第10話 スーパー・サクラギ(5)
「皆さん、今日は一日ありがとうございました。十人も捕まえてくださったんですね。こんなに犯引きしてる人がいたなんてビックリです」
営業終了後、バックヤードの事務室ででスーパー・サクラギの店長が僕たちに頭を下げる。
今日は綾乃のほかに、僕と片瀬さんが五人捕まえたから、合計十人の大成果だ。
もちろんスーパー側からしたら「それだけ万引きをしている人がいた」ワケだから、手放しでは喜べないだろうけど。
「いえいえ、とんでもありません。ただ今日の感じですと、やっぱりこちらのお店は、万引き犯に狙われやすい傾向がありそうですね」
片瀬さんが丁寧に受け答えをする。
「やはり、そうですか。この調子だと、防犯カメラの強化はもっとはやめにやっておくべきでしたね。来週中に工事でしたっけ?」
「その予定です。おそらく来週水曜日頃にセキュリティコンサル担当のチームが伺うので、そのあとに三営業日ほどかけて工事すると思います。もちろん工事は閉店後に行いますので、営業に支障はありません」
「わかりました。それではまた明日からもよろしくお願いしますね」
物腰柔らかく、店長がまたも僕たちの頭を下げた。つられて僕たちも頭を下げる。
この店長は桜木さんのお父さん……のようだけど、父娘でまったく性格が違うらしい。お父さんは温和で、桜木さんは活発という感じだ。
そんなことを考えていると、バタバタと誰かが事務室に入ってくる音が聞こえた。
「あっ、今日はもう帰られるんですね。お疲れ様でした!」
事務室に入ってきたのは桜木さんだった。そして僕を見るなり「あっ」と声を漏らす。
「さっきはゴメンナサイ! 仕事中に話かけちゃって……迷惑でしたよね!?」
申し訳なさそうに両の手のひらを合わせながら、上目遣い気味に僕に謝る桜木さん。僕は「全然大丈夫ですよ」と言いながら手のひらを横に振る。……近くで片瀬さんが何か言いたそうにしている視線は感じるけど。
「サツキはS.G.Gの人たちと面識があるのかい?」
不思議そうに店長が首を傾げる。
「うん! さっき、月之下さんとお店で偶然話すことがあって。そこで仲良くなったの!」
そう言いながら、桜木さんは僕に対して目くばせをしてくる。わからないけど、多分「万引き犯の少年を見逃したことは言わないでほしい」という合図だろう。もちろん言わなくても防犯カメラの録画にはバッチリ残っているけど、おそらくこの店では定期的に映像チェックはしていないのだろう。
片瀬さん的には桜木さんの動きに思うところはあったようだけど、僕にはそこまで咎めるようなつもりはない。それに、今の状況であの話をしても、変に親子関係にヒビを与えてしまうだけのような気がするし。
僕は「何も言わないよ」の合図として、小さく桜木さんに頷いてみせた。
「そうなのかい。いやぁ、サツキは毎日のようにお店の手伝いをしてくれるんだけど、その代わり同年代の子と遊べる時間が少なくなっちゃって可哀想でねぇ。そちらのS.G.Gさんにはサツキと同年代の方も多そうなので、もしよかったらちょくちょく話してあげてもらえると嬉しいです」
頭を下げる店長に、桜木さんは「もぅ~」と笑いながら応える。微笑ましい光景だった。
「……二人とも、とても仲がいいですね」
その光景を見ていた綾乃が呟く。
「家族経営のスーパーだし、これぐらい仲良くないとやっていけないのかもね」
なんて、ちょっと知ったようなことを言ってみるのだった。