幽霊船の似合う女
いいや、と探偵はすぐに首をふった。
「 なにもつかめてない。病院の持ち主である団体も表面的なことを調べた限り、これといった問題はない。前の持ち主の遺言で、島ごと病院を受け継いだってことだ。そっち方面から入院患者について調べるなんてとうてい無理だろうから、あきらめて、おれはエレノアと直接あってはなしをきいたんだ」
「あ、それで彼女のはなしがあやしいって?」
「・・・あやしいんじゃなくて・・・おれは正直、彼女がこわかった」
「は?」
ザックが口をあけておくる視線をかわすようにアランは頭をゆらし、何ていえばいいのか、とテーブルを指先で拭いた。
「・・・おれは、灯台守りのトマス夫婦が主張した『あの女は幽霊船がおくりこんできた』っていうはなしを、正直いちばん馬鹿にしてた。 ―― 他のみんなからのはなしをきいておれが考えてたのは、砂島の病院から頭のおかしい女が逃げてきて、男たちはその女が若くて美人だから喜んでる。女たちははじめは同情したが、ホセの店で女が働くようになってから、若くて美人なエレノアを警戒するようになった、っていう単純な状況だった。その状況が面倒だったんで、おれは彼女が来てからホセの店には行ってない。この島でおれがいちばん仲がいいトマスたちに『あの女には気をつけろって』さんざん言われても、ふたりとも、海に関しての古い迷信をほかのみんなよりかなり信じこんでる年寄りだから、いままで、彼らの主張は除外してたんだ」
「ところが、直接会ってみたら『幽霊船』が似合うような女だったわけか」
ジャンが同情するように息をつく。
「幽霊船が似合うって・・・」ザックの思い出の中の『幽霊船』に乗っていたのは、海賊たちだ。女の海賊なんていただろうか?