見習い騎士の哀愁 女騎士のミッション カイル視点
カイル視点となります。
あの日僕は失恋した。
僕カイル・フロイドは騎士試験を受ける為に友人3人と王都に向かったんだ。
酒場の2階の安宿に試験に受かれば3か月、落ちれば2か月の滞在だった。
試験前には元騎士が営んでるスクールに通う。
王都にきて最初の週末1階の酒場で夕食を食べていると1人の女性に目を奪われた。
綺麗な銀の髪…大きな琥珀色の瞳…大衆酒場には似合わない気品・・・
「さすが王都だなー綺麗な女が多い」友人のトーマスが店内を見渡し目をギラつかせている。
確かに綺麗な人が多いけど彼女は特別だ。
ただ見てるだけしか出来なかった。
次の週末も見かけた。何人もの男性が話かけていたけど、黒髪の女性と亜麻色の髪の女性が話してるのを彼女は笑顔で聞いてるだけだった。
チャンスは突然やってきた!
スクールの帰りに彼女達を見かけた
今日は週末か…顔が綻ぶ
あれ?大衆酒場と逆に曲がった。
咄嗟に後をつけてた「カイルどこ行くんだよ?」トーマスともう一人の友人ゴードンも付いてくる。
入った店は落ち着いた雰囲気の店で彼女達の姿が見える後方の席に座る。
「こんな店緊張する…」ゴードンは恐縮気味にカクテルを飲んでる。
緊張と馴れないカクテルのせいかゴードンはトイレット・ボールと友人になったようだ。
様子を見に行こうと化粧室に近づくと彼女の後ろ姿が見えた。
彼女の前には揉めてる客と店員が見える彼女が一歩踏み出したので咄嗟に腕を伸ばして制止した。
「危ないから僕たちに任せて」ふんわりウィンクしてみる。
村の女の子に効くのに彼女には効果はなかったみたいだ。
酔っ払いの処理をして席に戻る途中、彼女と目が合った「あれ?さっきの子だね」白々しいかな?
「あっどうも」彼女が返事をしてくれた!声まで美しい
空気を読まないゴードンが席から「カイルー」と呼んでいる…一生化粧室にいてくれていいのに…
「友人が呼んでるのでまたね!」しかたないのでその場は去った。
この日をきっかけに僕たちは会えば話をする仲になった。まぁ会える様に僕が努力しているんだけどね?
彼女の名前はエリー王城で働いているそうだ。
騎士の試験に受かれば訓練中も会えるかもしれない!俄然やる気が出た。
毎週会えるのが嬉しかったけれど彼女は時々、心ここに在らずな事が多い。
そんな時は無理に会話せずに去って行くのが紳士だよね?
席に戻ってトーマスとゴードンと飲んでいると突然彼女が僕達の席までやってきた。
「カイル時間ある?」驚いた…まさか彼女の方から話かけてくるなんて…このチャンスを逃すバカはいない。「もちろんあるよ?時間があるからここで飲んでる」エリーの為なら時間は無限にある。
さり気なくトーマスとゴードンを追い払う。
エリーは酔ってるみたいだったけど…驚くほどのハイペースでおかわりしてる
「エリーそんなに飲んで大丈夫?」「えぇ!大丈夫よ!」「何かあったの?」「…」何かあったみたいだ…その後もペースが落ちる事なくエリーはお酒を飲んでいる「本当に大丈夫?」「あ…あの…ね…」「うん?」「しょ…処女ってどうなの…?」「う…うん?」聞き間違いか!?「いやだから…その…」
言いかけてエールを一気に飲んでる。プハーとしてるエリーが超絶可愛い「男の人って…しょ処女は嫌なの?」またまた驚いた…ん~ここは真面目に答えるべきなのか!?「少なくとも僕は嫌だとは思わないよ?」「そう…そうなのね…」エリーが手を挙げて店員を呼んでる「エールをピッチャーで!」まだ飲む気なのか…止めた方がいの…か?「飲みすぎだよ」「いいの!酔ってないから!」「酔ってる人はそう言うね」止めても無駄なようなので付き合う事にする
「カイルはしゃ~こんやくぅさとかいりゅの~?」呂律が回ってないエリーも超絶可愛い。
「婚約者?残念ながらいないよ」「しょうなのね…私のこんやくぅさは…処女は~勘弁なんらって~」
は?エリーに婚約者がいるの?まぁそうだよな…王都に住んでて、多分だけど貴族ぽいしな…
「だから~私は処女しゅてる~」また聞き間違いか?「エリー?」ヒックヒックと涙を流してる
胸が締め付けられる…婚約者のせいで泣いてるのか?僕が婚約者なら絶対にエリーを泣かせないのに…
しかも!処女が嫌いなんて女性に言うような奴…最低のクソ野郎だ!
貴族だから政略結婚で婚約破棄できないのかもしれない…
エリーを宥めながら店内に視線をまわしエリーの友人を探してみるけど見当たらない。
「エリー送るから家を教えて?」「やぁ‥‥ムニャ…」「エリー?」「…ん…」
しかたがないので2階の部屋に連れて行く。
「エリー靴を脱がすよ」寝台にエリーを寝かせた。
「どうしたもんか…」安宿なのでベッドとサイドテーブルしかない…床で寝るか…
思った以上に床は固く…寒い…時間貸しもやってる宿なのでベッドは広い…
「寝てるし大丈夫かな?」申し訳ないと思いつつもベッドに入った
暖かい…エリーに触れたいけど…さすがに…ね?そう思って寝ていたらエリーが抱き着いてきた!
「エリー?」返事はない…寝てるみたいだ
しばらくしてエリーがモゾモゾし始めて「…あついー…」服を脱いでポイポイしている。
落ち着け僕の理性…背中を向けて寝る事に集中した。
目が覚めるとエリーの姿はなかった。
次の週末には会えると思ったけど会えなかった。
「何かしたんじゃねーの?」トーマスが呆れ顔で見てくる。
「何もしてないよ!しなかった僕を褒めてよ」「あー偉い偉い」「…棒読み…」
エリーの家名を聞いていなかった事を後悔する。
王城で働いてる以外何も知らない…明日から3日間の試験が始まる
エリーを探そう。
・・・・~・・・~・・・
過酷な試験が終わった。この3日間王城でエリーを探したけど見つからなかった。
試験の結果は合格だった!良かった。
残念ながらゴードンは不合格だった・・・
3グループに別れて現役の騎士達と1か月の研修が始まる
第二騎士団の第2班に入る事になり顔合わせをした。
驚いた…王都に来てからよく名前を聞いたすっごい顔の良い赤髪のセナ・ローゲルと同じ班だった。
噂以上に整った顔をしてる。
試験以上に訓練は過酷だった…正直ナメてた!現役の騎士達との力の差を見せつけられた…
「剣が使えるだけじゃ騎士にはなれないぞ!」セナ・ローゲルは爽やかにほほ笑んでる。
こっちは汗だくで膝が笑ってるのに…
もう辞めたい…でもエリーに会う為には…
訓練も2週間が過ぎると半分は脱落した。
はぁ…本当に辛過ぎる…そんな事を思いながら歩いてると銀色の髪が見えた。
もしかして!?よく目をこらした
「エリー!?」「…カイル!?」騎士服を着たエリーだった!「王城で働いているって騎士だったの?」
「えぇ…」なんて偶然!もう運命じゃないの?完全に舞い上がっていた。
一言しか話せずに行ってしまったけど、僕は浮かれすぎていてエリーの表情に気づかなかった…
浮かれ気分のまま詰め所に戻ると「いつも帰る時にはヘトヘトなのにどうしたのさ?」フワフワの黄色の髪の小柄なコニー・ブライアン騎士が訪ねる「今日はすごく良い事があったんですよ!」
「良い事?地獄の訓練中に?」「違いますよ!ずーと探していた女性に再会したんですよ!!」
「へーうちの騎士?」「そうみたいです!最後に会った時彼女が泥酔しちゃって家も分からないし友人も帰ってしまったから一緒に泊まったんですけど…目が覚めたら消えてたんですよ!」
「えーそれってカイルに気がないから消えたんじゃないのー?」少しムっとした…
「今はそうでも再会したからには頑張ります!彼女と仲良くなる為に絶対騎士になるって決めました!」
「ほーそんなに元気なら今から自主練できるなーなっ?」隊長が僕の肩に手を置いてほほ笑んでる…
「は…はい…」他の騎士がソロりと部屋から出て行こうとするが…「訓練生1人で練習して怪我でもしたらどーするんだ?全員参加だっ!」隊長の言葉にみなうなだれてる…
演習場に向かう途中エリーが見えた「エリー」僕はエリーに駆け寄る。
エリーは困惑した顔をしてる…
「知り合いか?」ダンさんが訪ねるので「さっき話してた女性ですよ!」「えっ…あれエリーゼの事だったのか…」エリーの視線が僕の後ろの方に向けられる
エリーは真っ青な顔をしてオロオロしてる。エリーって声を掛けようとしたら僕の脇からセナさんが「ちょっと来い!」とエリーの腕を掴んだ!咄嗟に腕を伸ばそうとしたけど、ダンさんに止められた
エリーは僕に振返る事なく、セナさんだけを見てた。
エリーも王都の女性達の様にセナさんが好きなのか?
「エリーゼは諦めろ」ダンさんが言う。「何故ですか!?」ダンさんからエリーの婚約者がセナさんだと聞いた…婚約者???あの処女は勘弁とエリーに言った???エリーを泣かせた男…
「嫌です!エリーを泣かせた男です」「泣かせた?」「どういう事?」口を挟んできたのは金髪の女性騎士だった。「そのままの意味です!」
ダンさんが他の騎士を先に演習場に向かわせる
「エリーゼが泣いていたと言うのは?」ダンさんに聞かれて…どこまで話していいのか悩んでいたら「はっきり言いなさい!」美人の迫力に押された僕はあの日エリーが婚約者に処女は勘弁と言われて処女を捨てようとして泣いてた事を話した。
「はぁ…」ため息を吐いて頭を抱え「それは誤解よ…」「ラナーシェどういう事なんだ?」ダンさんも困惑している。ラナーシェさんが言うには偶然セナさんの言葉を聞いてエリーが暴走したと…「何だそれは…」ダンさんまで頭を抱えてる…「あの話は娼館の話だったのに…」
ははっ…そういう事か…心ここに在らずだったのはセナさんを思ってたのか…
婚約者の一言で大事な処女を捨てようする程エリーは婚約者のセナさんが好きって事じゃないか…
何だよそれ!「エリーは酔って記憶が無いみたいなの…貴方とは…?」記憶もないのか…
「何もありませんでしたよ!」演習場の方に足をむけた
こんな事ならあの日手を出してしまえば良かったか?いや…そんな事をしたら嫌われていたかもしれない…何とも言えない虚しさが僕を支配する…
演習場に着くとすぐ誰かが走って近づいてくる気配がした。
「お前エリーに手を出したのか!?」急な出来事に「へっ!?」思わず声が出た。
「答えろ!」セナさんが突然僕の胸倉を掴んだ。「出してないけど、出したいです」ムッとして答えるとセナさんが腕を振りかぶったけれど、隊長が止めた。
エリーを泣かせたくせに何なんだよ…でも…さっきの光景がチラつく…僕の事なんて見ていなかった。
「さっきダンさんに婚約者だと聞きました僕と勝負しませんか?」心のモヤモヤを消したかった。
セナさん相手に勝てるとは思わないけど…それでも…
騎士の礼を取り剣を交える。隙はない…僕の力量を測っているのか踏み込んでは来ない。
僕が踏み込んでも剣を流されるだけだ…
視線を感じて、つい見てしまった…。
その瞬間僕の剣は手から落ちた。視線の先にはセナさんだけを真っ直ぐに見ているエリーがいた。
もう分かってるよ…エリーは僕を見ない…エリーの心の中に僕はいない…
セナさんが落ちた剣を僕に渡す「もっといい線いけると思ったのにな…エリーの事は諦めます」
セナさんが片眉を上げながら「諦めるのが早いんだな」ふっ…だって僕に入る隙はないじゃないか…
「さっきのエリーの顔見てたら分かります。今だってセナさんしか見てないですよ」セナさんがエリーを見つめてる…何だよその目は…
「それなのに何故勝負したんだ?」嫌味かよ…
「ただ諦めるのは嫌だったんで」2人でエリーの元まで行くとエリーの顔色は悪かった・・・
「セナ…どうして?」こんなに近くに居るのにエリーは僕を見ていない。
エリーはあの夜の記憶がないとラナーシェさんが言っていた。きっと不安だろう…
「エリー僕達は何もなかったよ。酔って寝てしまって家が分からないから泊まっただけだよ」
そう告げるとエリーは心底安堵した表情だった…処女を捨てようと僕に声をかけたのはエリーだったはずなのに…「ふふっ僕は失恋したみたいだ」
・・・~・・・~・・・
「父さん?どうしたの?」息子のルイーズが訊ねる「久しぶりに王都に来たから昔の事を思い出してたんだ…」今日は息子の騎士学校入学の為20年ぶりに王都まで来た。
保護者席に着くと綺麗な銀髪が目に入った。
壇上の学園長席に座った彼女の横には赤髪の騎士服を着てる男性が見えた。
騎士団長のセナ・ローゲルだ…。
エリーはセナさんと談笑している。
僕にはくれなかった笑顔で…
思いのほかカイルが腹黒になってしまいました。
女騎士のミッション、騎士の憂い、見習い騎士の哀愁で完結です。
始めて書いた小説で評価やブックマークして下さる方がいるとは思わなかったので…
とても嬉しいです。
ありがとうございました。