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DAY1-2

 宅配のトラックが見えなくなってから私は台車に積まれた大量の段ボールを事務所の奥に持って行った。先月ようやくなくなったのにまた補充された……。そう考えると無意識にため息が溢れた。段ボールの中身は『まんまるお揚げの京風きつねうどん』というカップ麺。要はインスタント食品だ。


 それから私は再び事務作業に戻った。エクセルのシートに今月のタレントたちへの報酬を打ち込み、それが終わると来月の彼らのスケジュールを組んだ。エレメンタルに所属するタレントは基本的に副業としてタレント活動をしている人たちなのだ。だから前もって段取りしなければいけない。


 仮のスケジュールを組んでは彼らのメールに来月の仕事内容を送っていった。すぐに返信は来ないけれど早めに打診しなければ予定が組めない。まぁ、どれだけ入念にスケジュール管理してもイレギュラーは起こるのだけれど。


 でも……。私はこの地味で根気のいる作業が割と好きだ。一人でパソコンに向かってデータを打ち込んだり、タレントたちと予定を組んだりするのが性に合っていた。たぶん私は根っからの事務女子なのだ。逢川さんみたいに本気の営業はできないけれど営業事務なら同年代の子たちより多少は優秀だと思う。


 そんな感じで仕事に集中しているとあっという間に一五時を回ってしまった。定時まであと二時間。この調子なら明日は気持ちよく東京に行けると思う――。

 

「こんにちはー」


 一六時半。学生アルバイトの美鈴ちゃんが事務所に顔を覗かせた。彼女は普段のラフな服装ではなくセーラー服姿だった。そういえば佐倉工業高校の男子は学ランだっけ。だから女子はセーラー服なのか……。とかなりローカルなことを思った。当然そのことは口には出さない。あくまで「お疲れ様です」とにこやかに答えただけだ。


「お疲れ様です! ごめんね麗子さん。忙しいのに」


「いえいえ。それで……。今日は何を?」


「あーうん。ほら、ウチらの興業さぁ。最近ずっと聖那と二人きりじゃん? だから殺陣組みが難しくてね。だから麗子さんにシナリオ相談しようかなぁって思ったんだ」


 美鈴ちゃんはそう言うと事務所のソファーに腰を下ろした。そして「聖那も今から来るから」と付け加える。


「……了解です。夏木さんはすぐ来ますか?」


「うん。さっきLINE入れたらあと一〇分くらいで着くってさ」


「分かりました。では夏木さんが来る前に話の整理だけしときましょうか」


 それから私は事務所内のホワイトボードに週末興業の資料をマグネットで留めた。資料には『魔法少女興業行程表』と書かれている。これが最近エレメンタルが力を入れている週末興業なのだ。要は魔法少女に扮したタレントたちによるミュージカルみたいなものだと思う。


「すげーねコレ」


 私がそうやって資料を整理していると不意に美鈴ちゃんがそう呟いた。そして彼女は大量に積まれたカップきつねうどんの段ボールを左手でポンポン叩いた。当然の反応だ。普通はタレント事務所にカップ麺がロット単位で置かれていたりしないと思う。


「ああ、良かったらそれ好きなだけ持ち帰ってください。一応私の私物なので」


「は? 私物って……。麗子さんコストコで大量買いでもしたん?」


「そうではないです。まぁ……。色々事情があるんですよ。もし大きくて運べないようなら私の車で家まで運びますからね」


 私は美鈴ちゃんのオーバーリアクションに対してサラッと返すとホワイトボードに向き直った。そしてそれから程なくして週末興業に参加するもう一人のタレント、夏木聖那が事務所にやってきた。


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