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第99話 作戦会議(8)

 それから一時間ほど談笑をした後に、サツキが合流してくる。サツキは寒そうに頬を赤らめていた。


「サツキちゃん、久しぶり。今日は急に呼んじゃってごめんね。ここまで遠かったでしょ?」


 片瀬さんがメニューを渡しながらサツキをいたわる。


「いえいえっ、全然! むしろ呼んでくれてありがとうございます!」


 サツキは片瀬さんにペコリと頭を下げると、続いて隣に座る有城さんに向き直った。


「美砂さんもお久しぶりですっ!」


「久しぶり〜! サッちゃん可愛いねェ〜! 前に会った時よりも髪伸びてない? 伸ばしてるの?」


 有城さんがセクハラギリギリの手つきでサツキを抱き締める。抱き締められながらサツキは「えへへ、気づきました?」と舌を出した。


「実は文化祭のあとから、ちょっと髪を伸ばしてまして。片瀬さんとか美砂さんとか、髪が長くてキレイな大人が多いので、うちも真似してみようかなって……」


 少し照れたように右上を向きながら、サツキは伸ばしているであろう茶髪の毛先をくるくるといじった。


 それにしても、サツキが髪を伸ばしているとは気づかなかったな。この間も会っているのに。


「えーっ、なにそれ! かーわっいいー!」


 それを聞いて一層テンションの上がった有城さんが、なおもサツキにベタベタと抱きつく。


「たしかにサツキちゃん、長いのも似合ってるよ」


 片瀬さんがニッコリと微笑む。するとサツキは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます! この間アキラくんに会ったときとか、何も言われなかったので……似合ってるか心配だったんですけど、お二人にそう言っていただけて嬉しいですっ!」


「えっ、うそ! アキラくん、褒めてあげなかったの?!」


 サツキからバッと離れると、有城さんは口元を覆いながらわざとらしく目を見開いた。


「……いや。だって、気づかなかったんですもん」


 僕が答えると、有城さんだけでなく片瀬さんも驚いたような表情をした。なんだろう、失言だったんだろうか。


「……まぁ、アキラくんに女心を分かれっていう方が無理な話かァ〜」


 有城さんがやれやれ、と言いながら両手を挙げる。僕はふてぶてしく「何ですか、それ」と呟いた。


 それからみんなの近況トークに話題が移る。話題の中心は、もっぱら二日後に控えたクリスマス・イブの予定だった。どうやら三人ともクリスマス・イブには予定がないらしい。


「じゃあ、事務所でクリスマス会しましょうよ!」


 有城さんが元気よく提案する。片瀬さんとサツキは、少し複雑そうに頭を悩ませていた。あんまり乗り気でないってことは、やっぱり綾乃のことを気にしているのかもしれない。


「僕も賛成です。クリスマス会、しましょうか」


 片瀬さんとサツキに語りかけるように、僕は続ける。


「今は色々とあって大変な時期ですけど……やっぱりこういう時こそ、当たり前のことを大事にしていきたいなって、そう思うので」


 僕の言葉に、有城さんが満足そうに頷く。それもそのハズだ。さっきのセリフは全部、有城さんからの受け売りなのだから。


「……それもそうだね。じゃあ、クリスマス会やろっか。サツキちゃんはどう?」


 片瀬さんが優しくサツキに問いかける。サツキは少し迷った様子を見せたあとに「うちも参加しますっ!」と答えてくれた。


 そして四人でクリスマス会の予定を立てる。事務所にツリーでも飾って、チキンやケーキを食べることになった。ついでにプレゼント交換なんかもするらしい。


 クリスマス会の予定があらかた決まり、そろそろお店の閉店時間も迫った頃。サツキがポツリと「綾乃ちゃんのことなんですけど」と口を開いた。


「結局……どうなったんでしょうか?」


 サツキがたどたどしく質問する。きっと話題に出していいか分からなかったからだろう。事実、僕たちは今日のこの場で、綾乃の話を一切していない。綾乃の名前を出すと現実を直視しなければいけないような気がして、口に出すのが怖かった。


「……綾乃ちゃんは、まだ身を隠してるみたい。でも昨日の午後に目撃情報があるから、もう少しでも見つけられるかも」


 片瀬さんがサツキに答える。僕が答えようとしていたけど、なんて話せばいいか分からなかったから助かった。


「そうなんですね。それなら、よかったです」


 サツキはホッとしたように、胸を手を当てた。片瀬さんが「もう少しで見つけられるかも」と言ったからだろう。


「あやのんはさ、きっと今は少し混乱してるだけなんだよ。色々なことがあったからさ。だから戻ってきたら、またみんなでお祝いしようね」


 有城さんがサツキに語りかけるように言う。サツキだけでなく、僕と片瀬さんも強く頷いていた。


 お店を出て、駅に向かう。クリスマス直前というだけあって、駅前はイルミネーションでライトアップされていた。夕方に来た時は少し明るかったから気付かなかったけど、夜になるとかなりキレイに見えた。


「ここの駅、クリスマスのイルミネーションが結構人気なんですよね! やっぱりキレイだなぁ……」


 サツキがイルミネーションのクリスマスツリーを見上げながら言う。それは虹色にライトアップされていて、てっぺんでは星がキラキラと輝いている。星のすぐ下から無数のテープライトが四方八方に伸びていて、まるでクリスマスツリーが光の中に包まれているように見えた。


「ホントだぁ〜! やっぱり冬に見るイルミネーションはいいねぇ。事務所でもこれぐらいの、用意する?」


 有城さんの冗談に、僕はすかさず「いや無理でしょ」とツッコミを入れた。クリスマスツリーは少なくとも十メートル以上はありそうだから、事務所に飾れるワケがない。


「ねぇねぇ、せっかくだから、四人で写真撮らない?! こんなにキレイなんだから撮らないと勿体ないよ!」


 片瀬さんのテンション高めな提案に、全員が「賛成!」と声を揃える。


「あっ、うち自撮り棒持ってますよ!」


 サツキがカバンから自撮り棒を取り出す。まさかサツキは学校やスーパーにも自撮り棒を持ち歩いているんだろうか。


「うわっ、サッちゃん女子力たかぁっ!」


 有城さんが僕の気持ちを代弁してくれた。サツキは少し照れくさそうにしながら、自撮り棒を伸ばした。


「この中で一番スマホのカメラ良いのって誰でしょうか? うちのは一昨年のモデルで、あんまりなんですよ〜」


「あたし今年の秋に最新のに買い替えたけど、これならどう?」


 有城さんがサツキにスマホを見せる。スマホの背面についているカメラを見たサツキは「これ、最強のヤツですよっ!」とテンションが上がっていた。


 そしてクリスマスツリーの正面のスペースが空くのを待ってから、四人で何枚か写真を撮る。


「よっし、じゃあ今からメッセージで写真送るね!」


 写真を撮り終えたあと、有城さんが僕たちに写真を送ってくれる。サツキが「最強のヤツ」と言っていただけに、僕たち四人が鮮明に写っていた。片瀬さん、有城さん、僕、サツキの順番で横並びになっていて、みんな楽しそうにピースをしている。クリスマスツリーには『Merry Christmas 二〇一九』と書かれたプレートが飾られていた。


「すっごいキレイに写ってるね!」


 写真を見た片瀬さんが、嬉しそうにはしゃいでいる。今日はここ最近見られなかった色々な片瀬さんの表情が見られて、僕としても心が和んだ。


「――今度は、みんなで撮りたいね」


 片瀬さんが呟くように言う。三人が同時に、静かに頷いた。『みんな』になるのに誰が足りないのかは、言うまでもないことだった。


 僕は有城さんから送られた写真を、そのまま綾乃に転送した。もちろん、綾乃がメッセージを見ているかはわからない。失踪直後に何回かメッセージを送ったけど、全て未読無視されているからだ。


 ……それでも、僕たち全員の気持ちを、綾乃には伝えておきたかった。綾乃のことは恨んでいません。今でも綾乃のことを仲間だと思っています。だから、はやく戻ってきてください。そんな想いを込めて「みんな待ってるから」という一文を添えた。

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