第11話 セキュリティ・コンサルタント(1)
スーパー・サクラギで仕事をし始めてから、四日目。
その日、僕は少しワクワクしていた。今日の閉店後に、セキュリティコンサルの人がやってくるからだ。
当初は片瀬さんがこの店のセキュリティコンサルを担当する予定だったが、あまりの惨状に「専門家を呼んだ方がいい」という結論になったのである。
セキュリティコンサルは「最新の技術を用いて、万引きを予防する」のを目的として活動している。僕たちGメンは『起こってしまった犯罪を取り締まる』という、いわば"暫定対応"を専門としているが、セキュリティコンサルの人は"根本対応"を専門としているワケだ。
それだけに「どんな最新技術を使って、万引きを防ぐつもりなのか?」にすごく興味がある。
本当は僕はセキュリティコンサル領域に関しては部外者だが、片瀬さんに無理を行って現場を見学させてもらえることになったのだ。
そんなワケで閉店後、僕は事務室で缶コーヒーを飲みながら、セキュリティコンサルの人が来るのを心待ちにしていた。
事務室にある時計を見上げると、時刻は九時四十五分。セキュリティコンサルの人は十時に来る予定だから、まだ時間がある。
僕は少し残った缶コーヒーをグイっと飲み切ると、ゴミを捨てるために事務室を出た。
「んっ……と。月之下くんか。ビックリしちゃった」
事務室の扉を開けた瞬間、偶然片瀬さんと鉢合わせる。
「驚かせちゃってすみません。……セキュリティコンサルの人、もう来たんですか?」
「ううん、違うよ。予定までまだ時間あるし、もうちょっとじゃないかな?」
「なるほどです。じゃあ僕、来る前にちょっとゴミ捨ててきますね」
「ん、わかった。……それにしても月之下くん、なんだか楽しそうだね」
くすくすと、小さく笑う片瀬さん。どうやら僕がワクワクしているのはお見通しらしい。
「なんか、セキュリティコンサルの人が最新技術を使うって聞いて、ちょっとワクワクしちゃって。どんなもの使うんだろうって」
「そうなんだ。男の子って、そういうの好きそうだもんね~」
「片瀬さんはこういうの、興味ないんですか?」
「ううん、興味はあるよ。わたしもセキュリティコンサルについては勉強したいし。でも月之下くんみたいにワクワクはしないかなぁ」
意外とそういうものなのか。たしかに女性はこういう『最新技術』みたいなのにはあんまり興味がないのかもしれない。今日一緒に働いていた綾乃も、興味がなかったのか、閉店後にそそくさと帰ってしまったし。
「でも月之下くんが将来S.G.Gで働いていくつもりなら、絶対タメになる話にはなると思うし、今日はぜひ学んでいってね?」
もちろんです、と答えてから、ゴミを捨てるために店の外に向かう。事務室にはゴミ箱がないから、店の外にまで行かないといけないのだ。
歩きながら、片瀬さんに言われた『将来S.G.Gに入るつもりなら』という言葉が脳裏で反芻する。
将来か。もうそろそろ高校二年生の夏だし、いい加減考えていかないとだよな。
とはいえ、今の僕にはS.G.G以外に、活躍できる場はない気がしている。それぐらい、僕にとってS.G.Gは天職だった。