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【完結】最強聖女はとにかく魔女と間違われます  作者: 柊らみ子
第四章・聖女の証

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20・眠る少女

「これは……素晴らしい!」


 扉の中へ足を踏み入れたカーネリアが、部屋の中を見回し歓喜の声をあげた。部屋――というより、まるで大聖堂だ――の天井は高く、壁はこれまでよりも強い光を放つ鉱石で作られ、その壁からは樹木のように太い水晶が七本突き出している。水晶には鈍色に光る管が取り付けられ、すべてが玉座のように数段高くなっている奥に置かれた小さな箱に繋がっていた。


「こんな場所があったとは……! この遺跡は王都地下のものよりレベルが低いのかと思ったが、こここそが古代文明(ロストテクノロジー)の中枢……ッ! すべてと繋がっている、そうだな?」


 だだっ広い広間の真ん中で踊るようにくるくると全体を見回しながら、カーネリアは興奮気味に話す。


「そうよ。王都の遺跡は全部、ここのために存在しているの」


 歩きながら、シオンは淡々と答えた。嬉々として水晶を見上げるカーネリアを通り越し、奥の箱の間で足を止める。近くで見ると丸みを帯びたその箱は、まるで棺のようだった。

 シオンは、愛おし気に棺の表面をそっと撫でる。つるりとした、冷たい感触が指に伝わるがそれだけだ。なにも起こらない。シオン――否、彼女の中にいるフィロメラが、シオンの両手を見つめる。


「そうね……。聖女の身体じゃないものね」

「さて。面白いものを見せてもらったが、これがシステムの中枢であると分かったところで、謎が残る。お前は、この遺跡めがけて落ちてきたんだろうが、ここが誰にも発見されなかったらどうするつもりだったんだ?」

「……まあ、いつかは発見されるでしょ」

「おや、あまりに杜撰な答えだな。そもそも、今回落ちてきたこと自体、お前にとっては計算外だった。だから、発見されないように静かに落ちてきたんだ。誰かに寄生しないとなにもできないのだから、本来は目立つ方が都合がいいはず。その女(シオン)が偶然発見したから良かったようなものの、そうじゃなければこのまま埋もれていた可能性もあるな」


 カーネリアは水晶を順番に観察しながら、適当に話を進めているようにも見えた。水晶をよく見ると、それぞれ少しずつ色が違っているのが分かる。青い水晶のところで手をかざし、カーネリアは確信を得て、にやにやと笑った。


「これは、私の魔力だな。結界に注いでいるように見せて、毎日少しづつここへも送っていたのか。そんなに大量の魔力を集めて、なにをするつもりだ? いや、()()()()()()()()()()()?」


 つかつかと、フィロメラの側に歩み寄る。すべての水晶から魔力を受け取っている箱を見おろし、彼女は表面をさらりと触れた。自身の魔力を受け取っているものを触ったところで、拒絶反応は起きない、と知っていての行動だ。ヴン――と独特の機械音を響かせて、触れた上部はガラスのように透き通り、内部が見えるようになる。


「これは――」


 中には、少女が一人、眠りについていた。絹糸のようなプラチナブロンドに白磁の肌を持つ、美しい少女。目が開いて頬が染まれば、どれほど可憐になることだろう。


「わたしの身体。この身体さえあれば、わたしはもう一度立ち上がれる。いまのように堕落した、平和なんて仮初の楽園に浸かりきって終わりに向かってる世界を助けられるのよ」


 少女を見つめて熱っぽく語るフィロメラに、カーネリアは深いため息をついて、呆れたように笑った。

 否。

 本気で、呆れ返ったのだ。


「世界を、救う? 平和でなによりだとは思わないのか? お前、この平和をぶち壊すためにわざわざ隕石に乗り移って、魂だけになってやってきたっていうのか? どうしようもない、バカ者がいたもんだ」


 大げさに両手を広げて肩をすくめる。フィロメラはそんな彼女を見て、「バカはどちらか自ずと分かるわ」と口にした。


「以前もそうだった。魔女を封印して、平和が訪れて、文明が発達して――皆、いつの間にか堕落してなにもしなくなった。そうやって世界は、ゆっくりと滅びに向かっていったのよ」

「ほう。それは初耳だ。どうやら魔女と聖女の話は、都合の良い部分だけわざとに残されてきたようだな。一度この世界が滅びているとは」


 そんなことを聞かされても、カーネリアは動じない。それどころか「だから?」と言い放った。


「だからこの文明も放っておけばもう一度滅びると? そうならないように、堕落の兆候が見えたら自分が導いてやろう? あの壁画の意味はそういうことか。なるほど、謎が一つ解けた」

「そこまで理解しているのなら、邪魔をしないで」

「ふむ。この身体へ魔力を送っていたのは、貯蔵のためか。だが、この器には半分も魔力が溜まっていないぞ? やはり、時期を間違えたな」


 はぐらかすように口にすると、カーネリアは棺の前からおりた。興味を失ったようにそのまま広場を歩いていく彼女を、フィロメラの声が追いかける。


「わたしは――聖女は、死ぬわけにはいかなかった。こんなちから、好きで授かったんじゃないのに。わたしは、魔女を封印したときから、わたしではなくなった。ただ聖女として、世界を癒し続ける、それだけの存在になった。死んでもすぐに生まれ変わって、世界の綻びを癒し続ける。進化だと思わなければ、やっていられなかったわ。そんなのもう、人間でも神でもない。でも限界はきて――逃げたのよ。滅びかけていたこんな星は見捨てて、他の星へ逃げてやった。滅びたことを知ったときは、ほっとしたわ。わたしを利用するだけ利用した世界なんか滅びて当然だと思った」


 人々を癒し、災厄の魔女を封印した、聖女の奇跡。もっとも敬愛される、人に近い存在。

 そんな彼女が、誰も知り得ぬ心の内を吐露している。長い長い時間、ずっと溜め込んでいたものを、まるで爆発したかのように、吐き出している。シオンの声で、フィロメラの魂で。

 カーネリアはいつの間にか足を止め、なにも言わずに聞いていた。


「でも本当は、滅びてなんかいなかったのよ。ひっそりと生き延びた前文明の人間たちは『聖女システム』を作って、強い魔力を持つ女性を聖女に仕立て上げることで、伝説を守り続けた。平和ぼけした人間たちは、それを受け入れ、聖女を持てはやした。本当の目的は、あなたが言った通りよ。わたしの仮初の身体に魔力を貯蔵するため。そしていつか、もう一度この星にわたしを呼び戻すため。わたしは、転生を繰り返すことでこの地に縛られ、魂だけになってもこの地じゃないと転生も、死ぬこともできない存在になってしまっていたから……望まれるなら、戻ってきてやろうと思った。戻ってきて、わたしが世界を導く本物の聖女になるの。歴史を変えるのよ。それぐらい、夢見たっていいでしょ?」


 肩で息をしながら話しきったフィロメラの顔を見ず、カーネリアは淡々と返す。


「そうだな。だが、お前はやはりバカだ。乗り込む時期を間違える、大バカ者だ」


 そうだろう? とカーネリアが嘲笑したのが伝わる。ためこんだものをすべてぶちまけたフィロメラには、もう抗う覇気もない。ちからのない笑いが口をついて出るだけだ。


「なにより、それを画策したものがいることに気が付けなかった。お前に万全な状態で戻ってこられては、困るやつがいるだろう?」


 フィロメラは、一瞬逡巡し、はっと顔を上げる。


「……まさか……そんな、ぁ、ぁ、ああ」


 言葉が途切れ、頭を抱えた。刹那、人の口から出たものとは思えないほどの叫び声をあげ、床をのたうち回る。

 その身体からは、光をも飲み込む漆黒――隕石と同じような、質量を持っているかの如き黒色のオーラが立ち上り、フィロメラの魂を飲み込もうとしていた。カーネリアは、右手で持った杖でこん、と床をつく。叩きつけられたような光が、放射状に広がり、黒色を押さえ込んだ。


「隕石が光らなかったのは、お前が取りついていたからだ、魔女」

「……そ、んな、どう、して……!」


 必死に絞り出したフィロメラの声が消えていく。


「魔女というのは、人じゃあない。災厄そのものだ。災厄を消し去ることなどできない。だから、封印という手段を取るしかなかった。災厄とは、形が決まっているわけではない。よって、災厄を振りまく、という曖昧な言葉でしか伝えられなかった。そうだろう?」


 ――最悪の災厄(ディザスター)

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