温泉に落としたのは、何のたまごだったのか誰も知らない
※ 子供に読ませる時に、残酷に感じる表現があるため、タグをつけています。
雪山で遭難した男は寒さに震えていた。ふらつきながら暖かな暖炉の炎に誘われて来た。
そこには大きな鍋でおでんを煮る暖炉の魔人がいて、男を見るとニヤっと笑った。
寒さに震える身体が凍りついたかのように、男は倒れる。
────気がつくと男は暖炉の側に寝かされていた。
まだ、生命はある。食われる……そう思った男は、煮え加減を見る魔人の隙をついて逃げ出した。
間一髪とは、まさにこの事だろう。男と一緒に煮るつもりだったのか、ポケットの中にはたまごが入っていた。
魔人の作るおでん鍋は熱々で、美味そうだった。
────食われるのが自分でなければ。
男は雪深い山の中を闇雲に走った為に、魔人に食われずに済んだだけでこのままだと凍死すると思った。
一面雪の世界で白い靄が浮かぶ。吹雪いて来たのだろう。男は手足の感覚がなくなり自分が動いているのかどうかもわからなくなった。
「湯気……か」
男はありがたいと思った。こんな雪の中に温泉が湧いてるなんて、ついている。
怖いのは野生動物達がいる場合だ。熊は勿論、猿は結構凶暴だ。弱った男では襲われたら先ず勝てない。
────男は温泉の温度を確かめるように、そっと手を湯に入れる。
寒さで麻痺した手を溶かすように、ジンジンと血が巡る。
男は作法に構っていられず、服のまま湯に沈む。
暖まった手で顔も洗う。温泉から出た後の事など忘れて身体を温めていた。
────ブクブクッ……。
ザパァんと現れたのはたまごの女神だ。
────あなたの漬けたのは
……金のたまごですか?
……銀のたまごですか?
……普通のたまごですか?
はぁ、何を言っているんだと思う男だったが、ポケットのたまごが入っていない事に気がついた。
「普通のたまごだ。返してくれ」
金だろうと銀だろうと、こんな雪山で渡されてもクソの役にも立たない。
暖まった後に役に立つのは腹を満たす普通のたまごだ。
「正直な方ですね。ならば金と銀のたまごをあげましょう」
何を言ってるんだコイツ。
「いや、普通のたまごを返してくれ」
「あらあら、ならばブラフマーのたまごと交換しましょう」
「このたまごの女神、交換言いやがったな」
金だろうと宇宙のたまごだろうと、食えないたまごなどいらない。
「それなら雪山の麓にに孵してあげます」
それなら……と言いかけかえす意味に気づいた時にはもう遅い。
無事に麓に孵った男は雛、つまり赤ん坊として誕生した。
魔人のたまごが普通だったのか、それは彼も知らない事だ。
お読みいただき、ありがとうございました。この物語は、なろうラジオ大賞5の投稿作品となります。
金と銀のたまごについては、斧のアレです。金のたまご繋がりとしてブラフマーのたまごは、黄金のたまごの中にブラフマーが入ってしまう神話だった気がします。
下に恐ろしきはたまごの女神の食欲でしょうが、このおでん種のたまごは魔人のもの。男は当然中身は知りません。
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