表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/131

第3話 駒崎綾乃との出会い(2)

 片瀬さんの面接は三十分ほどで終わった。片瀬さんは会議室から出るなり、笑顔で言った。


「月之下くん! 駒崎さん、スパークルに入ることになったから!」


 片瀬さんの後ろからヒョコッと姿を表した駒崎さんが、ペコリと頭を下げる。


「あらためまして。本日よりスパークルに加入します、駒崎綾乃です」


「あ、こちらこそ……あらためまして。月之下アキラです」


 あんまり自己紹介に慣れていない僕は、名前だけ言って頭を下げる。……こういうときって、なにか気の利いたことを言った方がいいんだろうか?


 そんなことを考えていると、片瀬さんが助け舟を出してくれる。


「駒崎さんはね、二駅隣りの女子校に通ってるんだって。今年で十七歳だから、月之下くんと同い年かな?」


 それを聞いて、少し気持ちが軽くなる。今年十七歳なら、まさに僕と同い年だ。しかも二駅隣りの女子校ってことは。


「もしかして、筒瀬女子学院ですか?」


 僕の問いに、駒崎さんは「そうです」と頷く。筒瀬女子学院と言えば、ここら辺でも有名なお嬢様学校だ。だからか、言動の節々に儚さというか、上品さを感じるのは。


「月之下くんは三ヶ月も先輩なんだから、色々とやさしく教えてあげてね?」


 そう言って片瀬さんは、僕に向かってウィンクをした。


 結局、新しく入った駒崎さんの教育は僕が担当することになった。


 片瀬さんはスパークルの代表として事務作業があること、そして駒崎さんを育てることで僕のアウトプットにもなるからというのが理由だった。


 中学でも高校でも部活に入っていなかった僕にとって「後輩」ができるのははじめてだ。しかもその後輩が「女子校のお嬢様」ともなると、また話が難しくなる。


 正直「うまくやっていけるかなぁ」というのが本音だった。


 でも片瀬さんは駒崎さんが入ったことで「活気が出た」と嬉しそうにしていた。しかも駒崎さんが活躍できる人材になれば、ランク昇格のスピードも上がる。


 まぁ、やるしかないかな。なるようになるだろうし。


 そう思いながら、少し嬉しくなって頬が緩む。スパークルに入る前だったら「なるようになる」なんて考え方、きっとできなかっただろうな。


 僕はスパークルに入ったことで、自分に自信を持てるようになった。それもこれも、片瀬さんがスパークルに勧誘してくれたおかげなのだ。片瀬さんのためにも、恩返しをしなければ。


 決意を固めながら、新人教育用の資料を持って、会議室に入る。中ではすでに駒崎さんが座って待っていた。


 僕が会議室に入るなり立ち上がろうとした駒崎さんを「あ、いいですよ」と静止する。


「同い年なんで、そんな気を遣わないでください」


「いえ。同い年でも、先輩なので」


 そう言って駒崎さんは立ち上がり、僕に対して頭を下げた。


 ……お嬢様って、みんなこうなのかなぁ?


 正直ちょっと、やりにくいんだけど……。


 とはいえそんな弱音も吐いてられないので、さっそく新人教育を始めていく。


「えーっと、それでは色々と教えていきますね。まずは資料にもあるように、S.G.Gの成り立ちと概要についてご説明します」


 ――S.G.Gは今から十九年前に、急増する万引き被害を抑えるために設立された私服警備員(Gメン)のグループだ。関東圏内だけで千人ほどのGメンが加盟している。加盟することで資金面・情報面の援助を受けられるため、Gメンを生業にしている人の多くが参加している。


 S.G.GにはA~Gまでのランクが設定されており、四半期ごとに「捕まえた窃盗犯の数・その他貢献度」に応じて、その個人・チームのランクが決定される仕組みだ。


 ランクが高いとそれだけ多くの援助をS.G.Gから受けられるようになり、最新の防犯グッズの試用なども任されたりする。


 またAランクの中でもトップの個人には「ガーディアン(守護神)」の称号が与えられる。ガーディアンになると自由が効くようになり、他のチームの指揮権を得ることもできる。


 そこまで説明したところで、片瀬さんがタブレットを片手に会議室に入ってきた。


「二人とも、明日からの取引先が見つかったよ。隣駅にあるスーパー・サクラギだって」


「スーパー・サクラギって、ちょっと小さめのスーパーですよね?」


「うん。駐車場も三十台ぐらいしかないし、比較的小さめのスーパーかな。駒崎さんの初陣にぴったしかもね」


 そう言って片瀬さんはニコリと笑った。


「ということは、スーパー・サクラギに駒崎さんを出動させるんですか?」


「そのつもりだよ。お店が小さいってことは、それだけ見張る場所が少ないってことだからね。最初にはピッタリじゃない?」


 確かに僕も、最初は小さめの書店でGメンのレクチャーを受けた。小さいとそれだけ万引き犯に気づかれる可能性も高くはなるけど、初心者向きなことに間違いはないだろう。


「あと、駒崎さんの教育係は月之下くんだから。よろしくね?」


 そう言いながら、僕の肩をポンっと叩く片瀬さん。


 同い年ながらお嬢様で距離感を掴みにくい女子校生との、少し気まずい生活が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ