同情
「そうなんだよ」
アランが指をたてて、ルイへむけた。
「おれも、そう考えたから、マリオの捜索を頼まれたとき、まっさきに彼女をしらべようとおもったんだ。だけど、この島のひとたちは、彼女を『怪しい』って考えなかった。病院がエレノアを『不当』に入院させていたから、それをばらされたくないんだろうってな。 ―― その考えのもとになったのも、『あの施設にどうして自分が入っていたのかわからない。あそこにいるあいだも、じぶんの名前しかおもいだせなかった』っていう彼女のはなしだ」
「病院に、《閉じ込められていた》ってかんじをにおわせたわけだ」
ケンがなぜかうれしそうに椅子に背をあずける。
アランもうれしそうにテーブルに身をのりだす。
「おれもそう感じた。ともかく、あの女は正体があやふやで、病院をにげてきたのしか覚えてないっていうだけなのに、どういうわけかそれを島のみんなが信じて、同情したんだ」
「なるほど。それでうけいれられて、いまは、そのホセの店で働いているってことかな?」
ルイがゆるくうなずく。
「あれ?おれ、それもう言ったか?まあ、そうなんだ。 ―― 一番はじめにエレノアと港でしゃべったのがホセだったっていうこともあって、彼が店で雇うことになって、同情したおかみさんが、空いてた店の二階に住まわせてやったんだ。そしたらエレノアが、うたがすごくうまいっていうのがわかって、いまじゃホセの店の《歌姫》だぜ」
なぜか困ったようにテーブルを指先でたたくのをみて、ザックが納得したように指をならした。
「そうか。つまり、アランはエレノアの身元を調べたんだな?それで、なにかあやしいことをつかんだから、彼女にめをつけたってことなんだろ?」