第127話 秘策
有城さん主導のもと、小畑さんが誤認逮捕をした店舗の監視カメラ映像の解析が行われた。しかし黒木と思われる人物は確認できない。巧みに変装しているのか、それとも店舗にいないのか。どっちなのかは分からない。しかし『黒木が店舗にいる』という前提ならば、僕にはある"秘策"があった。確実に黒木を捕まえる、起死回生の一手。
S.G.G本部の会議室でその秘策の内容を話すと、小畑さんはギョッと目を見開いた。そして少し考え込んでから、笑みをこぼす。
「――まさに、神算鬼謀だな」
小畑さんの口にした言葉の意味がわからず、首をかしげる。
「人知の及ばないような優れた策略のことだ。まさかアキラくんがこんなクレイジーな案を出してくるとは思わなかったよ」
「そんなに奇抜……ですかね。黒木の性格を考えたら、これが一番可能性が高いと思ったんですけど」
戸惑いながら、小畑さんに聞く。ガーディアンとしての自信は戻ってきたけど、やっぱり自分の考えを発信するのは少し怖い。しかし僕の不安とは裏腹に、小畑さんは満足そうに口角を上げた。
「いや、アキラくんの策略で話を進めよう。面白い案だ。準備は必要になるけどな」
小畑さんの言葉に、僕はホッと胸を撫でおろす。どうやら僕の秘策は採用されるらしい。そして案が通った喜びもそこそこに、頭の中でこれからすべきことをまとめる。
「そうですね。かなり大がかりな準備が必要になります。場所はスーパー・サクラギで考えてます。サツキがいるので話が早いかな、と。あとはテレビ局と警察への連絡ですかね」
「その二つは俺が引き受けよう。特集を組めば視聴率が期待できるし、警察にしても協力してくれるだろ。あぁ、あと代表にも話を通しておかないとな」
小畑さんがスマホにメモを打ち込む。やはりこういうとき、小畑さんはとても頼りになる。
「アキラくんはサクラギへの連絡を頼む。あとはいつも通りに稼働することだな。ガーディアンとしての実績を積まないと、黒木の野郎をおびき出せない」
「分かりました。じゃあ僕はこれからスーパー・サクラギに寄って、そのあと現場に出ます。それでは」
小畑さんに挨拶をして、S.G.Gの本部を後にする。駅へと向かう道中、サツキにメッセージを打つ。僕の秘策を実践するには、どうしても店側の協力が必要だ。スーパー・サクラギが協力してくれるのであれば、言うことはない。しかし大規模な作戦になるから、力を貸してくれるだろうか。
サツキに秘策の説明をすると、すぐに返事が来た。「お父さん、詳しく話を聞きたいって」と書かれている。もちろんサツキのお父さんには直接説明をするつもりだったので、都合がいい日程を聞く。どうやら今日のお昼過ぎから時間を作ってくれるらしい。今日は休日で忙しいだろうに、時間を作ってくれたサツキのお父さんに感謝だ。
電車でスーパー・サクラギに向かう。店に着くと、僕はバックヤードに顔を出して近くの店員に声をかけた。この店には何度も訪れているから、ほとんどの店員は顔見知りだった。
店員に事務室で待つように言われたので、話す内容を整理しながらサツキのお父さんが来るまで時間を潰す。数分後、サツキのお父さんが息を切らしながらやってきた。
「いやぁ、申し訳ない。急用ができちゃって、少し遅れてしまった」
事務室に入るなり頭を下げるサツキのお父さんに、僕は「いえいえ」と言いながら、椅子から腰を上げて挨拶をする。
そして世間話もそこそこに、今日の本題に入った。僕の秘策の詳細と、その秘策を実践するためにスーパー・サクラギを使いたい旨を話す。サツキのお父さんは少し迷ったような表情をしていたけど、すぐに「問題ないよ」と承諾してくれた。第一関門は突破である。
「それにしても、オブシーン……だっけ。その時も思ったけど、君は面白いことを考えるねぇ」
サツキのお父さんは、そう言って微笑んだ。大人に褒められたのが嬉しくって、つい照れ笑いをしてしまう。
「いえいえ、そんなことないですよ」
「いやぁ、そんなことあるよ。僕が高校生ぐらいの時なんて、なんっにも考えてなかったんだから。君のおかげかな、最近サツキがやけに仕事に協力的でね。最近じゃセキュリティ対策にも興味があるって言ってるんだ。前以上に楽しそうにしているし、君には感謝かな」
またサツキのお父さんに褒められて、僕は謙遜する。そうか、サツキもS.G.Gの仕事に興味があるんだ。僕が誰かに良い影響を与えていると実感できて、心が温かくなる。
それからサツキのお父さんと少し学校の話などをしてから、スーパー・サクラギを出る。小畑さんに「店の使用許可がでました」とメッセージを送る。小畑さんの方で桐生さんと警察に話をしてくれるみたいだけど、まぁ大丈夫だろう。小畑さんなら、きっと僕の秘策を通してくれる。
その翌日。朝起きると、スマホに小畑さんからのメッセージが届いていた。「桐生さんと警察からOKをもらえた」と書いてある。秘策を実践できることが決まった僕は、思わずベッドの中でガッツポーズをとっていた。