灯台守りの夫婦
4.
― 手伝い 情報その2 ―
アランはこの島では《灯台守り》の老夫婦がくらす家に泊っている。灯台の手入れの手伝いもしているし、ペットとして飼っている鶏とヤギの世話も手伝う。老夫婦はアランの親が生きていたらこんなかんじだったろうと想像できるほどよく夫婦喧嘩をして、それでも仲がいい。
そんな夫婦の小さな家に、大きな若い男たちがそろってやってきたので、妻のエマは嬉しそうにお茶を準備し、めったにつくらない甘いパンのお菓子まで用意した。夫のトマスはそのパン菓子が好きなのにおれが頼んでもつくってくれやしないんだ、とアランにこぼし、きいていたエマが、あんたはいつも食べきらないじゃないか、と言い返し、いつものケンカがはじまりだす前にかごにいれたパンがあっという間に消え、オーブンにまだあるからとエマが立ち上がったので夫婦の言い合いはなくなった。トマスもひさしぶりに食べられたそれに顔をほころばせ、ここだけのはなし、この郷土料理のパン菓子だけなら、うちのやつがつくるのがこの島で一番うまい、とみんなに教えた。
「なあトマス、ついでにあんたが守ってる灯台のはなしをしてやってくれよ」アランがおかわりで新たに盛られたパン菓子をつかみあげ、さいそくする。ああいいとも、と口のまわりを指でぬぐった年寄りは、年季の入ったテーブルに肩をよせあってどうにかおさまった若い男たちをみまわした。
「 ―― この島に灯台がつけられたのにはわけがあってな。島の東側には《人魚の巣》があって、船を沈めようとするんで、『ここに近づくな』ってことで、むかしのひとがあの小さい灯台をつくったんだ。まあ、島と島のあいだを通る潮の流れと、岩礁のことがよく知られていないころのはなしだから、《人魚》のせいってことになったんだろうなあ」