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T VS I

作者: ライス中村


▲このときの私はまだ知らないだろうが、私はこのままこの部屋の中に何もせず座っていただけであるのに、私の身体の水分はなにものかによって全て奪われ、置物になってしまうのである。

では今の私はどうかといえば、現在は私は置物ではない。すなわち、もとの身体の状態から、置物となった状態を経て、いまは別の姿となっているわけだ。この別の姿、というのは、もとの姿かもしれないし、あるいは、もとの姿とも置物とも違う姿かもしれない。これは私の知るところであるが、あなたの知るところではない。これから明かしていこうかと思う。なお、何者か、は「何者か」のままであって、わたしにもその正体が未だ掴めていない状態なので悪しからず。


◯ちょっと待ってくれ。未来、というか、ここで先にしゃべっている私よりも後の時間にいるこの私はきちんとその犯人を特定することに成功したのだ。あなたたちもきっと、分からない事柄があるままでは嫌であろう。最後に伝えるから心配はしないでほしいのだ。


■三連休の初日だというのに家にこもっているのも馬鹿馬鹿しいと思ったからわざわざ日光まで出掛けた、が、私は歴史にそこまで明るくないので思ったほど楽しめなかった。もちろん、有名な三猿や眠り猫を見て感銘を受けたことにはうけた。しかしそれ以上に、それを見るために払わねばならなかった拝観料、および、境内に入ったあとにも10歩おきには存在するお守り・鈴・槍といった開運グッズ売り場、もとい、商魂たくましい栃木の人々による集金活動に対していだいた不快感のほうが大きくなってしまった。あんなに下心にまみれた神社では、ありがたみもクソもあったもんじゃない。

それで少し沈んだ気持ちで自宅に帰ってきて、今は風呂に入りおわりゆったりと休息しているところである。

お気に入りのビーズクッションでダメにさせられながら、起きているとも寝ていると



▲そう、このタイミングで私は固まった。用心深い私は、家に強盗が侵入した時を見据えて室内も常に防犯カメラで撮影しているのであるが、ここにこのときの私の姿が映っていた。

まるでブサイクな信楽焼のようであったが、信楽焼よりは造詣が荒い。鼻目立ちは描ききれておらず、目と鼻とがぼんやりと膨らんでいるような、いないような……といった感じである。金玉だけはずいぶん大きく、まるで一見すると妊婦のようにも見える巨大球体が股の下にひっついていた。


◯もう原因がなんとなくわかったじゃないか、馬鹿め。


▲こうなってしまってはどうしようもない。なにせ、脳みそも固まっていたようで、このときの私はまさに置物でしかなかったからだ。ではどうやって置物ではなくなったのか?実はこれは能動的な変化ではなく、受動的な変化であった。


■………あ、なんだ?私は確か風呂から上がって休んでいて……窓の外が明るい。今は何時だ。スマホスマホ……朝の十時?いやいやそれよりも……月曜日になっているではないか!?もし仕事のある日だったら大変なことになっていた。


▲ここからがいまだに分からない。


◯いや、わかるね。敵同士だ、というか味方だな。


■それにしても、なんだか身体がベタベタするし、こう、なにか臭うような気がする。これは私が一日風呂に入っていなかったせいか、と思ったが、そういう臭いとはまた違った、なんというか、私が普段日常生活でよく触れているような臭い。


▲今はこの臭いの正体には思い当たっている。あれは納豆だった。豆がないから分からなかった、ネバネバはまさに納豆菌によるものであったし、臭いも普段の朝食で慣れ親しんだものだ。なにせ、私は納豆が大好きだから。


◯……なんだ、私はもう臭いがなにか気づいていたのか。ならもうすぐ答えが出る。自分で思い出すのともさして変わらない時間になろうから、ここでヒントをあげよう。私は置物になっていたわけだが、あれはもちろん焼き物で、あれは益子焼だった。益子焼では細かい細工ができないから、信楽焼のように丁寧なタヌキの顔を形作ることができなかったのだよ。


■まったく、どういうことだ?私は病院に行くべきか?いや、祝日じゃかかりつけ病院は休みだ。これからは三連休の残された時間をいかに有意義に使うかに思いを巡らせ、そして実行すべきだろう。

やはりここは近場で楽しもう。我が地元への誇りを、私はそれなりに持ち合わせている。やはり土曜日に栃木などにいったのが行けなかった。


▲そうか!!すべて栃木の人々の仕業だったのか!!そして戻れたのは我が地元、茨城の人々のおかげだ!


◯その通り。


▲何やらおかしいような気はしていたんだ。帰りのバスに乗っている時も、バス停から家に歩いている時も、はたまたシャワーを浴びている時でさえ、何者かが後ろにいるような感覚をふっと感じることがあった。振り返ってみても誰もいなかったが。もっといえば、この感覚は別にこの日以外も時々感じるようなものではあったが。普段は思い違いだったとして、しかし少なくともこのときの私が感じていたあれは栃木の部隊の人間だったのだな。

そしてカメラ映像をあとから再生しているときに映った茶色い影の残像。私が置物と化す直前、コンマ何秒という時間にだけ映り込んだ、荒い残像。おそらくあれは餃子着ぐるみだ。栃木の部隊の制服はそれだと、確か祖母がそう語っていた。


○イグザクトリィだ。そして私が元に戻る時に同じように映り込んでいた緑の荒い残像は……。


▲すべて繋がった。あれは茨城のレスキューレンジャーだな。名産品である野菜で常に武装しているということを私は噂に聞いたことがある。


■さて、では出掛けようか。我が愛しの桜川市には、今は秋の落ち葉の香りが溢れていた。さあ、歩き出そう。


△こうして私はことの真相を知ったのか。私が日光東照宮で栃木への悪印象を抱いたところを嗅ぎつけた栃木の部隊は、私を茨城から来た敵と判定し、報復として置物化を行なった。その呪いを解くために我が家にやって来た茨城のレスキューレンジャーは、百薬の長とも言える納豆を私に振りかけることで、見事に対処してくれたわけだ。

ではしかし、なぜ豆は無くなっていたのだ?


◯呪い解除が間違いなく見込めると分かった後で、レンジャーのメンバーが一粒残さず食べたのだそうだ。茨城県民としてのプライドだろう。


◇なぜ私はそのことを知っている?


◯謎を全て解き切ったからさ。私はこの思考能力を買われて、今度は救う立場にならないか、と声をかけられたのだ。


◇まさか、あっ。インターホンが鳴った。


◯私はそうして今の私となるわけだ。全てを知り、茨城のレスキューレンジャー隊に入隊した私に。もう▲は必要ない。なにせ、少しずつ、私に近づいて、もうすっかり私と同じ状態なのだからな。これからも私は茨城を栃木の魔の手から守る者として戦い続けるだろう。私は、茨城県民としての誇りを絶対に失うことなく、レスキューレンジャーとして毎日納豆を食べ、そして茨城県産野菜をしこたま食べるのであった。

こんなことを書きましたが別に私は茨城県民ではありませんし、栃木をなんなら好いています。私小説とかではないので当たり前でしょうか。

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