしばらく《いつもの》だろうやりとりをしたあと、彼がひきつれてきた若い男たちに『この島のいいところ』をつたえ、帰っていったところだった。
それも見てからザックが発した、失礼な感想に、マーシュは眉をよせることもなく、おだやかにこたえ、店の奥に大声でなにかを注文した。