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弟子ガチャ ~お願いだからヤミ堕ちしないで~  作者: 取内侑
第一章【最強の騎士見習いと移ろい】
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第四話 魔法解除の伝授

こんにちは、本日もよろしくお願いします。

 

 獣王ガルファンドがクライズ達の新居を訪れてから一週間が経過した。

 依然としてフィルは自分の自主鍛錬に励み、掃除や料理、洗濯などはクライズが担当している。

 風は強いものの、天気は晴天。クライズは清々しい気持ちで朝から家事をこなしていった。


「フィルー、洗濯が終わったら街へ買い物に行くんだけど、欲しいものあるー?」


 クライズは洗濯物を干しながら庭先で素振りをしているフィルへ声を掛けた。


「では木剣の柄に巻く用の布をお願いします」

「わかったー。他にはー?」

「あとは、シチューが食べたいです」


 フィルからの要望を聞いたクライズは洗濯に戻る。


「わかったー、ふふっ、本当にシチュー好きだなぁ」


 この一週間でフィルはシチューをはじめとした、ミルクを使った料理が好物であることが分かった。

 クライズは今日もフィルに喜んでもらうために家事を――


「――じゃねぇだろ!」


 自分が何の立場なのか分からなくなったクライズは叫んだ。

 直ぐに、素振り中のフィルから木剣を取り上げ、向かい合って座った。


「あのさ、私って師匠だよね?」

「はい」

「君に色々教える立場だよね!」

「はい」

「なんで私、家事ばっかしてんの?」

「知りません。クライズさんが勝手に掃除したり料理したりするので」


 クライズは普通に無言でゲンコツを振り下ろした。


「今日からはしっかり師匠らしくフィルに色々教えたいと思います!」

「やっとですか?」


 フィルは頭から煙を出しながら平然とした態度で尚、クライズの癇に障った。


「と言っても、フィルにはまだ『魔法解除』は無理だし」

「む……なぜですか?」


 フィルは目を細めてクライズを見上げた。


「だって、魔力量は凄いけど基礎も怪しいし、何より、経験が足らなさすぎる」

「訓練学校では負けたことがありません。座学も主席です。それでもですか?」

「うん。学校じゃ学べないことだよ」


 不服そうな表情を浮かべるフィルに対して、クライズは困り笑顔を返した。


「『魔法解除』の基本、“マナの操作”とか教えてもらってないでしょ?」

「……は?」


 フィルは一瞬だけ固まると、すぐに目を泳がせて狼狽え始めた。

 マナとは、空気中に含まれているエネルギーの一種で、生物に流れている生命エネルギーと反応することで燃えたり、凍り付いたり、時には風や物体にも変化する……など、様々な反応を示す元素だ。

 空気中に含まれているため、決して、触れたり操作できるものでは無い。


「マ、マナを操作!?」

 

「期待通りの反応をありがとう。最初はみんな同じ反応するよ」


 クライズは説明を省き、両手を出して、右手のひらに炎を生み出す。


「例えば、この魔法は“マナ”を動力源に燃えているでしょ?」


 クライズは右手の炎に左手を近づけ、何かを摘まんで引き抜くような動作を見せる。

 途端に、燃え盛っていた炎は消え、左手には緑色のオーラのような物が纏わりついた。


「火に酸素が必要なように、魔法にはマナが必要でしょ? 私がやっているのはマナを――」

「仕組みは分かります! ただ、人間業じゃありません!」


 急に大きな声を出したフィルに、クライズは目を丸くした。

 

「マナの操作なんて意図的に天気を変えるようなものです!」

「確かに難しいけど……そこまで言う?」


 予想以上の言われように、クライズは困惑した。


「わたしには出来ないです」

「や、やる前から諦めるの? 教えてあげるからさ、練習してみようよ」


 クライズはフィルを立ち上がらせ、数歩距離を取った。


「あの……クライズさん……」

「大丈夫! 軽めの風魔法を打つから! 魔法の中にマナを感じてみて!」

「感じるって……」


 不安そうな表情を浮かべるフィルに対して、クライズは伸びをしながら、容赦のないやる気を見せた。


「行くよー」


 直立するクライズを中心にそよ風が巻き始め、旋風となってフィルへ向かった。

 身体を押されるような強風がフィルを襲う。

 最中、フィルは目を閉じて風に意識を統一させた。


「いい調子、目は開けた方が良いよ」

「は、はい!」


 フィルが目を開けた瞬間、塊となった砂が風に乗ってフィルの顔面に直撃する。


「ぎゃあああああっ!」

「フィルーー!!」


 少し間をおいて。


「今度は少し魔法を強めてみるよ。強力な魔法ほどマナの存在は掴みやすいからね」

「は、はい」

「練習しやすい威力を探していこう」


 フィルが落ち着きを取り戻すと、クライズは再び魔法を放った。

 先ほどよりも強い風がフィルに襲い掛かる。

 重心を前に倒さないと吹き飛ばされてしまうような風は砂や芝生を巻き上げ、刃と化した。


「う……ぐっ……!」

「どう? 何か熱いモノが風の向こうにあるの分からない?」

「わ、わから……ないです……!」

「じゃあ、少し威力を上げてみるね」

「え」


 前傾姿勢になっていたフィルの身体は吹き荒れる突風により、縦回転しながら彼方へと飛んで行った。


「フィルーー!!」


 風呂場にて。

 濡れた金髪、水を弾く艶やかな柔肌。

 クライズは雨や泥で汚れたフィルの身体を洗い流していた。

 フィルの金髪はシルクの様な手触りで、石鹸とは違う花のような匂いがした。

 クライズは終始うっとりしながらフィルの髪の毛を丁寧に洗う。

 だが、楽しんでいるのはクライズだけで、フィルはクライズの足の間でバツが悪そうに頬を膨らませ、頭を洗われていた。


「あの……怒ってる?」

「別に……」


 フィルは短く呟いたが、不機嫌であることは確かだった。

 今回は少しやり過ぎたかもしれないと、クライズは内心反省していた。


「ま、まぁ、ちゃんと練習すればできるようになるからさ」

「……」


 気まずい空気の中、フィルの濡れた髪の毛を手櫛でやさしく解す。


「クライズさん、魔法にも精通しているんですね」

「ま、まぁ魔法の方が得意かな。加護は持ってないし、魔法と剣術で補うしかないからね。剣術はどんなに訓練を積んでも実践が全てだし。座学で伸ばせる魔法は好きだったよ」


 フィルは振り返ってクライズの顔を見た。


「加護……無いんですか?」


 驚愕するフィルに対して、クライズは頷いた。


「これを聞いても、みんな同じ反応するよ」

「……仮にも元! 四天王ともあろう人が?」

「元を強調しなくてもよくない!?」


 少し間をおいて、顔を背けたフィルの小さな肩が少し落ちる。

 彼女の小さな背中からは幻滅が滲んでいるように見えた。


「……フィルはさ、どうして王国騎士になろうと思ったの?」


 クライズはフィルの金髪を束ねて水を切りながら質問した。

 植物性の頭髪用オイルを手に取り、湿った髪の毛へ馴染ませていく。


「……力になりたい人がいたんです」

「憧れの人?」


 フィルは頷いた。


「わたし、こう見えて、訓練学校ではあまりみんなと馴染めていなかったんです」

「へ~、意外~」


 クライズは心にもないことを言った。


「靴を隠されたり、教科書を汚されたり……色々な嫌がらせを受けました」

「騎士の訓練学校が聞いて呆れるね。騎士道精神の欠片もないじゃない」


 フィルはクライズの言葉に短く笑う。


「そんな中、わたしのことを助けてくれる人がいました。名前も知りませんし、兜で顔も隠れていたのでどんな方か分かりません。ただ、現役の騎士団の方だと伺っています」


 クライズはいつも不愛想なフィルが以外にも人情味のあるエピソードを持っていることに、笑顔が零れる。


「じゃあ、強くならないとね。その人と肩を並べられるように」

「はい。当面の目標はクライズさん、ガルファンドさんを超えることです」

「それは頼もしい。フィルなら意外とすぐに四天王になれるとおもうよ?」

「意外とは余計です」


 フィルはそう言って立ち上がり、浴槽に浸かった。

 むくれ顔を隠すように顔の半分までお湯の中に入る。


「あの……魔法解除って誰でもできるものなんですか?」

「んー……才能があれば。フィルは出来ると思うよ?」

「クライズさんの他に出来る方は?」


 クライズは桶に入ったお湯を体に掛けながら、首を傾げた。


「んーー……ガルファンドならできるかもね」


 フィルの脳裏に、巨漢の騎士、獣王ガルファンドの姿が過る。


「明日さ、一緒に街に行こうか」


 クライズは自分の身体を石鹸で洗いながら提案した。


「え?」


 フィルは視線だけをクライズへ向けた。


「本当は今日行く予定だったけど、今日は疲れちゃったからね。買い出しついでに、ガルファンドに会いに行ってみる?」

「会えるんですか?」


 少しワクワクした声音で聞いてきたフィルに、クライズは提案をしておいて嫌な予感を覚えた。

 以前、ガルファンドが新居祝いを持ってきた際に、フィルが見せた憧憬の眼差しが脳裏を過ったのだ。


「あ、無理にとは言わないよ? もしも自主鍛錬してたいなら……」

「行きます。王都に来てから、ゆっくり買い物をしたことが無かったので」

「……そ、そっかぁ」


お読みいただきありがとうございます!

気に入っていただけましたら、公告したの☆☆☆☆☆から評価していただけるとありがたいです!

これからもよろしくお願いします!

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