身代金の請求は?
「 まあ、本来はそこまで魚をとることにうるさくないんだが・・・。本島のなにかの研究所で働いてたとかいう女が一人でやって来て、むかしその研究で建てられたとかいう、この島のボロ小屋にすみついて、レストランで働きだした、っていう彼女のぜんぶが、マルコは気にいらないってことだ」
なんでそんなに嫌うのかはわからない、とさすがにアランも肩をすくめた。
「ただ、マリオはすごくシャイな性格でさ。本島からきた女と急速に仲良くなるなんて、正直おれも驚きだった。親父さんが、息子が彼女にそそのかされて消えたって思いたいのも、すこしはわかるよ」
「オリビアのほうにもはなしはきいたのか?」
「もちろん。エレノアにあうよりさきに、マリオのことをぶつけたさ。彼がいきなりいなくなっておどろいてるし、心配してるって言ってたけど、・・・なんとなく、もうわかれた彼氏のはなしをしてるような感じで、それほど興味なさそうだったけどな」
「興味はなくても、行き先を知ってそうな感じは?」
「そこなんだよ。 ―― 会話中、腕をくんだまま壁にもたれて、肩をすくめたのが二回。もし彼から連絡が来たらしらせてくれるって言って、面会は終了。知ってるとおもうか?」
「知ってそうだな」
「でもそれなら隠さなくていいだろ?べつに彼女がマリオを誘拐したわけでもないし。もしマリオが本島に行くのを彼女が手伝っていても、親父のマルコに彼女はもともと好かれてないんだから、いまさらなんの問題にもならないんだ。知ってたらおれに教えるだろ」
「誘拐じゃなけりゃな」
気が重いようにジャンがおおきなため息をつく。
「え?だって、身代金の請求なんかないぜ。観光地だからってあのレストランがそんなに儲かるわけねえんだし」
ありえねえだろ、とアランは警備官にわらってみせた。
目の合ったケンが、白い歯をみせ、さわやかともいえる笑顔をかえしてきいた。
「ニワトリだって、請求なかっただろ?」
「はあ?」
「みんなー、そろそろ夕食の準備はじめるよー」
庭園にでるためのガラスのとびらがひらき、レイの軽やかな号令にアランいがいの男たちは立ち上がった。




