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第80話 デモニッシュの影(9)

 数日後、小畑さんと有城さんが突然スパークルの事務所にやってきた。


「例のスーパーの監視カメラのデータ解析が終わった」


 小畑さんは開口一番、そう言った。とりあえず先に二人を事務所に案内する。事務所では片瀬さんがパソコンで作業をしているところだった。二人がやってきたことに気づくと、片瀬さんは小さく会釈をした。


「結果から話すと、駒崎が何を買い物したかは分からなかった。歯磨き粉みたいな日用品を手に持っているのは確認できたが、レジを通った痕跡はない」


 そこまで聞いて、小畑さんの言いたいことが何となく分かってくる。


「万引きしたかもしれない……ってことですか?」


 僕の言葉に、小畑さんが小さく頷く。


「その通りだ。商品を物色しているのにレジを通っていないとなれば、考えられるのは万引きぐらいなもんだからな。さすがに警戒してるのか盗みの瞬間は確認できなかったが、まぁ万引きをしているのに間違いはないだろう」


 小畑さんの見解に、思わず頭を抱え込む。もし仮に綾乃がスーパーで万引きしていたとしたら、デモニッシュに関わっていることが確定的になってしまう。


 もちろん綾乃が万引きをしていることを認めたくはなかった。しかしあの小畑さんや有城さんが、監視カメラの映像を解析した結果導き出した見解だ。まるっきり的はずれってことはないだろう。


「駒崎が近辺で目撃されている以上、本格的に捜索に乗り出すべきだ。今日はその件で相談に来たんだ」


 小畑さんが懐からタブレットを取り出す。S.G.Gから支給されている物のようだ。


「現時点では警察は動かせない。これは本部にも掛け合ってもらった結果だから、そう簡単には覆せないだろう。だから捜索をするにしても、俺たちが少数精鋭でやるしかない」


 そう言いながら、小畑さんがタブレットの画面を向けてきた。見ると、そこにはS.G.Gのメンバーのプロフィールが表示されていた。どうやらデータベースのものらしい。


「いま俺の方で三十人近いメンバーを動かせる。そこにアキラくんたちを加えて共同で捜索する感じだな」


「三十人? そんなにいるんですか?」


「本部から人を貸してもらえてね。まぁそれだけ本部も駒崎確保に本気ってことだ。デモニッシュの尻尾を掴んだのはこれが初めてだからな」


 なるほど、と頷く。それだけの人数がいれば、S.G.Gだけでも綾乃を捕まえられる気がする。


 ……でも心のどこかでは、絶対に自分たちが見つけたいという気持ちがあった。他の知らない誰かに、綾乃を捕まえてほしくない。ちょっと傲慢な気もするけど。


「本部からのメンバーは俺の直轄で動いてもらう予定だ。アキラくんたちはどうする? 直轄じゃなくて情報交換しつつ独自に動いてもらう形でも問題ないが……」


 小畑さんが僕に聞いてくる。こういう話をするなら片瀬さんに直接話してよ、とは思うけど……二人の関係性を考えると仕方ない。ここは僕が架け橋になるしかなさそうだ。


「僕は独自に動く感じでも問題ないです。綾乃のことなので、そっちの方が動きやすいですし。……片瀬さんはどうですか?」


 後ろに振り向いて、片瀬さんに問いかける。片瀬さんは小畑さんが来てからひと言も話さず、ずっとパソコンの前にちょこんと座っていた。


「……わたしも、それで良いと思う」


 片瀬さんは手短に言った。


「――というワケで、僕と片瀬さんは独自に動きます」


 僕の言葉に、小畑さんは「オッケー」と小さく首を縦に振った。反応からして、こうなることは予想していたのだろう。この関係性でスパークルが小畑さんの直轄で動くことはほぼ不可能なんだし。


「それなら別々で動こう。だが効率よく進めるために、お互いにこまめに連携を取る形で進めたい。まずはアキラくんの方で、駒崎についての情報をまとめてくれないか?」


「情報……ですか?」


「そうだ。例えば趣味とか、好きな食べ物とかだな。相手のことを知ることで、立ち入りそうな場所にあたりを付けられる。項目はこっちで用意するから、それを記入してくれると嬉しいんだがね」


 それぐらいなら、と僕は快諾した。でも心のどこかで引っかかるものがあった。


 綾乃がスパークルにやってきて数ヶ月。その間に、本当の綾乃のことをどれだけ知れたのだろうか。綾乃がデモニッシュに関係していることすら、まったく見抜けなかったのに。


 それから、小畑さんと今後の方針についてすり合わせる。当面は週に二回定例で集まって、お互いの進捗を共有することになった。


「あと美砂のことなんだが……スパークルに移籍することはできるか?」


 あらかた話終えたところで、突然小畑さんが切り出した。


「移籍……ですか? 有城さんが?」


 小畑さんの後ろに立っている有城さんに視線を向ける。


「ブレイズの解散が正式に完了してね。俺は個人で動くが、美砂は裏方のサポートがメインだから、どこかのチームに所属して欲しいんだ」


 言われて、ブレイズが解散することを思い出す。確かに有城さんは前線でGメンをするタイプではないから、他のチームに入った方がやりやすいのだろう。


「それについては、僕の方ではなんとも……」


 言いながら片瀬さんに目で訴える。さすがにスパークル全体のことを僕の一存では決められない。


「わたしとしては問題ないけど、美砂ちゃんはそれでいいの? スパークルはこの間Eランクになったばかりなんだよ?」


 僕の視線に気づいた片瀬さんが、小畑さんではなく有城さんを見ながら言う。


 片瀬さんの反応も当然だった。もともとAランクのブレイズとEランクのスパークルとでは、待遇が全く違う。今後の出世にも悪影響があるかもしれない。前回みたいに「一時的にかくまう」のとは話がまったく別なのだ。


「もちろんです。これはあたしが言い出したことですから。それにスパークルなら、将来的にAランクになれると思ってますし」


 そう言って有城さんはニコリと笑った。


「……そっか。美砂ちゃんが良いなら、わたしとしては止める理由はないよ。月之下くんも、良いよね?」


 片瀬さんに聞かれて、僕は強く頷いた。セキュリティコンサルのエキスパートである有城さんが入ってくれるのであれば、これほど心強いことはない。


「ありがとうございます! じゃあ後で本部に戻ったら、移籍の手続きしちゃいますね」


 有城さんが嬉しそうに頭を下げた。


 こうして有城さんはスパークルのメンバーとなった。しかし話し合いの結果、綾乃の捜索に関しては、有城さんは小畑さんと動くことになった。AI顔認証システムの知見は小畑さんの方があるから、片瀬さんよりも的確に指示を出せる――というのが理由だ。


 ――これから本格的に綾乃の捜索が始まる。僕は決意を新たに、綾乃に関する情報をまとめ出した。

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