建物に明かり
「 親父がいうには、ここの海にはいらなければ大丈夫だろうってことだったよ。どうやら、《人魚》ってひとくちにいっても、種族がいくつかあるみたいでね。このところどの種族の噂もきかないって、なんだかさびしそうだったけど」
ルイがはなすあいだ、ザックはアランをみていた。
警備官たちにとって、『魔法使い』とか『魔女』なんて、仕事でつきあいのある相手も、この《探偵》にとっては、《昔ばなし》や《おはなし》の登場人物だろうし、だいたい、『人魚』なんていうのは、ザックだっていままで会ったこともない。
「おいおい・・・」ここで思った通り、アランが眉をよせてこまったようなわらいをうかべた。「・・・このあたりの人魚は、むかしは歌で漁師をおぼれさせるって・・・そ、うか・・エレノアか!あいつ、人魚なんだな?くっそ、おれがイメージしてたのとだいぶ違うじゃねえか。あんなんじゃ王子と恋なんてできねえだろう」
アランはこぶしで膝をたたき、「じゃあホセは、」と顔をあげた。
「残念ながら、捕まったみたいだね」ルイがゆっくりうなずく。
どうやらアランは探偵むきでない純粋な素直さを持ち合わせているようだとザックは感心してしまった。
「じゃあさ、『捕ま』って、海に連れていかれたのかな」
ザックが首をまげると、中庭にでるためのおおきな窓がタンタンと音をたてた。みんながいっせいにみると、半分ひらいた窓に挟まるようにして白いタキシード姿の男が立ち、こちらに首をつっこむと、「あのさ、島の建物にあかりがついた」とだけいって、また窓をしめた。
「誰だ?」
アランがたちあがったときにはもう、男の姿は消えていた。
「ルイの親戚だよ。すっげえ目がよくて、フットワークが軽いんだ」
ザックとしては、この《探偵》になら、あれが『魔法使い』に仕える《白いカラス》だと教えてもよかったのだが、アランのためにも、やめておいた。
この世界に、自分がおもってるよりもたくさん知らないことがあるのに気づくのは、一週間に一度だって多すぎるとザックは考えている。




