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Q 1話から主人公への期待が高いのは何故?A それフラグ

こんにちは、静真希です。

 「ここの主人公の心情を答えろという問題ですが、嘉神くんわかりますか?」


 授業中に訪れるいきなりの指名にはいつまで経っても慣れることができそうにない。


 「……後悔とかですか?」

 「はい!正解です。この場面は主人公が今まで持っていた固定概念のせいで自分の可能性を閉ざしていたことに気づいて過去への後悔を表しているんです。ここ、テストに出るかもですね」


 茶目っ気たっぷりの表情の先生はわざとらしく声を小さくして人差し指を口元で立てる。こういうところがこの先生が人気な理由だ。


 答えられてよかった。現国の佐野先生は優しいので答えられなくても怒られはしないがやはり答えられるに越したことはない。僕はホッと一安心つきながらノートに先生が言っていたことを書く。チラリと周りを見渡すと他のクラスメイトたちもみんなノートにシャーペンを走らせている。


 そんな何気ない日常の一幕だった。真面目な委員長も、弱気な文学少女も、目立ちたがり屋なバカも、熱気あふれえうスポーツ男子も、外を眺める電波少女も、生徒に人気の国語の先生も、そしてもちろん僕自身も、この時は考えてもいなかった。まさかクラス丸ごと()()()()()するなんて。


 突如としてクラスのど真ん中に現れた何色かもわからない眩しい光に僕たちは逃げるどころか、叫ぶことすらできず、ただ何もできずに光の中に飲み込まれていった。











 「…………え?何が……起きた?」


 眩しすぎる光によって一時的に奪われていた視界が戻ってすぐに映し出した光景は知らない天井だった。訳がわからずボーッとしているとなにやら騒がしい声が聞こえることに気づいた。起き上がって周りを見渡すと離れたところにクラスメイトたちの姿があった。なにやらみるからに浮かれている。ジッとその集団を見つめていると、その集団の1人である学級委員長の本川たつるが僕の視線に気づいて駆け寄ってくる。


 「嘉神くんよかった!気が付いたんだね!みんなが目を覚ました後も1人目を覚さないから心配していたんだ」


 たつるの心の底から安心したかのような緩んだ顔を見るにもしかしたら僕はかなり長い間気を失っていたのかもしれない。


 「それにしてはお前以外のやつは僕のことなんか忘れたかのようにはしゃいでるみたいだけど」

 「う……最初はみんなも気にしてたんだけどね……ごめん」

 「あー!別にお前が罪悪感感じなくていいって!お前は心配してくれてたんだろ、じゃあありがとうだよ。僕はこの通り元気いっぱいの健康体だから安心しろって」


 少し揶揄ってみたら予想以上に申し訳なさそうな顔をしてきたので慌ててフォローする。まったく、こいつはこういうところがあるから調子が狂わされる。一分ほど言葉を尽くしてたつるを落ち着かせた僕は流石に気になりすぎることをたつるに質問する。


 「なぁ、たつる……僕たちさっきまで教室にいたよな。ここ、明らかに教室……いや学校じゃないよな……」


 改めて周囲を見渡す。石レンガの壁、床に敷かれた高級そうな絨毯、僕たちを明るく照らすのは今まで慣れ親しんできた電球ではなく壁の随所にかけられている蝋燭だ。あまりに非日常、あまりにファンタジー。


 大掛かりなドッキリ、なんて頭によぎるがこんなことできるわけもない。そもそも僕たちはただの一般人だ。こんなドッキリをしたところで誰にも需要なんてない。


 何となく予想はついている。僕だって立派なオタクだ、こんなシュチュエーション何回も頭の中で出会ってきただろ。でもやっぱり理性の大部分はそんなわけがないと訴えてくるわけで、僕は誰からでもいいから肯定して欲しかった。ここは今までいた世界じゃないと、ここは──


 「お前たちがいた世界とは別の世界。お前たちが言うところの異世界ってやつだよ」


 そんな僕の待ち望んだ言葉をくれたのはたつるではなく、ましてや他のクラスメイトでもなかった。声のした方へ視線を向けるとそこには、この言葉が欲しかったんだろ、とお世辞にも女性らしいとは言えない笑みを顔に浮かべた金髪のシスターがいた。


 




 

 「嘉神くん!無事に目覚めたんですね!」


 佐野先生は先ほどのたつると同じような表情を浮かべながら僕の頭を撫でる。とてつもなく恥ずかしいので今すぐにやめてほしかったが、安心の表情の奥に少なくない焦りと恐怖を宿す佐野先生に向かってそんなことが言えるほど僕は肝が据わっていなかった。どうしようもないので諦めて好きにされている僕を見ながらシスターはやれやれ、と呆れた表情をしながら肩をすくめる。


 「まったく、今にも死にそうな顔で助けてくれって頼みこまれたから急いで来てやったのにとんだ無駄足だったな」


 そんなやや棘のある言葉に佐野先生がハッと顔を上げ、すぐにシスターの元へ向かい頭を下げ始める。


 「す、すみません!私が早とちりしたばっかりにご迷惑をお掛けしてしまい……」

 「……いや、怪我人の治療はもともと私の売りの一つだ。……だからそんな謝らなくていいっていうか……えーと、えーと、って!おいお前ら!なにニヤニヤしてんだ!」


 どうやらこのシスター、言葉は乱暴だが根はいい人らしい。その証拠に自分に向かって頭を下げながら平謝りしている佐野先生を前にオドオドしている。微笑ましい。


 しかしシスターか。いきなり異世界らしくてなんだかテンションが上がるな。


 僕たちの生暖かい視線に嫌気がさしたのか、シスターは話の流れを変えるためにわざとらしく咳をして話し出す。


 「コホン……えーとお前はまだ詳しく説明されてないんだよな。とりあえず自己紹介からしとくか。私はログレス魔法連盟所属のサリナ・アードルフだ。部署は無所属」

 「……嘉神裕太、2年3組11番。部活は無所属です。よろしくお願いしますアードルフ…さん?」


 想像以上に異世界チックな自己紹介に対抗してそれっぽいセリフを言ってみたが思った以上にダサかった。その証拠に後ろでたつると佐野先生がプルプルしながら笑うのをこらえている。


 「……クラスと出席番号って……ククッ」

 「……部活は無所属……ププ……」


 必死に我慢してるとこ悪いけど聞こえてるからな。


 「ニネン……?ブカツ……?まぁいいか。カガミユウタだったな。ユウタ、とりあえずあっちと合流するぞ。あと、私も17歳だからそんなかしこまらなくていいぞ。呼び方もサリナで構わない」

 「え?わかりま……わかった。……さ、サリナ」


 サリナが指差した方向には先ほどからワイワイと楽しそうな声ではしゃぐクラスメイトたちがいた。たつるがみんなに向かって叫ぶ。


 「みんな!嘉神くんが目を覚ましたよ!」


 ワイワイとしたなかでも特別響くたつるの声にみんなが一斉にこっちを向く。流石学級委員長だ。クラスメイトの統率が上手い。


 「え?嘉神……?あ、そうだ!気失ってたじゃん!」

 「そうだっけ?まいっか、心配してたよ〜」

 「うんうん、嘘じゃないよ〜」


 さっきの2人とは大違いの反応をするクラスメイトたちにサリナが少し引いたような表情をしながら僕の方を見てくる。


 「お前……こいつらに何か嫌われるようなことでもしたのか……?普通仲間ならもう少し心配するものだと思うのだが……」

 「嫌われてはない……と思う。……思ってる」

 「そ、そうか……私もコスプレとはいえ、こんな格好をしているんだ。何か悩みがあれば聞くくらいはできるぞ」

 「うん、今のところは大丈夫だけどいつか頼るよ。……え?お前シスターじゃないの?」

 「さっき言っただろ、私はログレス王国魔法連盟所属の魔法使いでこれは趣味だ。可愛いだろ?修道服」


 修道服を見せつけるためかその場でくるりと回るサリナ。……いや、可愛いけどさぁ


 「なんかシスターって異世界っぽいと思ってテンション上がってたのに……いろいろ台無しだなぁ」

 「なんだ?本物のシスターの世話になりたいのか?」

 「ヒィッ!え、遠慮しときます……」


 いくら着ている服が可愛くても本人の圧がまったく可愛くない。


 まったく、佐野先生を見習ってほしいくらいだ。あのいかにも怒ってますという雰囲気を出しながらも優し過ぎて強く怒れない佐野先生の姿に魅了された生徒の数は計り知れない。


 「はぁ、お前と話すとすぐに脱線するな。もういい、さっさと本題に入ろう」


 ため息を一つついた後に無理やり話を終わらせたサリナは水晶のようなものを持って僕の前に立つ。サリナの表情は真剣そのもので、修道服着て水晶玉持ってるとなんか怪しい占い師みたいだな。なんて茶化せそうな雰囲気ではなかった。


 「私たちの世界にはメモリーっていう怪物がいるんだ。姿は文字通りバケモノだったり、人間みたいだったりさまざまだが、まぁ基本的に人類の敵だ。もちろんこっちの世界の住人だって抵抗した。だがあまりに力の差がありすぎた。そしてギリギリまで追い詰められたこっちの世界の人類はついにある魔術を使うことを決めたんだ」


 話しているサリナの熱が高まっていくのを感じる。顔も赤みがかっている。僕たちには僕たち好みの異世界シュチュエーションがあるように、こっちの世界の人にも好きな異世界シュチュエーションがあるのかもしれない。


 「その魔術こそが大昔に神が人類に与えたとされる古より禁忌とされ、まぁ、なんやかんやあって今では5年に一回の恒例となった魔法。『大規模召喚魔法』そして、その魔法で召喚された人間には二つの共通点がある。一つはこの世界とは別の世界、異世界の住人であること。そしてもう一つの共通点、召喚された異世界人は1人に一つもれなく全員『()()()が与えられている!」


 テンションが最高潮に達したのかサリナはまるで叫ぶように高らかと言い、手に持ったものを僕の顔の高さに掲げる。


 「さぁ、この魔道具に手をかざせカガミ・ユウタ!この瞬間がお前の異世界ストーリーのプロローグだ!」


 サリナの興奮がこっちにまで伝わってくる。いや、今僕が感じている胸の高鳴りはサリナのものじゃない。このドキドキも、ヒリヒリも、ワクワクも全部僕自身のものだ!


 そんなごちゃ混ぜの感情に身を任せ僕は魔道具に右手をかざした。さぁ教えてくれよ、いったい僕にはどんな力が眠っているんだ?これからの僕のストーリーはどうなっていくんだ?


 強い光を放っていた魔道具はやがてその光を弱らせるとノイズががった文字を浮かび上がらせた。


 『カガミ・ユウタ スキル<模倣(コピー)>』








 時は少し進み5日後。他のみんなより長く眠っていたせいで念の為の安静を言い渡され、戦闘訓練への参加を禁止されてしまった僕はなんだかんだ暇らしいサリナから異世界についての授業を受けていた。


 「メモリーという存在は基本的に人々の記憶から生まれている。だからめちゃくちゃ弱そうなやつでもみんなに強そうや怖いと記憶されていればその分メモリーも強くなるし、その逆も然りだ。例としては本来戦闘力など皆無に等しいはずのカキのメモリーがあたって腹痛を起こしたっていう嫌な思い出がある人たちの記憶によって目があった対象に耐え難い腹痛を与えるなんていう厄介な能力を持っていたりする」

 「その逆っていうのはどんなやつがいるんだ?」

 「そうだな、蚊のメモリーなんかは本来世界で人間を殺している数はメモリーに次いで二位のはずなのにみんなが飛んでるやつを潰した記憶を持ってるせいでくしゃみで殺せそうなほど弱いぞ。子供のごっこ遊びの敵役の定番になってるくらいだ」

 「ふーん。僕がいた世界じゃ蚊が人間を殺しまくってるなんて常識みたいなもんだが、こっちじゃそこまで知られてなかったりするのか?」

 「いや、こっちの世界でもそれは常識だぞ。だけどな、それはただ知っているだけだ。知識と記憶ってのは同じようでけっこう違うもんなんだよ」


 お前も目の前で蚊に人が殺されたことなんてないだろ?と付け加えるながらサリナは僕たち異世界人用に作られた教科書のページを進める。

 

 「まぁこのように昔からお前たち異世界人とはメモリーの強さの認識が噛み合わないってことはあるあるだったんだ。飲みの席での鉄板トークに使う分にはいいが強さの認識のズレってのは想像以上に危険なんだ。それで作られたのがメモリーと私たち魔法使い、そしてお前たち異世界人の等級システムだ」


 等級システム。それほど細かく設定されているわけではないが僕たち異世界人用の寮のトイレにもポスターとして貼ってあり、絶対に覚えろという圧を感じる。まぁこの世界で生きていくためにはそれほど重要ってことなんだろうが。


 「私たちとお前たちの等級基準は基本的に同じだがメモリーの等級基準はちょっと特殊でな、直接的な強さよりは人類に与える害の大きさによって変わるんだ。現にここ数十年討伐報告の無いことから、小さな国一つくらいなら易々滅ぼせると言われているくらい強いとされている血液のメモリーより、生まれては人を襲いすぐさま討伐されている爆発のメモリーの方が等級は高い」

 「……なぁそのメモリーの等級基準、元々の目的考えたら破綻してないか?」

 「仕方ないだろ、この等級はメモリーの撃破報酬の額の査定にも使われるんだ。どれだけ強くても直接的な害の無いやつにそこまで報酬は払えん。それに、等級が高い方が強いというもの事実ではある。まぁそこらへんの判断は結局経験頼りだしな、少しずつ学んでいったらいい。さて、今日の授業はここで終わりにしよう。そろそろお前の初めての戦闘訓練の開始時間だ。ほら、お迎えが来たぞ」


 教科書を閉じ机の上を片付けだすサリナに習って僕の教科書とノートを閉じようとしたタイミングで扉がノックされる音が部屋に響いた。どうぞ、と声を掛ければ扉は開かれ、そこにはたつるが立っていた。


 「嘉神くん、もうちょっとで戦闘訓練始まるよ。嘉神くんは今日が初めてだしもしかしたら訓練場までの道がわからないかもと思って迎えにきたんだけど。よかったら一緒に行かないかい?」


 流石クラス1のモテ男本川たつる、最高に気の利く男だ。正直言って訓練場までの道は戦闘訓練というかスキルを使うのが楽しみすぎて完全に覚えているから別に案内してもらう必要など無いが、そんなこと言うほど僕も人間は終わっていない。僕はたつるの横に立つことで了承の意を示す。


 「よかったらサリナもどうだ?座学だけじゃなくて戦い方とかも教えて欲しいし」

 「別にいいぞ。私みたいな部署に所属してないやつは基本的に自分から動かない限り仕事はないんだ」


 ここ5日間割とつきっきりでいろいろ教えてくれていたから仕事とかはないんだろうかと少しばかり心配していたがそういうことだったのか。てっきり窓際族か何かかと思っていた。並んで訓練場までの道を歩く。訓練場は寮からは少し離れていて20分ほど歩く必要がある。ひたすら黙って歩くのもなんだから、たつるから僕がいなかった間の様子を聞くことにする。


 「なぁたつる、僕がいない間になんかあったりしたか?例えば誰かのスキルがめちゃくちゃ凄かったとか」

 「うーん、どうだろう。スキルの種類によって分けれて訓練を受けていたから僕も全員のスキルを知ってるわけではないんだよね。それに僕たちのグループの中にはチート!ってほど強いスキルを持ってる人はいなかったからね。ちょうど昨日他のみんなともなんか思ってたのと違うねって話してたところなんだよ」


 なんだって!?そこまで強いスキルはなかっただと!?たつるは平然と話しているがこれは僕にとってはかなりショックなことだ。もしかしたら僕のスキル<模倣>もそれほど強くないのかもしれない。なんて不安が一瞬にして頭の中をいっぱいにする。


 「それもそうだろ。そもそも一人一人がそんな強かったら5年に1度なんて周期で、それも40人なんて大人数召喚してない。戦ってもらうメリットに対して敵対された時のリスクが釣り合っていない。まぁお前たち日本人は理解が早い上に大体のやつが協力してくれるから助かっているがな」


 全力でショックを受けている僕の顔を見て呆れたようなジト目をしながらサリナが妙に説得力のある──いや、説得力しかない説明をする。そりゃそうだ、チートってのは元々ルール外って感じの意味だった気がする。そんなやつ40人もいらないよな。


 「僕のチート無双が…………ハァ」


 割と本気で落ち込んでため息をつく僕を見てたつるは慌てたように話題を変える。


 「そ、そういえば嘉神くん!佐野先生が言ってたよ。『嘉神くんに授業するのは私の役目なのにサリナさんに取られた!』って」

 「そういえば佐野先生ここ最近見てないな。サリナだって僕に授業するために僕の部屋に来てるわけだし、別に男子寮が女性厳禁って訳じゃないんだろ?」


 そんな僕の疑問にサリナが答える。


 「あぁ。別に異性の寮に入ろうがそこで男女の営みをしようが個人の自由だぞ。なに、お前たちだって立派な思春期の男子だ。好きにしろ。ただし、責任は取れよ。もし取れないってんなら最初からちゃんとゴ──」

 「サリナさん!?ちょ、ちょっと待ってください!?」


 全くと言っていいほど歯に衣着せぬサリナの発言にたつるが顔を真っ赤にして止める。こいつもしかして相当に初心なのか?モテ男なのに?女の子にモテるけどそっち方面には全く興味ありませんってか?うわー、無いわー


 「なんだ、いきなり叫んで?もしかしてあれか?私とそういうことしたいのか?でもごめんな、私、お前のことをそういう風に見たこと無いっていうか……」

 「まだ出会って5日だって言うのに異性として見るも何もないですよ!いったい何をするって言うんですか!?」

 「何をするってお前、ナニをするに決まってるだろ、言わせんじゃねーよ。それとも女の子に真昼間からこんなこと言わせるのが性癖なのか?歪んでんな」

 「違います!僕が言いたかったのは女性の、しかも聖職者の身である方がそんな……げ、下品なこと……」

 「いや私聖職者じゃないぞ、この格好は趣味だ。どうだ?可愛いだろ修道服」

 「そういうことを言いたいわけではなく!……はい、可愛いです!可愛いので頭でグリグリするのはやめてください!か、嘉神くん!嘉神くんも可愛いと思うよね!?」

 「……ケッ、そうやっていっつも口説いてんのかモテ男野郎め!」

 「急に何の話!?」


 先ほどの発言のせいで僕からの好感度が急激に下がり始めているなんて夢にも思っていないであろうたつるは僕からの急な塩対応にショックを受けたような顔をする。

 

 「悪い悪い、冗談だって。それより佐野先生がなんで来なかったか教えてよモテ男くん」

 「だからモテ男って……もういいや。それについては簡単な理由だよ。佐野先生に与えられたスキルがかなりのじゃじゃ馬だったらしくてね、今は魔法研究部ってところで上手く扱うためのアドバイスをもらっているらしいよ」

 「うげ、よりにもよってあそこかよ……サノセンセイとやらの無事を祈るばかりだな」


 魔法研究部という名前を聞いた途端に顔を顰めるサリナ。もしかしてその魔法研究部をいうところは危ないところなんだろうか。そんな僕たちの不安を感じ取ったのかサリナは苦笑しながら訂正する。


 「たぶん身の危険は無いと思うぞ。今のは私の言い方が悪かったな、すまん。あそこのやつらはあれでも安全第一を謳っているようだからな、サノセンセイが怪我をするなんてことはないだろう」

 「じゃあなんでさっきはあんな反応したんだよ」

 「あいつらは名前の通り魔法の研究に命をかけていてな、どうやら私が使う回復魔法は特別だったらしくてな。一体どんな力なのかと調べるためにひたすら私に回復魔法を使わせようとしてきたんだ。めちゃくちゃ魔力を使わせられるのも堪えたが、運ばれてくる怪我人だけじゃ足りないと、ナイフで自らの腕を斬りつけようとするあいつらを止めるのが1番疲れた」


 思い出したくもない、と言いたげに顔をげんなりとさせるサリナ。なんというか……お疲れ様としか言いようがない。しかし相手に一方的に振り回されるサリナか。


 僕とたつるはサリナの顔を少し見つめ、想像つかないな、と首を横に振る。そんな僕らの様子にムッとしたサリナが僕たちの脛を蹴る。2人揃って情けない声を上げてしまった。


 「ったく……おい、見えてきたぞ。いつまでバカ丸出しの顔してやがる、気合い入れ直せ!」


 僕の肩をバシバシと容赦なく叩くサリナに何か言い返してやろうと一息吸ったところで、今度は背中を蹴飛ばされる。


 「私にかまってないでさっさといけ。今日はある意味お前の異世界デビュー日でもあるんだからな」


 そう言って僕の首に腕を回すサリナの表情はどこか興奮した様子だ。初日にも思ったけど、こいつ、こうゆうシュチュエーション絶対好きでやってるよな。


 「お前のスキルはまだ名前しか分かってないんだ。さっさといって自分について知ってこい!未来の英雄候補」


 「っ……!そうだな!じゃ行ってくる!」


 「あっ!待ってよ嘉神くん!」


 こうして僕の異世界生活は始まった。一体これからどんなことが起きるのかまだまだ予想もつかないが、きっと楽しいに決まってる!


 「よっしゃー!待ってろよ、僕のチートスキル!」



 

 


 


 

嘉神裕太 今作品の主人公。ずっと異世界に憧れて、妄想ばかりしていたためいろいろ受け入れるのが早いです。彼のスキル『模倣』の詳細は次で判明するのでお楽しみに。きっととんでもないチートスキルなんだろうなぁ(タイトルから目を背けながら)


サリナ・アードルフ 今作品の準主人公。俗の言う相棒枠です。彼女も彼女で、異世界への憧れが強く今回のいろいろをノリノリでやっていました。今回の話の最後でなんか流れで新たな門出を見送るポジションをノリノリでやっていましたが、後から自分も訓練場でユウタの指導をすることを思い出して1人悶えていました。かわいいね。

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