猫をさがそう
6.
― ホセの店 ―
ホセの店は、このごろ昼間はあいていないんだ、と近所の男は戸の閉まった店をさした。この男はむかしからホセ夫婦となじみで、昼飯もずっとホセのかみさんの料理を食ってきた独り者だったが、ホセが気味の悪い女をひきとってからは交流はなくなった、とさびしそうにまた店をみた。
「離婚したかみさんは本島にもどっちまったよ。こどもはいなかったから、それでよかったんだろうが、ホセはあんな女、どこがよかったんだろうな?」
ホセの店のはなしを聞きに来た《観光客》の男たちに、家の前にだした椅子をすすめた男は、自分が先にこしかける。
「歌がうまくて若い美人じゃないの?」
『きみの悪い女』という言葉を出した男にザックが確認する。
「色がしろくて顔にしわもないが、ありゃ若くないさ。港にきたときおれもそこにいたが、あの歩き方ときたら、まるでばあさんだ。崖の上のマルコのばあさんより年よりだったぜ」
「病院にいたんだから、あまり足腰がよくないのかも」
ルイが提案した意見はすぐ否定される。
「足腰がよくなくて、東の浜からこっちまで歩けるかい?」
「きょう、ホセをみましたか?」
ジャンが二階の窓もしまったままのたてものをあごでさす。
いいや、と首をふった男は、じつはこの三日くらい、店も閉まったままでホセの姿もみていない、と建物をみたままこたえる。
「 ―― そうだな。ちょうど、あんたたちを島でみかけるようになるまえだ。あんたら、あのアランが連れきた友達なんだろう?アランとおなじように、《探し物》をする仕事かい?それなら、おれが飼ってた猫もさがしてくれないか?アランにたのんだら、いまべつのものをさがしてるんで、さがせないって断られちまったんだが、ピンク色の首輪をした白い猫なんだ」
「わかった。みつけたら連絡する」
ケンが男の肩をたたき、建物の方へ足をむける。「なあ、その猫、もしかしたらこのホセの店の中に、いるかもしれねえよなあ?」
きかれた男はちょっと考えてから、うなずいた。
「そうかもしれん。ホセにはなついてた。あの女がきてから店にも近寄らなくなったが」
それに了解というように手をあげたケンが、正面のドアをすこし確認してから、親指をたて、「猫の鳴き声がした」と、ドアの腹にあたるところを蹴とばしてあけた。
「あんたら、おれの猫をみつけたら、連絡してくれ」
勝手にホセの店にはいってゆく《アランの友達》たちに手を振る男は、ホセについては最後まで何もつけたさなかった。




