今回の旅行
このはなしをきいたとき、ザックは、『幽霊』がいたというレイたちの船旅がものすごくうらやましかった。
こどものころにみた映画や、国営動画でこどもむけにつくられた、諸島地方につたわる海賊船や幽霊船の特集がすごく好きだったし、『幽霊船』というものにぜひ、乗ってみたかったのだが、レイたちが乗ったのはなかなか予約がとれないことで有名な客船だ。今回の旅ではその船には乗れなかったのは仕方がない。前向きな性格のザックは、けっきょくふつうの中型の客船でも、ここまでくるあいだじゅうぶん楽しく過ごせた。
A班で今回の旅行に参加しているのは、この旅行を(とりあえず行きたいと)提案したケンとそれにのっかったザックと、(ちょうど旅行を計画中だった)ニコル夫妻、あまり諸島方面に行ったことがないなあ、とわらっていたルイと、もちろん行くと即答だったジャン、そしてもちろん、アランと友達になったレイ。 あと、レイの見守りでついてきたバート。
歩きながら指をおって人数を数えていたザックはちょっと首をかしげた。
「 あ。けっきょくウィルだけか。来られなかったのって」
「あいつ、行きあきてるっていってたぜ」
ふりかえったケンが、キャップのツバをあげた。
「ちょっとくやしそうだったけどね」
いつもののんびりした発音で、ルイが指摘する。
「『行きあきてる』ってやつにかぎって、定番の土産物をかってなかったりするからな」なにかいいものを買っていってやるか、とジャンがサングラスをはずし、両側にたちならぶ土産物屋をのぞきこむ。
観光客むけのおおきなロゴがはいったTシャツをみんなでえらんだ。
そのあいだ、土産物屋の主人とアランがはなしこみ、さいごはレイとおしゃべりすると、おまけでハガキをくれた。
「ぼく、これ、バートにおくるよ」
そう。彼の婚約者である男は、この島にレイが無事に足をつけたのを見届けると、出迎えにきた初対面のマーシュと握手をかわしながら、脅しともとれる挨拶(「招待には感謝する。あとはこの島をおれが破壊したくなるようなことにならないよう、レイを楽しませてくれ」)をして、とんぼ返りで同じ船にのり、帰っていった。警察官の仕事を手伝うことになったというその理由には、みんなが首をかしげたが、どうやらなじみのベインか、ノアからの頼み事だろうというのがみんなの見解だった。
そうでなければこの旅をあの男が放棄するわけはない。