しょうじきなこたえ
「なんていうか・・・エレノアがいうことを信じりゃ、陽にあたった生活をしてなかったんだろうから、色も白くて、弱弱しい感じなのもわかる。話し方も静かで会話を楽しむってタイプじゃない。そりゃ、ほんとに記憶喪失なら、話せることもあまりないだろうし、病院の生活も楽しいものじゃなかったっていうのはわかるが・・・。おれは、彼女にほほえみかけられたとき、どういうわけか、寒気がして、彼女の顔が・・・ちょっとおかしなモノに見えちまった」片手でめもとをふさぐ。
「おかしなモノって?」
とうぜんザックは確認せずにいられない。
しょうじきにこたえようかふざけようか、迷ったアランが顔をあげると、警備官の男たちがみんな、『しょうじき』な答えをまっているのがわかった。
「あ~・・・ まあ、その・・・、口のりょうはしが耳のところまで裂けて、目玉がこぼれそうなぐらい中から押し出されたみたいになって・・・元に戻った。いや、おれの見間違いだっていったほうがいいのか・・・。よくわからないんだ。なにしろその間、こっちはひどい耳鳴りにおそわれててさ。音がきこえない状態と彼女の顔の変化に驚いて、頭をふったら、どっちもなくなった」
「『微笑みかけられた』ってことは、会話の途中だったんだろ?なんの話してたんだ?」
ケンはめずらしく、にやついていない。
「ああ。どうやって『砂島』の病院をぬけだして、この島まで船をどう漕いできたのか、ってことと、 ―― この島にきてからの暮らしについてだ」
「彼女なんて言った?だれか、手引きしたやつでもいたって?」ルイが、それはないのをわかったような顔できく。
「看護師がいなくなるちょっとのすきをねらって、散歩のときに目をつけておいた海岸にあった小舟にのったってさ。とにかくあの島を離れたいってことだけで、先のことはなにも考えずに、櫂もなかったんで、船を漕いで進むことも考えなかった。つまり彼女のはなしを信じるなら、この島の北西にある島から、なにもせずにこの島の東がわまで着いたことになる」
「ありえねえだろ」
すぐにはいったケンの否定は、警備官みんなの意見だった。