第35話 オブシーンを捕まえろ(2)
僕は急いでスマホを立ち上げ、サツキに電話する。
「もしもし、サツキ? オブシーンと思われる人物を特定したから、今から作戦を開始するね。日用品コーナーの近くだから、一旦全店員さんに通達してほしい」
綾乃が万引きをする際に、他の店員に邪魔をされたら台なしだ。客が入ってくるのは避けられないけど、せめて店員の侵入だけは防ぎたい。なので作戦を実行する際には、全店員に通達する手はずになっていた。
「うん、わかった! インカムで全員に近付かないよう、伝えておくね!」
ありがとう、とお礼を言ってからサツキとの電話を切った。そして準備ができたことを、綾乃に告げる。
近くにマツダがいるから、綾乃からの返事はないけど。防犯カメラ越しに、自然に小さく頷くのが見えた。
そして綾乃は目の前の棚にある歯磨き粉を手に取ると、そのまま学生カバンに入れた。熟練されたような、鮮やかな手技。どうやら綾乃も、今回の作戦のために万引きの練習をしてくれたらしい。
しっかりとマツダから見えるような角度で万引きしていたから、おそらくマツダも認識しているだろう。
「綾乃、ありがとう。たぶんマツダも確認したと思うから、そのままゆっくりと店外に出てほしい」
綾乃に指示を出す。あとは綾乃が店を出て、マツダがどういう動きをしてくるか。
「片瀬さんもマツダを追いつつ、何か動きがあったら僕に伝えてください。僕も現場に向かうので」
僕がモニター越しに指示を出すのはここまでだ。ここから先はマツダを捕まえる流れになるかもしれないから、はやめに店外で待機しなければいけない。
立ち上がると、僕は足早に事務所から出た。そのまま裏の出口から出て、店の入り口に向かう。
もう午後七時を過ぎているけど、夏だからまだあたりは明るい。ようやく夕焼けが出ているぐらいだった。
――そうだ、有城さんにも連絡しておかないと。
有城さんがどれぐらいで来てくれるか分からないけど、状況を教えておいて損はない。そしてスマホを立ち上げようとした時、店の駐車場から有城さんが走ってくるのが見えた。
「タクシーで飛ばしてきちゃった! 状況教えてっ」
僕の目の前まで走ってくると、肩で息をしながら僕に聞いてくる。
「いま、綾乃がマツダの追跡を受けています。万引きする場面を見せたので、たぶん店外で捕まえると思います」
有城さんに説明すると、インカムから片瀬さんの声が聞こえてくる。
「有城さんの声が聞こえるけど、合流したの?」
「あっ、はい。今は駐車場近くの裏口にいます」
「なるほど。綾乃ちゃんもうちょっとで入り口に着きそうだから、急いだ方がいいかもっ」
「わっかりました! ということなんで、有城さんすみません、もう一走りしてもらうことになりそうです!」
「えぇ~っ。いやホント、大学入ってから運動してないからキツいんだけど……」
文句を垂れる有城さんと一緒に、スーパーの入り口までくる。金曜日の夜だけあって、人通りが多い。
もしマツダがオブシーンなのだとしたら、店外に出てすぐには声をかけないだろう。卑猥なことをするのであれば、人目につくのを避けたいハズ。
「こっからの流れはどんな感じ? あやのんが捕まってからどうするの?」
有城さんが問いかけてくる。まさか有城さんがこんなに早く合流してくれるとは思ってなかったので、具体的な流れは説明していなかった。
「綾乃にはスマホでボイスレコーダーを起動してもらってます。もしマツダが綾乃に卑猥なことを強要するようであれば、それを証拠にすぐ捕まえます。マツダとの会話はインカム越しに聞こえるので」
「なるほどね。ってことは、これから気合入れないとだねぇ」
そう言って、有城さんは少し伸びをした。
いよいよ、いよいよだ。自分の作戦が成功するか、失敗に終わるか。それが決まる。
もちろん綾乃を危険に晒している以上、失敗は許されない。




