第17話 天真爛漫な少女、有城美砂(1)
「おいおい、遅かったな。外でコーヒー買うのにどんだけ時間かかってるんだ?」
小畑さんが慣れ親しんだ雰囲気で女性に話かける。それを見て、僕は思い出した。
この女性は、小畑さんがセキュリティコンサルに来たときに隣にいた女性だ。たしか、有城さんといったはず。
「この間の男子高校生くんじゃん! なになに、もう小畑さんと仲良くなったの!?」
有城さんがグイグイと話しかけてくる。……なんだろう。この間会ったときとは、全然雰囲気が違う気がする。前はこう、もっとクールビューティーな感じだったけど……。
「まぁな。ちょうどナンパしていたところだ。アキラくんはもう美砂とは喋ったことあるんだっけか?」
美砂とは、有城さんの下の名前だろう。僕は首を横に振った。
「いえ。先日はお二人と話す機会はなかったので……」
言いながら、怪訝そうに有城さんを見る。……たしかに、容姿はスーパー・サクラギで会った女性に似ている。ポニーテールじゃなかったり、スーツじゃないところは違うけど。
「あぁ、こいつはな。仕事中とプライベートじゃ性格を切り替えてるんだよ」
僕の怪訝そうな表情に気づいたのか、小畑さんが説明してくれる。
なるほど、そういうことだったのか。
「そうそう! あたしは有城美砂でーす! 華の女子大生だから、アキラくんよりも年上ですっ。よろしくね!」
カップのコーヒーを持ったまま、両手でピースをする有城さん。それを見かねた小畑さんが「危ないから寄越せ」とコーヒーをぶんどる。……オンとオフの切り替えをする人は珍しくないけど、まさかここまで変貌する人がいるとは。
「ところで、なんの話をしてたんですか? ナンパ?」
「アキラくんのことをブレイズに誘ってたんだよ」
「ああ! 前に言ってたやつ! ついにあたしにもアキラくんみたいな後輩クンができるのかぁ~」
「い、いえ。まだ返事はなにも……」
勝手に話を進める二人に、僕は口を挟む。
正直僕はどれだけブレイズの環境が優れていようと、片瀬さんを放ってスパークルから移籍するようなことはしない。それに今は、綾乃っていう自分の後輩もできたことだし。
「まぁ片瀬の手前、返事はしにくいだろ。特段急いでもいないし、返事はいつでも構わんよ」
そう言うと、小畑さんはコーヒーをグビッと飲みつつ立ち上がった。
「さて。ここはスーパー・サクラギ組の邂逅を祝って、祝勝会でもどうかな? アキラくんの分は奢るぜ?」
「いやぁったぁ! あたし、焼き肉がいいな!」
「お前の分は奢らねぇし、行くところはアキラくんが決めるから黙ってな」
そんなこんなで、なぜか成り行きで小畑さんと有城さんとご飯に行くことになってしまった。
……でも、これは好都合かもしれない。
もしかしたら、片瀬さんと小畑さんの関係について、聞けるかもしれないのだから。