砂島
「病院って本島の?」
ルイが信じられないというわらいをのせてきく。
「まさか。『砂島』だよ!」
聞こえたのか、台所からエマが大声でこたえた。
「『砂島』?」ザックはケンをみた。
この諸島の下調べをこの男がしていたのは知っている。なんだか気になることがあったのか、めずらしく、こりゃジャンに相談しねえと、と頭をかいていた。
その『砂島』のことでも相談したのだろうか。
「『砂島』はこの島から一番近くにある小さい島で、そこには隔離病院しかない」
ケンはつまらなさそうにこたえる。
「『隔離病院』ってなに?」
「ふつうはほかの患者にうつる病気もちの患者だけ、隔離した病棟におさめるもんなのを、この島に隔離したってことだ」
「なんの病気だよ」
「もとは、感染病の患者を収容する病院だったらしいが、六十年まえくらいから、いわゆる精神病の患者専用の病院ってことになった。上流階級の患者がほとんどだってことしかおれはしらねえ」
これいじょうの質問は断わるというように、ケンは身を乗り出してひとつだけ残っていたパイ菓子に手をのばした。
「その病院を逃げ出してきた女の人が、人気者になった?」
納得いかない顔をザックはトマスにむけた。
トマスが説明しようとくちをあけたたのに、アランがさきに「ありゃ、『魔術』だ」とおかしな単語をだした。
その単語のひびきに、警備官一同はみんないやな顔をする。
それをみたトマスが、なんだぼうやたちはこわいはなしが苦手か?と大笑いし、台所から果実の浸かったガラス瓶をかかえてでてきたエマが、まさかあんたたち酒が飲めない年齢かい?と、夫婦そろってわらいだした。