第13話 セキュリティ・コンサルタント(3)
スーパー・サクラギに入ると、片瀬さんではなく店長と先に遭遇した。
「店長さん。紹介します、こちらセキュリティコンサルの方です」
店長に会うなり、僕は二人組のことを紹介する。
「おぉ、ついに来たんですね。どうもはじめまして、このスーパー・サクラギで店長を務めている桜木と申します」
丁寧な所作で挨拶をする店長。それに続いて、セキュリティコンサルの二人組も頭を下げる。
「はじめまして。S.G.G所属の小畑です。こちらは助手の有城と言います」
二人組の挨拶を聞いて、はじめて男の方が小畑で、女性の方が有城という名前であると知る。そういえばさっき、この二人に名前を言うのを忘れていた。
「月之下くん、片瀬さんはどこにいるのかな?」
店長が僕に向かって首を傾げる。
「さっき事務室で会ったので、多分そこにいると思います。今すぐ呼んできますね!」
そう言いながら事務室に早足で向かおうとした瞬間、突然小畑さんが「片瀬だァ?」と声を出すのが聞こえた。
「……どうかしましたか?」
思わず足を止めて、小畑さんに問いかける。小畑さんは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「……いや、なんでもない。他に担当者がいるなら、さっさと呼んできてくれ」
小畑さんは言いながら、僕に対して催促をする。僕は軽く返事をして頭を下げてから、事務室へと向かった。
まさかS.G.Gに、こんな荒くれ者がいるとは。相方の有城という女性も、よくこんな人の傍で仕事を続けられるものである。
心の中で悪態をつきつつ、事務室に着いた僕は片瀬さんを呼びながらドアをノックした。
「んっ、月之下くん? どうかしたの?」
「セキュリティコンサルの人がもう来たんですよ。店長もいるので、あとは片瀬さんだけです」
「あら、少し予定よりはやく来たんだね。わかった、じゃあすぐに行こうか」
片瀬さんと合流して、みんなが揃うスーパーの店内へと向かう。少し距離があるから、早歩きで向かっても談笑する余裕があった。
「さっきセキュリティコンサルの人と会ったんですけど、まぁまぁ失礼な人でしたよ」
「そうなんだ?」
片瀬さんがくすっと笑う。いきなり口を開いて言うことが「ストレートな悪口」だったのが面白かったのだろうか。
「S.G.Gは犯罪者を相手に仕事をするからね。下手に出ると相手に舐められちゃうから、そういう人が多いんじゃないかなぁ?」
「そういうものなんですかねぇ」
などと話していると、みんなが待っているスーパーの店内に着く。話せる距離にまで近づこうとした瞬間、不意に片瀬さんの足が止まった。
疑問を浮かべながら片瀬さんの顔に目をやると、こわばった表情で、みんなのことを見ていた。
「……片瀬さん?」
僕の問いかけにも反応してくれない。一体突然、何があったのだろうか?
どうしたもんかと悩んでいると、みんなの方から舌打ちが聞こえてきた。五メートルぐらい離れたこの距離でも聞こえるってことは、相当大きな舌打ちである。
「――お前がいるって分かっていたら、わざわざ俺まで出張ってこなかったんだがなぁ」
みんなの方から声まで聞こえてくる。見ると、話しているのは小畑さんのようだった。
「どうしたんだ? 話が始められないだろ」
またも小畑さんが口を開く。それを聞いてようやく、片瀬さんが歩き始めた。僕も着いていく。
「それでは全員集まったので、話を進めていきましょうか。今回は――」
みんなと話せる距離まで合流すると、小畑さんの仕切りで話が進んでいく。
僕は片瀬さんと小畑さんの間に何があったのか気になりつつも、必死で小畑さんの説明に耳を傾ける。
どうやらスーパー・サクラギには、最新鋭の防犯カメラを設置するらしい。費用はかさむものの「AI認証システム」を搭載したものだという。
AI認証システムがあれば、怪しい動作をした客がいたら全従業員のスマホに通知がくるようにできるらしい。これを活用すれば『怪しい人がいたら挨拶をして万引きを防止する』などの動きが取れるようになる。つまりS.G.Gに頼らなくても、ある程度の抑止力が見込めるワケだ。
またAI認証システムは顔認証もできるので、窃盗歴がある人など、出入り禁止の人の顔を登録しておけば、来店時に通知が来るようにもできる。来店時点で対処できるようになるので、今までよりもトラブルが発生しにくくなるのだという。
他にも従業員の顔を登録しておけば、日中にしっかりと働いているかなどを監視できるし、足腰の悪い常連客の顔を登録しておけば、来店時に手厚い保護ができるようになる。防犯面以外でも、色々と大きなメリットがある、とのことだった。
これには店長も大喜びで、即決でスーパー・サクラギに導入することが決まる。結局セキュリティコンサルの商談は、導入のスケジュール調整も含めて一時間半程度で終わった。
その間、片瀬さんが口を開くことは、一度もなかった。