第18話 天真爛漫な少女、有城美砂(2)
「――まさかアキラくんがファミレスを指定するとなァ」
ファミレスのソファー席に深く腰を下ろしながら、小畑さんは軽く悪態をつく。
突発的に開催された祝勝会の会場は僕が選択できたが、さすがにここで『焼き肉や『回らない寿司』を選択できるほど、僕は図々しくいなれなかった。
「でもここで高い焼き肉屋とか指定しないところが、また奥ゆかしくてアキラくんっぽいですよねぇ」
「お前もアキラくんとほぼ初対面みたいなもんだろうが」
なんだかよく分からないけど、小畑さんと有城さんには気に入られているらしい。
やっぱりそれだけ、高校生のS.G.Gメンバーが少ないってことなんだろうか。大学生でS.G.Gに所属している有城さんも、結構なレアケースな気はするけど。
「さて。ファミレスなんかで申し訳ないが、なんでも好きなもんを注文してくれていいぜ」
そう言って、小畑さんは僕にメニューを手渡してくれる。有城さんは隣で「あたしは野菜ソースのハンバーグ!」とひとりで叫んでいた。
あんまり年上の人たちとご飯に行くことがないので、こういう時はメニューを選ぶのにも困ってしまう。ちょっと安めのものを選んだ方がいいのか。それとも値段は気にせず、遠慮なくいっぱい食べた方がいいのか。
そんなことを悩んでいると、有城さんが隣からメニューを指差してきた。
「ここのファミレスは、これがオススメだよ。男の子なら三つぐらいはイケると思うな」
有城さんが指差したのは、一個三百円ぐらいの、小ぶりなドリアだった。たしかにサイズは小さいから、三個は食べられそうだ。
「じゃあ……このドリアを……」
言いながら、有城さんを顔をチラ見する。何やらワクワクした表情を浮かべて僕を見ていた。
「三個で」
僕が言うと、有城さんは「大食いだねェ~いいねェ~!」とはやし立ててきた。
「美砂の悪いところが全部出てるなァ」
小畑さんが正面の席から、笑いながら突っ込んでくる。小畑さんと有城さんとは初対面だけど、不思議と居心地がよかった。
各々が好きなものを食べつつ、談笑に花を咲かせる。
話題は主にS.G.Gのことが中心で、Aランクに位置するブレイズの仕事の話は非常に興味深かった。
とくに有城さんはこんな性格でありながら、セキュリティコンサルのエキスパートらしい。AI認証システムも、もともとは有城さんの提言で実用化が進んだというから驚きだ。
小畑さん曰く「お前がGメンの天才なら、美砂はセキュリティコンサルの天才」なんだとか。
二人がひとしきりご飯を食べきり、僕が三個目のドリアでお腹いっぱいになっている頃、突然有城さんが話題を投下してきた。
「そういえば今日は片瀬さんって人、一緒じゃないの?」
小畑さんの前で片瀬さんの名前を出すのはどうなんだろう? とヒヤヒヤしつつ、小畑さんに視線を向ける。小畑さんは特に顔色を変えることなく、食後のコーヒーを楽しんでいた。意外と関係性は普通なんだろうか?
「えぇ。今日は片瀬さん、別件で用事があるとかで。現場にも出てないんです」
「へぇ~、用事ねぇ。デートとかかなぁ?」
「そ、それは……どうなんでしょう?」
「あーっ、今ちょっと動揺したー! かーわいいー!」
有城さんにイジられる。どうやら有城さんは人をイジるのが好きらしい。
「片瀬さん、大人の女性っぽくて素敵だもんねぇ~。周りの男は放っておかないんじゃないかなぁ。胸もデカいし」
む、胸は関係ないと思うけど。
「あいつが大人の女性? 嘘だろ。本当に言っているなら眼科に行った方がいいぜ」
僕と有城さんの話を聞いていた小畑さんが、突っ込みを入れる。有城さんは「でも胸は大きいじゃん」と食い下がらなかった。
そのやり取りを見て「小畑さんと片瀬さんってどういう関係なんですか?」と聞きたくなる。意外と片瀬さんの名前を出すのはタブーじゃないようだし、聞いてみてもいいんじゃないだろうか。
「……あの。小畑さんと片瀬さんって、お知り合いなんですか?」
「ん? あぁ。もともと大学が同じでな。その時の同級生なんだよ」
なるほど、そういうことか。
でもこの間の片瀬さんの反応を見るに、ただの仲良しな友達……ってことはなさそうだ。何かしら確執があるのだろうか?
すんなり片瀬さんとの関係について答えてくれる小畑さんを見て「そんなに大きな確執じゃないだろうな」と確信した僕は、小畑さんに問いかけた。
「この間、スーパー・サクラギで会ったとき……小畑さんが『お前がいるなら来なかった』って言ってましたけど、あれって片瀬さんに対してですよね? 昔に何かあったんですか?」
「あ? ……あぁ、それはな……」
小畑さんは飲んでいたコーヒーをテーブルに置くと、一拍おいてから口を開いた。
「あいつはな。昔に……俺のフィアンセを死に追いやったんだよ」
「――えっ?」
頭が真っ白になって。いきなり耳鳴りがしてくる。
まさか人の生き死にの話が出てくるとは思わなかった僕は、その場で固まって動けずにいた。