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第124話 月之下アキラの療養(2)

 翌日。僕の身体に起きている症状を診てもらうために、小畑さんに紹介された病院に行く。小畑さんも誤認逮捕以降、この病院に通っているらしい。


 医者からは「自律神経失調症」の疑いがあると診断された。過度なストレスを受けると、心身に悪影響を及ぼしてしまうという。S.G.Gの仕事内容を知っている医者からは「誤認逮捕のせいで仕事にストレスを感じてしまって、現場に出るとそれが顕著になってしまう」と言われた。誤認逮捕しても現場に出ること自体にストレスはないけど「深層心理では負担に感じているんだろう」と医者は言った。


「今すぐにでも現場に出たいんですけど、それは問題ないんでしょうか?」


 僕は試しに医者に聞いてみる。すると医者は「何をバカなことを」とでも言うように顔をしかめてから「しばらくは無理だね」と答えた。


「仕事がストレスになっているから、病気を治療するためにしばらく休むしかないよ。現場に出ては悪化してしまう。うちを紹介してくれた小畑さんも、それで症状が悪化してるからね」


 そう言って、医者はパソコンに何かを打ち込む。そういえば、小畑さんは誤認逮捕のあとにも現場に出て行ったっけ。そして僕が偶然遭遇して介抱した。あの時の小畑さんも「仕事はするな」と医者に言われていたハズだけど、それを無視していたのだ。そう考えると、小畑さんも随分と無茶をしたものだ。『反面教師』という、昨日小畑さんの言った言葉が脳裏をよぎる。


 薬局で二週間分の薬を処方してもらって、帰路につく。S.G.Gの本部は帰り道にあるけど、行っても知り合いはいない。スパークルの事務所も遠いし、今日は素直に家に帰るのが良さそうだ。そう思いながらS.G.G本部の前を通ると、片瀬さんの姿が見えた。それまでスマホを触っていた片瀬さんは、僕の姿を見ると笑顔で手を振った。


「ちゃんと病院に行ったんだね」


 片瀬さんが僕を見ながら言った。薬局の袋を持っているから、病院に行ったことが分かったんだろう。


「そりゃあ、二人に説得されましたからね。……それを確かめに、ここに来たんですか?」


 僕の質問に、片瀬さんは「うん」と頷く。信用されていないようでちょっと傷つくけど、僕の過去の行動を考えたら仕方のないことだな、と反省した。


「それで、症状は大丈夫だったの?」


 片瀬さんに質問されて、僕は医者から聞いたことを話す。最初は神妙な面持ちだった片瀬さんの表情が、徐々に明るくなってくる。


「ってことは、安静にしてれば大丈夫ってことだよね? よかった。重い病気とかじゃなくって」


「そうですね。まぁ……安静にしていれば」


 言いながら、やっぱり片瀬さんはいきなり現場に出ることを許してくれないよな、と思う。チームで動いている以上、片瀬さんに黙って稼働はできないし、もし稼働できても後でこっぴどく怒られるに違いない。


「……月之下くん。絶対にしばらくは、働いちゃダメだよ?」


 僕の「現場に出たい」という気持ちを察したのか、片瀬さんが釘を刺してくる。僕は笑いながら「そんなことしませんよ」と答えた。


「小畑さんも、無理に現場に出て症状が悪化しちゃったみたいですからね。不本意ですけど、医者に言われたようにしばらく休もうと思います」


「そっか。徹くんも、勝手に働いて怒られちゃったんだ。あはは、徹くんらしいなぁ」


 会話しながら、駅に向かって歩く。片瀬さんは後ろで手を組みながら、楽しそうに空を見上げていた。僕が休むと決めたことが嬉しかったのかもしれない。


「前から言おうと思ってたんだけどさ」


 ふいに、片瀬さんが口を開く。僕は正面を向いたまま、耳を片瀬さんに傾ける。


「ひとりで無理、しないでね。わたしたちはチームなんだから、協力し合って当然でしょ?」


 片瀬さんの言葉を、僕は黙って聞く。もちろん、協力し合う必要があることは理解している。しかし黒木をおびき出して捕まえることは、ガーディアンの僕にしかできない。僕が頑張るしかない。


「わたしはさ、ひとりで頑張ってダメになっちゃった人のこと、知ってるから。その人は『わたしがやるしかない』って考えてたんだと思う。本当は、そんなことないのにね」


 ダメになっちゃった人。その人――琴乃さんのことが頭に浮かんで、思わず片瀬さんを見る。片瀬さんは空を見上げたまま、少し切ない表情をしていた。


「本当はそんなことない……ですか」


 片瀬さんがさっき言った言葉をつぶやく。それはもしかしたら、僕自身もそうなのかもしれない。ガーディアンの僕にしかできない――そう思ってしまっているだけで、本当はそんなことないのではないか。


「……そうですね。これからはもっと、他の人を頼っていこうと思います」


 僕の言葉に、片瀬さんは「素直でよろしい」とほほ笑んだ。

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