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第96話 作戦会議(5)

「さて、他に何かある方はいますか?」


 小畑さんの声に反応して、一人の男性が勢いよく挙手する。「渡辺さん、どうぞ」と小畑さんが言った。


「ルイーナの渡辺です。私も一点、ご確認がございます」


 渡辺さんは立ち上がると、ひと呼吸置いてから続けた。


「今回の件は、駒崎綾乃がS.G.G内部の情報を掴んだことで話がややこしくなっていると思います。情報が盗まれなければ加盟店のデータも漏れず、簡単に捕まえられたのではないでしょうか。つまり、駒崎綾乃を採用したスパークルにも責任の一端はあると思います。本部では、その点はどのようにお考えなのでしょうか?」


 渡辺さんの質問を聞きながら「来たな」と思う。有城さんの言ったとおり、綾乃をチームに入れたことで怒る人もいるようだった。事前に有城さんから聞いておかなかったら、きっと驚きで心臓が飛び出ていただろう。


「その点については――」


 小畑さんが言いかけたとき、隣に座る片瀬さんが力強く挙手をした。驚いて視線を向けると、片瀬さんは目尻に力を込めながら小畑さんを見つめていた。


「その質問に対して、まずは私からお話させていただけないでしょうか?」


 いつものおっとりとした口調とは違い、ハキハキと片瀬さんは言う。小畑さんは少し驚いたように目を見開きながら、片瀬さんの瞳を見つめていた。


「……わかりました。それでは先に、スパークル代表の片瀬からお話してもらいましょう」


 小畑さんが片瀬さんにマイクを手渡す。片瀬さんはマイクを受け取ると、ゆっくりと座席から立ち上がって後ろを向いた。みんなの視線が片瀬さんに集まる。


「はじめまして。スパークル代表の片瀬です。駒崎さんを採用したのは私です。渡辺さんの言うように、採用した私にも責任はございます。そのため全身全霊をかけて、駒崎さんを……そしてデモニッシュを捕まえます。皆様にはご迷惑おかけしますが、何卒よろしくお願いいたします」


 片瀬さんが深々と頭を下げた。その様子を見ていたみんなは、何も反応せず沈黙をしていた。何人かはどう反応していいか分からず、戸惑っているようだった。


「片瀬、マイクを貸せっ」


 頭を下げたままの片瀬さんから、小声の小畑さんがマイクを奪い取る。そして咳払いをしてから続けた。


「はい。というワケで、スパークルの代表は責任を感じているようです。……ですが本部としては、スパークルには責任はないと考えています。そもそもS.G.Gでは、採用時の身辺調査を徹底する決まりはありません。そりゃあ怪しかったら調査はするでしょうが、そもそも大規模な広域窃盗グループのスパイが女子高生だとは、誰も思わないでしょう」


 たしかにそのとおりだった。綾乃の出自が特殊すぎるだけで、デモニッシュのスパイが学生とは誰も思わない。そもそもデモニッシュ自体、存在するか不明だったワケだし。


「責任があるとすれば組織の上層部でしょう。そのため本部では現在、採用時の身辺調査に関するルールを決めています。これは年始には共有予定ですが、それまで新規の採用は控えるようにお願いします」


 そこまで言ってから、小畑さんはマイクを持ったまま片瀬さんをチラ見した。


「事実、この中に『自分のチームにデモニッシュのスパイがいない』と断言できる方は少ないでしょう。だからこそ、この会議の内容を他言無用にしているワケです。――あぁ、ちなみに捜索隊の皆さんは私が信用している方々ですし、既に本部にて簡単な身辺調査を実施しています。この中にスパイはいないので、ご安心ください」


 小畑さんはニコリと笑ってからそう言った。


「……つまり、今後はS.G.Gのメンバー全員の身辺調査を実施する……というワケでしょうか?」


 渡辺さんが立ったまま質問を続ける。小畑さんは大きく頷いてみせた。


「えぇ、そのとおりです。新規メンバーは採用前に。既存メンバーは順次本部にて実施する予定です。詳しいことは後日公表されるようなので、皆さんも疑問点がありましたら、その際にご質問お願いいたします」


 小畑さんが頭を下げると、渡辺さんは「ありがとうございます」と言って静かに着席した。どうやら小畑さんの説明に納得してくれたらしい。


 しかし片瀬さんはまだ立ったままだった。何か他に言いたいことがあるのか、それとも着席するタイミングを逃したのか。どうしよう、僕から何か話した方がいいんだろうか。


「……ちなみにスパークルは、例のオブシーンを逮捕した実績があります。それにAIFRSの開発者である有城美砂も在籍しています。若いメンバーが中心で拙い部分もありますが、いま一番勢いがあるチームと言っても過言ではありません。今回の捜索にも、文字どおり全身全霊で挑んでくれていますので、皆さんこれからもよろしくお願いします」


 そう言って小畑さんは、僕たちを向きながら大きく拍手をした。その拍手は次第に会場中の至るところから聞こえてくる。僕たちは照れながら、みんなの方を向いてお辞儀を繰り返した。


「……ありがとう、ございます」


 片瀬さんは最後にみんなに頭を下げると、そのまま静かに着席した。小畑さんがマイクを持ったまま続ける。


「それにスパークルが駒崎を採用したことで、今まで得体の知れなかったデモニッシュの存在が明らかになりました。ある意味で、これは功績でしょう。人生万事塞翁が馬……という故事成語がありますが、よく言ったものですね。これから格言にしようと思います」


 そう言って、小畑さんは渡辺さんの質問を笑顔で締めくくった。

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