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弟子ガチャ ~お願いだからヤミ堕ちしないで~  作者: 取内侑
第一章【最強の騎士見習いと移ろい】
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第八話 憤慨の冥王


 クライズは知らないベッド、知らない部屋で目を覚ます。

 新しく貰った民家とは違い、四天王時代を思い出すような豪華絢爛な部屋だった。


「……あれ……何してたんだっけ……頭痛ぇよぉ……」


 直ぐに頭痛と吐き気が襲い、元凶が酒である事を思い出す。


「お目覚めですか? クライズ様」

「ん?」


 ベッドの脇に立っていたのはメイド服を身に纏った無表情な少女だった。

 黒髪を綺麗に纏め、ホコリを一つも纏っていない美しさから品の良さが漂っている。

 優雅な所作でお辞儀をすると、水を金のコップに注ぎ差し出して来た。


「君は確か、ガルのところのメイドだよね?」

「はい」


 クライズは聞きながらコップを受取り、こうなった経緯を思い出そうと脳を回転させた。


「昨夜、酔われてしまったクライズ様を、ガルファンド様が介抱したのです。覚えておいでですか?」

「ごめん、さっぱり。で、そのガルファンドはどこへ?」

「朝からお弟子様たちの稽古へ赴かれました。……お出かけでしたら、どうぞこちらを」


 メイドは綺麗に畳まれた衣服と、木の杖をクライズに差し出す。


「僭越ながら、お召し物はこちらで洗濯させていただきました」

「え、あ、うん。ありがとう」


 クライズはメイドに見送られて部屋を後にし、だたっ広い廊下をコツコツと音を響かせて歩く。

 壁の至る所に施された装飾には金が用いられ、床は自分の姿が映るほどに磨かれていた。


「なんだろうね、この扱いの差は」


 クライズが四天王だった頃でも、木造で質素な家を貰っただけだった。

 極めつけは、廊下を行き来する若い弟子たちだ。

 クライズとすれ違う弟子は立ち止まって会釈し気品の高さを物語る。


「ん」


 しばらくの間、白の中を歩き回っていると、クライズは背後に気配を感じ、足を止める。


「クライズ様、どなたかお探しですか? ガルファンド様はただいまお会いできないので、お時間をいただきますが……」


 不自然に徘徊していたことが仇となってしまい、メイドが跡を付けてきていた。


「あぁ、ごめんね、別に誰か探しているとかじゃ……」

「左様でございますか……よろしければ朝食のご準備が出来ていますので、いかがですか?」

「あーごめんね、お腹空いてないや」


 ふと、視界の端に金色に輝くものが移り、クライズの注意はメイドから窓の外、中庭を歩いている人影へ向かった。


「フィル……」


 今となっては元弟子となったフィルが、木剣を片手にどこかへ急いでいた。


「メイドさん、あの金髪の子……」

「フィルシアス様でございますね。昨晩弟子入りされた方です」

「弟子入り……したんだ」

「フィルシアス様にお取次ぎしますか?」


 メイドは無表情で気の利いたことを言った。

 だが、クライズは首を横に振る。


「でも……稽古の様子を覗くくらいならしたいかも」

「かしこまりました」


 メイドに案内されて地下の修練場へと向かう。

 ロウソクの炎に照らされた修練場は牢獄のよう仄暗い空間になっていた。


「なんだか、凄いところにあるね」

「はい、地下の修練場は頑丈に造られておりますので、優秀なお弟子様方の魔法や剣技にも耐えることが出来ます」


 話を聞きながら階段を下ると重々しい鉄の扉が姿を現す。

 獅子の文様が彫られた扉はガルファンドの趣味と見れば荘厳だが、傍から見ればまがまがしい物だった。


「わたくしはこれ以上は許されておりませんので、扉の開閉はご自身でお願いいたします」

「あ、うん。何から何まで悪いね」

「あの……クライズ様」


 メイドは初めて無表情を崩し、心配そうに眉をひそめた。


「お弟子様……フィルシアス様なのですが」

「フィルが何か?」

「その……」


 メイドは何か言い淀んでいる様子だった。


「わたくしはお弟子様同士の関係に口を挟むことは出来ません……ガルファンド様に許されてはいないのです」

「いいよ、黙っててあげるから。話して?」

「その……フィルシアス様は過去に嫌がらせを受けていたことはありますでしょうか?」

「……」

「正直にお話させていただきますと、フィルシアス様は他のお弟子様方と馴染めていない様なのです。その、フィルシアス様も突然現れた物ですから、努力して選抜された他のお弟子様たちに不満が溜まっているようでして……」

「やっぱりかー」


 クライズは顔に手を当てて項垂れた。


「や、やっぱり?」

「はぁ、何となく懸念してたことが現実になるとは……教えてくれてありがとうね」


 メイドはキョトンとした表情を浮かべると、ほのかな笑みを浮かべてお辞儀をした。

 気を取り直して扉を開けようとしたその時、扉の向こうから激しい衝撃が襲い掛かってくる。

 触れずとも開いた扉を抜けて修練場に入った。


「どうしたの? 新人ちゃん、五人相手でも負けないって言ってたよねぇ?」


 クライズが目の当たりにしたのは木剣を持った五人の見習い騎士たち。

 相対するのは跪いて息を荒立てているフィルだった。


「えぇ……思った以上に不仲じゃん」


 よく見れば、見習いたちの先陣を切っているのは加護を持ってフィルの魔法を打ち砕いて魅せたゲルニカだった。


「あんまり調子に乗るなよ。どこの出身か知らないけど、田舎者がガルファンド様の弟子になれること自体ありえないんだから!」


 真面目で大人しそうに見えた彼女だったが、クライズが見ているのも気づかず、下劣な顔をしている。


「はぁ……はぁ……」


 フィルの額から鮮血が滲む。


「あのロクでもない師匠のところに帰ったら?」

「あなたよりは……まともですよ、あの人も」


 フィルは挑戦的な笑みを浮かべて、ゲルニカを煽った。

 思わず「おほっ」という声が出そうになったクライズだったが口を押えて堪える。


「っ……じゃあ、あいつと同じように満足に歩けない体にしてあげる」


 ゲルニカは木剣を投げ捨て、拳を握りしめた。


「あんた加護の使い方知りたいって言ってたよね。教えてあげる」


 拳は光を放ち始めた。

 “戦神の加護”。

 フィルの痩躯に似合わない馬鹿力の正体だ。

 だが、ゲルニカが纏う戦神の加護は練度が桁違いだった。

 突進したゲルニカは姿勢を低くし振りかざした拳が地面と擦れて火花を散らす。


「――」


 見え透いたアッパーに、フィルは同じ戦神の加護を持って防御姿勢を取った。

 だが、ゲルニカの背後に構えていた弟子たちが、薄ら笑いを浮かべて氷結魔法を放ち、フィルの足元が凍り付く。


「――え」


 続いて巻き起こった風魔法にフィルの足が取られ、防御姿勢が崩れる。


「甘ぇんだよ雑魚!」


 刹那。

 雷を纏った一閃が暗闇を照らし、凄まじい破裂音と共にゲルニカの拳を弾いた。


「はーい、そこまで」

「なっ!」


 雷と共に目の前に現れたクライズに、ゲルニカとフィルは驚愕の声を上げる。


「ク、クライズさん……?」

「なんでここに冥王が……!」


 ゲルニカの背後でもクライズに慄く声が上がる。


「稽古も結構だけどさ、流石に五体一はやり過ぎじゃない? これがガルファンドの指示だって言うなら謝るけどさ」


 誰もクライズに返答はしなかった。

 ゲルニカに至っては、弾かれた右腕の震えを押さえるので精一杯だった。


「フィル、大丈夫?」


 クライズは恐る恐る、背後のフィルへ笑顔で振り向いた。


「勝手なことしないでください」

「え?」

「あなたはもう師匠じゃありません。幼い少女に酔って襲い掛かるばかりじゃ飽き足らず、店で暴れ回ってガルファンドさんに迷惑を掛けるなんて……」

「い、いや、それは」

「一時でも、あなたが師匠であったことが恥ずかしいです」

「――」


 フィルの鋭い言葉がクライズの胸とトラウマを貫いた。


「な、なんでそんな事……言うの?」

「……」


 フィルは震えながら立ち上がり、頭を押さえて修練場を後にする。

 残されたクライズは歯を食いしばり、その場にいた弟子たちを皿に怯えさせた。


「だあぁぁぁ! もおおぉぉぉ!」


 急に大声を上げたクライズに、ゲルニカ達は頭を抱えて伏せた。

 それをよそに、クライズはポケットに隠し持っていたボトルを口につけて、中身を一気に飲み干す。

 しばらくの沈黙が仄暗い修練場を支配した。


「くふっ……あはっ……あははははははっ!」

「あ、あの、クライズ……様?」


 クライズは不敵な笑顔のままゲルニカ達へ視線を向けた。

 何かが縛り付けるようにゲルニカ達の背筋を伸ばさせる。


「あのさ……ガルファンドって今どこにいるのかな」

「え、えっと……」

「今すぐ呼んでもらえる? 冥王がお怒りですって」


お読みいただきありがとうございます!

気に入っていただけましたら、公告したの☆☆☆☆☆から評価していただけるとありがたいです!

これからもよろしくお願いします!

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