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第5話 駒崎綾乃との出会い(4)

 ……さて。片瀬さんの言うように、店内のマッピングが済んだ以上、下見はもう終わりだ。


「それじゃあ、帰りましょうか。駒崎さんって、家どこら辺ですか?」


「あっ、わたしは学校の近くに住んでるので、電車で一駅とかです。月之下さんはどちらですか?」


「僕はここからだとちょっと遠いんですけど、同じ電車ですね。じゃあ駅まで一緒に行きましょうか」


 そう話し合いながら、駒崎さんとスーパー・サクラギの出口に向かう。


 正直内心「ひとりで帰るので大丈夫です」なんて言われるんじゃないかと身構えていたから、駒崎さんに拒否られなくて助かった……。


 スーパー・サクラギを出ると、生暖かい風が身体を包み込む。


「もうすぐ夏ですねぇ」


 口にしてから、思わず「しまった」と後悔する。駒崎さんと共通の話題がないからって、季節の話題を持ち出すのはさすがにやってしまったか?


 話す話題がなにもないですって言っているのと同じみたいなもんだからなぁ……。


 その証拠に駒崎さんも「そうですね」とそっけない返事しかしてくれない。


 どうしたもんか、と頭の中で思考をフル回転させる。同い年とはいえ、お嬢様学校の女子校生だと、ふつうの女子校生とは勝手が違う気がするのだ。


 アニメや漫画は見ないだろうし、音楽の趣味も違うだろう。ましてやゲームなんてしそうにもない。


 色々と熟考に熟考を重ねた末、僕の口から出たのは非常にシンプルな話題だった。


「――駒崎さんって、どうしてスパークルに入ろうと思ったんですか?」


 話題作りで飛び出た質問だけど、たしかにこれは気になる。普通の高校生なら、万引きGメンのチームに入ろうなんて思わない気がするし。


「わたしですか? えーっと……説明が難しいんですけど、月之下さんがいたからなんですよね」


「えっ、僕がいたから?!」


 想像もしていない答えが返ってきて、思わず素っ頓狂な声が出てしまう。


「前にS.G.Gの公式サイトで、お二人の記事を見かけまして。そのときに、同じ高校生なのにこんなに自分が知らない世界で頑張ってる月之下さんのことを見て、憧れちゃいまして。わたし、部活も入ってないので月之下さんみたいに何かに打ち込めることがあればなって」


「あぁ、そういう意味ですか……」


 説明を聞いて納得する。たしかに少し前に「高校生でS.G.Gに入っている珍しい子がいる」って話題になって、S.G.Gのインタビューに答えたことがある。おそらく駒崎さんはそのインタビュー記事を見たんだろう。


「他にどういう意味だと思ったんですか?」


 くすくすと、口元に手をあてながら上品に笑う駒崎さん。今日一日一緒にいたけど、はじめて笑い声を聞いた気がする。


「そういう月之下さんは、どうしてS.G.Gに入ったんですか? インタビューだと仕事の様子ばかりで、入った理由とかには触れられてなくって」


「入った理由、ですかぁ……」


 自分から駒崎さんに聞いたんだから当然その問いが返ってくるだろうに、まったく考えていなかった僕は少し考え込む。


 もちろん、S.G.Gに入ったのには理由がある。ただそれを初対面の駒崎さんに言っても良いものだろうか。


 答えるかどうか悩みながら、駒崎さんに視線を向ける。駒崎さんは首を傾げながら、純粋な瞳で僕のことを見つめていた。


 ……まぁ、駒崎さんは良い人そうだし、別に言っても大丈夫か。


「僕はもともと、片瀬さんに誘われたんですよ。スーパーで万引き犯を見つけてお店の人に通報してたら、それを片瀬さんが見てまして。それがキッカケです」


「あら、意外とふつうの理由なんですね。考え込んでたから、言いにくい理由なのかと思っちゃいました」


「まぁ……キッカケはそれなんですけど、僕はもともと引っ込み思案でして。でも片瀬さんに誘われて、こんな自分でも活躍できる場があるんだったら、それに賭けてみたいなって。なんでキッカケは片瀬さんに誘われたからなんですけど、理由は自分を変えたいからというか、なんというか……」


 頭を掻きながら「さすがに初対面の子に言いすぎたな」と内省する。駒崎さんだって、初対面の相手にこう言われたら反応に困るだろう。


 しかし僕の考えとは裏腹に、駒崎さんは「すごいですね」と感嘆の声を漏らした。


「自分を変えようとしてこの業界に踏み込むって、すごい勇気が必要じゃないですか。周りに高校生も少ないですし。だから月之下さん、すごいと思いますよ」


「えっ、そ……そうですかねぇ?」


 思わずニマニマと照れ笑いを浮かべてしまう。


 なんとなくだけど駒崎さんは、女子校生にしては男慣れしている気がする。男が喜ぶツボを押さえているというか。きっと小中学校の時代とかはモテてたんだろうなぁ。


「それにしても、月之下さんってわたしと同い年ですよね? それでしたら、全然敬語使わなくっても大丈夫ですよ」


「あ、本当? 実はあんまり同い年の人に敬語使うのとか、慣れてなくって……。気恥ずかしかったから助かるよ」


 同い年であっても、こういう仕事の場では敬語を使うもんだと思ってたから、駒崎さんからそう言ってくれるのはかなりありがたい。


「駒崎さんもタメ口で大丈夫だからね。先輩と後輩とはいえ、たった三か月しか離れてないんだから」


「でも片瀬さんがいる前でわたしが月之下さんにタメ口使っちゃうと、ちょっとアレじゃないですか? 上下関係どうなってるのって、心配されちゃいそうです」


 うーん、たしかにそういう考えもあるのか。


 でも片瀬さんはそんなに厳しくないし、S.G.Gの組織全体でも、そこまで徹底して上下関係がある訳でもない。だから駒崎さんがタメ口を使っても問題ない気はする。


「まぁ、それは全然いいんじゃないかな。片瀬さんもそんなに心配したりしないと思うよ」


 駒崎さんは「そういうものなんですかねぇ~」などと言いながら、僕の少し前を歩く。やがて「そうだ」と声を漏らすと、僕の方を振り返った。


「それなら片瀬さんがいない二人っきりのときだけ、敬語はなしにしよっか?」


 言いながら、にこりと笑う駒崎さん。


 ……やっぱりこの子、男慣れしてるよなぁなどと、聞きながら思うのだった。

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