第14話 小畑徹からの勧誘(1)
スーパー・サクラギでのセキュリティコンサルの一件以来、僕は防犯カメラに興味が湧いていた。今までは『ただの監視』に過ぎないと思っていた防犯カメラには、他にもいろいろとメリットがある。
なおかつこの間小畑さんが説明していた「AI顔認証システム」には色々な可能性を感じていた。
そんなワケでは僕は今日、S.G.Gの本部に来ていた。今日はS.G.G本部の四階で防犯カメラに関するセミナーが開催されるからである。
調べたところ、S.G.G本部では月に数回、万引きに関するセミナーを行っているのだという。基本的にセミナーは、S.G.Gメンバー向けではなく「万引きに悩む小売店向け」の内容である。そこでS.G.Gの宣伝をして、サービス利用につなげる形なのだろう。
とはいえ内容的にはGメン側にも参考になるし、なによりS.G.Gに所属していれば(人数制限がない限りは)事前予約なしでも参加できるので、そこそこ多くのS.G.Gメンバーが参加しているらしい。S.G.G内の掲示板に書いてあった。
僕が今日受けたセミナーの内容はスーパー・サクラギで聞いた小畑さんの説明と大部分が重複していたが、中には新情報もあった。どうやら今はセキュリティコンサル内で『AI認証システムの各店舗の連携化』が進んでいるらしい。
これが実装されれば『特定地域内で万引き犯の顔情報を連携できて、万引きの抑制につながる』とだけあって、小売店業界的にはかなりホットな話のようだ。
しかし万引き犯の顔情報を各店舗間で連携するのは、個人情報保護法の観点で問題があるらしく、この部分をクリアするためにはもう少し時間がかかるようである。
久々に万引きに関する最新情報を仕入れて、少しの充実感を得たけど疲れた僕は、S.G.G一階の休憩スペースで休むことにした。
S.G.Gの本部は全五階建てのビルで、五階がセミナー会場になっている。他の階には小売店がS.G.Gに万引き被害を相談するスペースや、最新の万引きについて研究するスペースがあって、かなり多くの人で溢れていた。
缶コーヒーを飲みつつ、入り口に視線を向ける。セミナー終わりなのか満足げに帰る人や、万引き被害に悩まされているのか、深刻そうな顔で入ってくる人。ここでは色々な人の姿を見ることができた。
S.G.Gの本部がこれだけ賑わっているってことは、それだけ万引き被害が大きい、という裏付けでもある。
そんなことをしみじみと考えていたら、突然横から声をかけられた。
「おや。会場に見知った顔がいるなと思ったら、アキラくんじゃないか」
小畑さんだった。僕のことを見て、ニコニコと笑っている。
「あっ、お久しぶりです」
缶コーヒーを手に持ったまま、思わず姿勢を正してしまう。
片瀬さんが相手だったら恐縮しないけど、この人が相手だとどうしてもかしこまってしまう。
どこかおっかないからだろうか? それとも、片瀬さんのあの時の反応が心に引っかかっているからだろうか。
「そんなかしこまらなくてもいいよ。今は仕事中じゃないだろ?」
言いながら、小畑さんは僕の座る横長のソファーにドカッと腰を下ろした。……どうやら、僕と長話するらしい。できれば挨拶で終わってほしかったけど、そうはいかないらしい。