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第4話 駒崎綾乃との出会い(3)

 その日の夜、僕たちスパークルのメンバーはスーパー・サクラギに来ていた。


 既に時刻は夜十時を回っており、スーパー自体は閉店している。だからこそ、スーパーの間取りを把握するのにピッタリだった。


「わたしはお店の人から色々相談受けてくるから、二人は店内の確認よろしくね」


 手をひらひらと振りながら、バックヤードへと消えていく片瀬さん。シャッターも既に締め切って、外の音すら聞こえないスーパーの店内で、僕と駒崎さんの二人っきりだけになる。


 もともと小さいスーパーのはずだけど、閉店後にこうやってお店の中に入ると、やっぱりだだっ広く感じるな。


 はじめてスーパーのGメンをしたときのことを思い出しつつ、僕はタブレットから店内の見取り図を開く。


「えーっと。駒崎さんにはさっき軽く話したけど、改めて説明するね。まず、僕たちは明日から一週間、このスーパーで万引きGメンをします。それにあたって『どういう手口で・どういう場所で万引きが行われているのか』を明確にしておく必要があるから、こういう風に事前に店内の確認をします」


 既にスーパーの店長からは、このお店の見取り図・防犯カメラの位置の情報について共有してもらっている。まずはこの情報をもとにして「店内のどこに死角があるのか?」を洗い出すのが、S.G.Gのセオリーだった。


 最初ということで、僕が手取り足取り、駒崎さんにやり方を説明していく。


 こういったスーパーでは、防犯カメラに死角がないことの方が珍しい。必ずどこかに死角があって、そこを万引き犯に狙われるケースが大半だ。


 防犯カメラの設置台数が増えればそれだけ導入費・維持費がかかる。開業当初に防犯カメラ費を節約した結果、あとあと万引き被害に悩まされるようになったお店は多いという。


 防犯カメラを一つずつ確認して、死角に印をつけていると、おかしなことに気づく。


「……どうかしましたか?」


 急に手が止まった僕を見て、不思議そうに駒崎さんが話しかけてくる。


「あぁ、ごめんね。……この防犯カメラの位置なんだけど、ちょっと変なんだよね。ここにあったら、正面の棚は見えるけど棚の後ろまでは見えない」


 タブレットの見取り図を片手に、僕は一つの防犯カメラを指差す。その防犯カメラは近くにある棚をアップで撮影しているが、ここの位置だと後ろの棚までは撮影できない。ここ付近の防犯カメラはこれ一つだけだから、当然後ろの棚は完全に『防犯カメラの死角』になっているのだ。


 これだったら、棚を正面からではなく、横から撮影した方が死角は減るはずだ。


「あと、明らかにダミーカメラの数が多いんだよね。四割近くがダミーカメラだから、これだと死角だらけになっちゃう」


「ダミーカメラって駄目なんですか? よく聞きますけど……」


 駒崎さんからの問いに、僕は「うん」と頷く。


「ダミーカメラって、万引き犯にバレたらただの死角になるからね。『ここで万引きしてください』って言っているようなものだから、あんまり良くないんだ」


「そうなんですね。でもダミーカメラだってこと、万引きする人にバレたりするもんなんですか?」


「実はダミーカメラって、簡単にバレたりするんだよね。ほら、本物のカメラの場合、動いてるから当然熱を出すじゃない? だからサーモグラフィーで見たら、動作してることが分かるんだよね。でもダミーカメラの場合は熱を出さないから、万引き犯によっては見破られたりするんだよね」


 スラスラと、駒崎さんにダミーカメラのことを説明する僕。


 僕の説明を聞いて、駒崎さんの目が少し大きく見開いた。『羨望の眼差し』と呼ぶのが近い気がする。


「……すごい。そんなことまで知ってるんですね」


「いやぁ、まぁ。Gメンとして活動していれば、これぐらいはね」


 僕は得意げに言いきって見せた。本当は全部、S.G.Gに入った当初に片瀬さんから教わったことをまるごと使っているだけなんだけど。


 そうして全部の防犯カメラの死角を確認しきったところで、片瀬さんがバックヤードから戻ってきた。


 後ろ髪をポリポリと掻いて、少し重そうな表情をしている。


 もっとも、その表情の意味は、防犯カメラの死角を確認した時点でなんとなく察している。


「これは……ちょっと、大変そうかもぉ……」


 弱音を吐きつつ、片瀬さんが店長から聞いた話を説明してくれる。


 曰く、このスーパーは今から三十年ほど前に開業したらしい。その当時は近所にスーパーが少なかったことから地元民に愛されるようになったが、ここ数年で万引き被害が増えたという。というのも、開業が三十年前なだけに、防犯対策がほとんど取られていないのだ。


 当時は防犯カメラを設置するのにもお金がかかったので、大半がダミーカメラ。その上、三十年の間にお店のレイアウトを何回か変更しているので、開業当初に設置した防犯カメラが意味を成していない場合もある。僕が見た『死角だらけの防犯カメラ』も、そういう背景があったのだ。


「そうなると、根本的にレイアウトを変える感じになるんですかね?」


 僕は片瀬さんに問いかける。S.G.Gは『防犯セキュリティコンサルタント』の業務も行っている。こういった『万引きされやすいレイアウトをコンサルすること』も、立派な業務の一環なのだ。


「お店の人と話した感じだと、そうなりそうかなぁ。でも当面はこの状態のまま進めることになると思う。……あっ、防犯カメラの状態ってもう把握してる?」


「もう全部マッピングしてますよ。ご覧の通り、死角だらけですけど……」


 片瀬さんにタブレットを手渡す。片瀬さんは店内の状況を見て、重苦しそうな表情をしながら前髪をかき上げた。


「聞いていた話通りだね、これは……。でも逆にこれぐらいハッキリしてる方が、警備しやすいかもね」


「まぁこれだけ死角があるとなると、多分万引きの大半は死角でおこなわれてるでしょうしねぇ」


 ポジティブな片瀬さんに乗っかって、僕も前向きな発言をする。実際、これだけひどい状況だと、逆にGメンをしやすいかもしれない。


「とりあえず、わたしはもう少しお店の人から状況聞いてくるね。セキュリティコンサルしたり、思ったより大規模になりそうだから。二人は先に帰って大丈夫だからね」


 片瀬さんはタブレットを僕に戻すと、そう言って踵を返した。


「あっ、そうそう。もう夜も遅いから、駒崎さんのこと、ちゃんと送っていってね?」


 振り向きながら、片瀬さんは僕に対して言う。


「わかってますよ。片瀬さんも、帰るときは気を付けてくださいね?」


 片瀬さんは「もちろんだよ」と返事をしながら、バックヤードへと向かっていった。

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