秋葉原ヲタク白書100 ヲタクょ永遠に
主人公はSF作家を夢見るサラリーマン。
相棒はメイドカフェの美しきメイド長。
この2人が秋葉原で起こる事件を次々と解決するオトナの、オトナによる、オトナのためのラノベ第100話です。
前回で、御屋敷に爆弾を仕掛けられ危機一髪のコンビでしたが、裏に潜む国際的な組織の全貌が遂に明らかになります。
後継争いに勝機を見たコンビは有力候補の対立勢力に接近しますが、メイド長の継母をも巻き込む最後の闘いの渦中に…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 新たなる爆弾魔
「1945年、ナチスは敗北し、彼等が2020年に構築した組織は、自然崩壊スルと思われた…しかし、何者かが現れ、組織を継いだ」
「悪の玉座を引き継いだのは、ヴクナ教授。伝説の"時間ナチス"マタハ空挺団長の御母堂。娘であるマタハの意思で、組織はテリィたんとミユリさんには手を出さない。あの2人は、組織にとり"聖域"なのだ」
「その"聖域"が侵された。監視に気づいた2人が御屋敷に戻ると、ソコには起爆装置のランプが明滅する爆弾が仕掛けられ…」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ミユリさん、息をしてない?」
「はい。少し緊張しています。テリィ様は?」
「安心して。コレは時限爆弾じゃナイ。恐らく起爆は手動による遠隔操作だ。僕達の御帰宅は誰にも見られてないから、多分安全だょ」
まぁ眼の前にタンク満杯の液体爆弾に起爆装置がつけられ、怪しいランプが明滅しているのだから安全だと逝い切るのも無理がアルw
「ですが、ココは万世橋の爆弾処理班を呼ぶべきでは?」
「うーん。でも、警察を呼べば確実に今宵は営業出来なくなるょwソレに何より、爆弾を仕掛けた犯人の手がかりも失われる」
「え?ソンなコトをお考え?だって、犯人はどう考えてもヴクナ教授でしょ?同じ爆弾で継母のオフィスを爆破し、数時間前にはPSYCHO-PASSを使って警察署内で証人を暗殺したンですょ?」
「でも、ヴクナ教授は、娘のマタハのコトを極度に恐れてる。彼女に認められ、ソレで後を継いだと何度も話してたょね?」
「だから?」
「マタハの決めたルールがあるだろ?僕達は"聖域"のハズさ」
ココで、僕はエイヤッとコードを引き抜くw
「な、何をなさったのです?!」
「爆弾の解除」
「え?赤のコードとか青のコードとか、どっちを先に切るとか定番通りに悩まなくて良いのっ?!」
「うーん。爆弾って目的はシンプルでドカンだけだ。僕達の帰宅を見られてたら、今頃コレは爆発してる。さぁ!路駐してた見張りに挨拶に行こう!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
と、勇んで昭和通りに出たが、案の定?路駐していた車は既に走り去って影も形もナイw
「見張りじゃなかったのカモ」
「いたよ。タバコの真新しい吸い殻が落ちてる」
「なぜ黒幕はヴクナではないと?」
「彼女は"聖域"の僕達を殺さない」
「ですけど、恐喝や殺人や戦争ビジネスをやってる人達ですょ?そんなルールを守るでしょうか」
「おやおや。血は繋がってナイとは逝え、ミユリさんの継母の業界だょ?組織内部の"誰か"が、逆にヴクナをハメようとしたンじゃないかな。万世橋がヴクナを疑ってナイとは知らずに、御屋敷に全く同じ爆弾が仕込んだのカモ」
「誰が何のために?目的は?」
「どうも、組織内に後継者争いか何かの対立があるようだ…コレを利用しない手はナイな」
「利用?」
「対立分子を見つけ出して…手を結ぶんだ」
「私達を殺そうとしたンですょ?」
「死ななかったし。敵の敵は味方だ」
ミユリさんのスマホが鳴る。
相手を確認しスピーカーに。
「ミユリ!テリィは?」
「いるよ、鮫の旦那。何?」
「ミユリの継母さんトコの警護主任のグンジを知ってるか?」
「存じてます」
「僕は知らない」
「テリィは良いンだ。ミユリ、グンジを今夜見たか?」
「いいえ」
「2時間前、浅草橋の教会前の歩道に意識不明で倒れてた。ボコボコに殴られてな」
「強盗の仕業?」
「いや。財布もカードも何も取られてナイ…未登録の銃もなw爆破との関連は不明だが、今から収容先の病院で話を聞く。テリィ達も顔貸せ」
「ROG」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷から近かったせいか、病院には僕達が先に着く。
ナースセンターで勝手に病室を聞き出して、直行スル。
「北東の高気圧の影響により…」
グンジは頭にハデに包帯を巻き、ボンヤリとTVを見ながらベッドに横になってる。
白い包帯がターバンに見え、瞬間インドの病院みたいで笑いかけたが…TVを消す。
怒るグンジw
「見てたのに!脳震盪の後は、眠るなと医者に言われてルンです」
「グンジさん、大丈夫だ。天気予報より盛り上がる話をしよう」
「何の話です?」
「貴方の鎖骨や頭頂骨を折った犯人を探してルンだ」
「今朝からの記憶がナイのです。何も協力は出来ませんょ」
「頭部のケガを思えばあり得るけど…何だか疑わしいわ」
「御屋敷の前で僕達を見張ってたのか?病室に掛けてある背広の胸ポケットに入ってるタバコを喫いながら?最初は、御屋敷に爆弾を仕掛けたのもアンタかと思ったが、状況からして別の筋書きが見えてきた。ソレならアンタの負傷も説明がつく」
「何の話か理解出来ません。頭が朦朧としてルンです。帰ってください」
彼は、毛布の下でナースコールを押す。
「ダメ。会話してる間も視線をシッカリ合わせてる。あら?モニターだと急に心拍が上昇したわ。コレから嘘をつくのね?ねぇ、グンジさん。継母に私達が何を隠してるかを探れと頼まれたンでしょ?隠し事がアルって気付いたのね?」
「あのモンスターママの敵の正体とか?で、御屋敷で張ってたら"誰か"が爆弾を仕掛けに侵入するのを目撃した。ソイツが出て来て追跡、浅草橋の教会前で殴り合いとなり負傷した」
「ねぇ。今、テリィ様がお話しされた通りなら、貴方は私の命の恩人ょ。もう、お芝居しなくて良いの。見え透いた嘘もやめて。話してくださらない?」
「ミユリお嬢さん。悪いが俺は貴女に話す義務はない。貴女の母上になら話すょ」
ゲームセットw
ナースが登場。
「どうしました?」
「見知らぬ連中が押し掛けて来て…シツコイんです。追い出してください」
「貴方達、誰?警備を呼びますよ」
ソコヘ都合良く新橋鮫が…
来ないw何処にいるやらw
「あ、僕達は親戚です!連絡を受けて飛んで来たけど立派な病院で安心しました!顔を見に来ただけです。ちょっと混乱してるけど、気の良い人なので、よろしくお願いします!」
とか何とか得意の口からデマカセを乱発して病室を後にし、ミユリさんにソッと耳打ち。
「ミユリさんは残って。鮫の旦那が来た時に怪しまれる」
「テリィ様は?」
「その浅草橋の教会に逝ってみる。多分。工事中みたいだ」
「工事中?グンジ警護主任が倒れていた教会ですか?」
「YES。病室に掛かってた背広に漆喰の粉がついてた。襲われ負傷したのは、恐らく工事中の教会の中だ。痕跡を追ってみる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ビンゴだw
改修中で本来無人の教会に、何かを見下ろす影法師が佇む。
彼等の足元に転がってるのは…げ?死体?アジア系の誰か?
「遅かったわね、テリィたん。ミユリは御屋敷かしら?ところで…私は殺してナイから」
ミユリさんのモンスター継母だ。付き従うボディガードに、ドスの効いた声で指示スル。
「"義理の息子"と2人にして頂戴…ココはグンジから聞いたの?」
「彼は一言も喋らない。ナースに僕達を追い払わせたw」
「グンジは貴方達の命の恩人ょ。御礼の品を送るようにミユリに話してね」
僕は答えズ床を指差す…その、床の死体をw
「この国籍不明なアジアンが60リットルの過酸化アセトン溶液を起爆しようとしたワケだね?」
「YES。彼は、テリィたんを殺そうとして、その報いを受けた。ま、具体的には、グンジに追跡され、この教会に潜り込んで殴り合いの末に…」
「グンジさんに撃たれたのか。継母さんは何しにココへ来たの?」
「行き掛けの駄賃に寄ったまで」
「おや?何方へお出掛けかな?」
「テリィたんのトコロ。話があるのょ。あ、彼の身分証なら見つからナイわ。部下が死体を処分する前に、ちょっち顔を見に来ただけなの。とは言え、私が見たトコロで何もわからナイけど」
「半島系のアジアンで、歳は37から42歳。高血圧でラケットを使うスポーツを好む。もっと考えを巡らせても良いケド、重要なコトは、コイツの雇い主は、継母さんのオフィス爆破犯の雇い主とは別、と逝うコトだ」
「あら、でも同じ爆弾を仕掛けたのょ?」
「ソレには理由があるが、今は説明する気が起こらない。ミユリさんから聞いてくれ」
「テリィたんの好きになさい。白旗があれば喜んで振るわ。実はソレを言いに来た。認めるわ。私は、確かに自分の敵の本質をわかってなかった。それを知った今、短い余生を怒りの復讐に費やすのはヤメたいの」
「ほぉ。血に飢えた貴女が?」
「死んだ元カレの仇は討ちたい。でも、払えナイ代償もアル。ソレに、血は繋がってなくても、娘のミユリを失うつもりはナイ。だから、協力する。テリィたんは、マタハ時代の組織と何度も渡り合ってる。恐らく最後の闘いとなる今回を成功裡に終わらせるために、私は全面協力するわ。この件は、テリィたんのやり方で進めて」
ありがたい話ではアルけれど、彼女が余り借りを作りたくナイ相手であるコトも事実だ。
「万一助けが必要な時は連絡します。僕の方から」
第2章 その女、ゾヤ二
翌日の昼下がり。
夕方の開店までは自由に使ってね、と逝われてる御屋敷で僕はさっきからPCと格闘中だ。
「テリィ様、誰だかわかりましたか?」
「うん。スピアから借りた顔認証ソフト、スゴいょ。本人はSNSはやってないけど、彼のボーリング仲間のブログがヒットした。名前はハナシ。半島の領事館の運転手だ」
「ええっ?!半島の指令だったンですか?」
「この人、ゾヤニって逝うンだけど、在日のNo.2らしい。彼女が、お抱え運転手として日本に連れて来てる」
「女性で海外領事館の要職なら、切れ者で人脈もあるのでしょうね」
「その切れ者女史がヴクナが継いだ国際的犯罪組織内の造反分子の頭みたいだ」
「ヴクナに私達を殺した罪を着せて、組織のリーダーの座を奪おうと画策を?」
「ソレか…ヴクナの悪質な脅迫や市場操作や殺しにウンザリした手合いカモ。動機は想像するしかナイ。でも、爆弾を仕掛けたのは間違い無く彼女だ」
「じゃ!早速お友達になりましょ!」
「友達と逝うか…ヴクナを潰す術なら他にもアルょと伝えたい。彼女なら、出来るハズだ」
「でも、領事館には、流石に乗り込めませんね」
「ミユリさんのモンスター継母さんの出番だ。この前会った時、とりあえず、復讐の焔は消しとくから、いつでも頼りにして良いって逝われたンだけど」
「いつの間に?で、信じたのですか?」
「モチロン信じない。でも、ゾヤニを取り込むにはコネが必要だ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
モンスター継母は約束を守る。
僕達を乗せた車列は、定規で測ったかのような正確な車間距離で首都高を疾駆している。
前後に護衛車を従えたリムジンの豪華ソファに身を沈め僕達は気マズい会話をしている。
「で、ミユリ。このヴクナ教授って、どんな女なの?」
「元カレを殺した大悪魔を想像してるカモだけど、少し違うカモ」
「口が重いのね?もう少し信用して?」
「ムリ」
気まずい母娘の会話に割り込む僕w
「…貴女のコネでゾヤニを取り込めそうですか?」
「多分。テリィたんの名前も借りたわ。返さないけど」
「え?」
緩やかに速度が落ちて逝き、やがて停車スルが外からノックされるまでドアは開かない。
凝ったノックでドアが開くと、山上の邸宅前だ。対峙する双方の護衛の数がハンパない。
「第3新東京電力の代表が2名来ると伺っていましたが」
「ごめんなさいね、ゾヤニさん。古い友人が貴女に誤った情報をお伝えしたようです。早速ですが、内密で話せますか?」
「良いでしょう」
ゾヤニは、完全なアジアンだが、意外にもアラビアンなターバンを巻いている。
目配せすると、見渡す限りいる護衛が、一斉に道を開き、僕達を邸宅へと誘う。
国際会議場並みに広い応接間に案内される。
「コレで繕う必要もナイわね」
「貴女は、ターバンを巻いてるがホントは無宗教ですょね?調べました」
「あら。他には?私はどんな女なのかしら?」
「人殺しの魔女、です」
「あらあら。今日は話が弾みそうね。先ず、貴女の御屋敷に爆弾を仕掛けたコトを謝らなきゃ」
「否定なさらないの?」
「その必要アル?私は、外交特権で守られてるし。あ、貴女方も目的を偽る必要は無いのょ。ヴクナの件で来たのでしょ?」
「僕達を殺そうとスル動機はわかってる。教授は、組織の後任には明らかに不適格だ」
「貴方が噂のテリィたんね?そう、彼は、無謀で自制心がナイ。リーダーは、冷静な切れ者であるべきょ。ココ数年来の戦争でも、彼女は目立ち過ぎてる。ねぇヴクナを殺すのに手を貸してくれナイ?」
「悪いけど、アキバのヲタクは殺人なんてリアルはやらない。ソレに、今回は蛇の頭を落とすンじゃなくて、胴体まで始末したいンだ。貴方の組織を壊滅させたい」
ココで目配せ。モンスターママにタッチだ。
「テリィたんに協力して全てを話すのなら、貴女の身の安全は、私が個人的に保証しても良いわ」
「やれやれ。ありがたいお申し出ばかりだコト。でもね、貴女達。マタハが残した組織を簡単に壊滅させられると思ってるの?」
「もっと早くやるべきだったと思ってる」
「そーゆーつもりならコレを見て」
ゾヤニがリモコンを押すと壁が下がり、明滅するスクリーンが現れる。
世界地図と連動した画面は、各国毎に時事刻々とデータが書き換わる。
「コレが何だかわかる?」
「国連総会での…投票コードのチェック?」
「ええ。でも、それだけじゃないわ。通常のメモはスタッフが参照するため。赤字は…私専用の情報」
「ラテン語の暗号だと?」
「解読は無理。注目して欲しいのは赤字の多さよ。赤字こそ、国連とは別の我が組織の最近の動向を示しているの」
「貴女達の組織は、世界の半数近くの国で活動しているの?」
「モチロン、工作員が1人潜入してる国や脅迫して味方につけた官僚や投資家がネットワークを構築してる場合もアル。しかし、地域によっては、かなりの規模を誇るし、時には政府をも覆すパワーを持っている。要するに、コレほど巨大なネットワークは、既に自ら意思を持つので、簡単に解体など出来ない。コレでお分かり?貴女達を殺して、ヴクナ教授に殺しの罪を着せるのが、彼女を引き摺り下ろす唯一のチャンスだった。しかし、ソレに失敗した今、もう誰も危険は侵せなくなったの」
「あら?まるで貴女に選択の余地がアルかのような言い振りね。もし、テリィたんへの協力を拒むなら、私は全てを半島政府の高官に暴露するわ」
「私はね。半島の政府なんかより、このボードの面々をこそ恐れてる。私にも家族はいる。ソレに、ヴクナは死ぬ気で徹底抗戦してくるわょ?」
「えっ?ヴクナの地位を脅かす者がいるの?貴女がダメならソッチと組むわ。早く逝ってょ?」
「そのソッチとやらが未だ生きてればな」
「実を言うと生きてるわ。1945年のベルリン陥落後、2020年に取り残された組織の有力者達は新しい総統が必要と悟った。自分のシッポを喰らう蛇のように組織が自滅に向かう中、後継候補に上がったのがヴクナ。でも、私を含め1部は外部の人間を推した。長年、闇に身を潜めビジネスを続けた伝説の女。生涯を通じて世界を相手にゲームし、莫大な利益を上げた女。今でもそう」
ややっ?ゾヤニが熱く見詰めてるのは、ミユリさんのモンスター継母だwマジかょ本気?
「貴女は、新しい総統候補だった。ねぇ我々の活動に美学を感じない?貴女さえ加われば完璧なのょ!」
「だから、ヴクナはモンスター継母さんが後継争いの対立候補として消そうとしたのか!」
「YES」
「でも、死ななかったわ」
「しかし、愛する元カレを失った。貴女が悲しみに沈むその間、ヴクナが足場を固めるには十分だった。だから、ごめんなさい。今となっては協力は無理なの。彼女の地位を脅かせば、誰でも貴女の二の舞になる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
不思議な時間は終わり、帰路、言葉少ない間に僕達は昭和通りでリムジンを降ろされる。
「笑顔ですね、テリィ様」
「うん。多くの謎が一気に解けて実に爽快だ。状況は厳しいけど、コレも産みの苦しみサ。奇策を思いついたよ」
「奇策ですか?」
「ゾヤニ女史が僕達を狙ったのは不満だけど戦略としては正しい」
「何処がですか?」
「お陰でヴクナを打ち負かす方法がわかったょ。ゾヤニ女史の戦略をマネよう。つまり…ヴクナに濡れ衣を着せるのサ」
第3章 血闘を制する者
その日は御屋敷を早々に閉め、みんなを追い出しミユリさんと"濡れ衣作戦"を詰める。
「テリィ様。彼とかどうでしょう?チャペ。PSYCHO-PASS5番」
「ミユリさん。番号で呼ぶのはヤメよう」
「夜も更けたし好きに呼ばせて。2019年12月16日、彼のアパートの不審火で老夫婦が死んで、数日前に口論していた彼が聴取されてます」
「先ず、その老夫婦はトラブルメーカーで、異常な詮索好きだ。何10匹も猫を飼ってて、多くの隣人と揉めてたみたいだ」
「でも、その内の何人が"テミス"を受けたPSYCHO-PASSだと思いますか?」
「ヴクナは、その夜はハワイで会議だょ」
「ソレはネットで拾った情報です。間違ってるカモしれません」
「証拠写真もあるょ。放火の濡れ衣を着せるのは難しい」
「"テミス"のPSYCHO-PASSが引き起こした犯罪に限定しなくても良いのでは?」
「うーん。PSYCHO-PASS達が"テミス"受験前にも凶悪な罪を犯してる、との見方に無理があるのかな?…ねぇ。ミユリさんは、ミユリさんのモンスター継母が組織を継ぐと思う?」
「いいえ。確かに、継母は長年人の死を招くような取引を仲介してきたカモしれません。でも、ヴクナ達は取引のためなら、躊躇なく人を殺す。両者には根本的な違いがあります」
「だょね?でも、そうなるとモンスター継母の元カレって、ホントに無駄に死んだコトになる。継母さんは、ヴクナの脅威にはなり得なかった。最初から…あれ?あれれ?」
「どうしました?」
「前回捕まって、目下服役中のPSYCHO-PASSのテッチだよ。2019年4月3日に隣人女性のダイダが失踪。2週間後近くの立体駐車場で遺体となって発見された。彼女は、どこかに監禁されてたが、ソコから逃げ出し、テッチに殺されたようだ…調書の服のくだりを。微量のホウ酸ナトリウムが付着とアル」
「ホウ砂?洗剤の成分ですょね?調書は監禁部屋に掃除用品があったと結論づけてる。でも、ホウ砂って防腐剤にも使う…」
「つまり、剥製だね」
「テッチは、剥製師で確か店も持ってましたね!」
「うん。ダイダ殺害後、1ヶ月以内に移転してる。監禁場所から距離を置いたンだ。さらに、都合よくヴクナは失踪と殺害の両夜共、東京にいた」
「テッチが犯人だとして、どうやってヴクナをハメますか?」
「凶器だな」
「テッチがまだナイフを持ってると思いますか?」
「モチロン、思ってない。だから、凶器は捏造だ。同じ種類のナイフを買おう。ヴクナの血液は、委託を受けた複数の民間ラボが保管してる。その中から、セキュリティの最も甘いラボを見つけて、今夜中に忍び込ンでゲットするンだ」
「テリィ様が?!」
「いや、出来ればミユリさんがレオタード姿でキャッツアイになって忍び込んで欲しいンだけど、とりあえず、ココは色々貸しのあるストリートギャングの誰かに頼もうと思ってる」
「安心しました。私のレオタードは、またその内に御覧下さい…そして、ヴクナのオフィスにナイフを仕込むのですね?ソコもセクボに頼みますか?」
「ソレだと露骨過ぎるカモなぁ。凶器に語らせよぅよ。ナイフと血液をヴクナに結びつける仕掛けを考えなきゃ」
「考えなきゃって…何かアテがあるのですか?」
「僕じゃナイ。ミユリさんだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
階段教室で講義は続く。
コロナで人影はマバラw
「…世界の危険は増すばかりょ。でも、だからこそ、私達は新たな組織化を模索するべきだわ。南スーダンでは、病院やフードバンクの襲撃で都市部からの集団移住が始まっている…」
ソコへ無神経な着信音が響く。
「誰?教室でのルールを忘れたのは?」
ヴクナ教授が振り向くと、いつの間に現れたのか、ミユリさんがスマホを差し出してる。
「鳴ってる。出た方が良いカモ」
「貴女は…みんな、少し待ってて。すぐ戻るわ」
「外で話す?」
ヴクナ教授とミユリさんは、脇の鉄扉から校舎の外に出る。
ヴクナ教授は、スマホを受け取り深呼吸してから話し出す。
「もしもし?」
「ヴクナ教授。授業中に申し訳ない。ミユリの継母です」
「ソ、ソレは光栄ですわ。お噂はかねがね」
「心配しないで。この通話は録音されていないわ」
「初対面の者との通話を録音スル御趣味が?」
「…仮の話をお好みなら、そうしましょう。あくまで"例えば"だけど、貴女の申し出を受けるコトにしたわ」
「申し出?」
「貴女が先日テリィたんに伝えた件ょ。和解の調停を頼んだそうね?」
「でも、彼は不可能だと」
「思い込みね。テリィたんは、良くそう言うの」
「評判と違いますね。しかし、申し訳ないが、その申し出は現時点では既に無効です」
「おやおや?」
「最近の貴女との一悶着で、私が采配する組織の中で、貴女に手加減し過ぎだと考える者が増えまして」
「そう思う方は、爆破された私の秋葉原オフィスを御覧になるべきね」
「従って、現時点で私達が和解スル確実な方法は1つだけになりました。即ち、貴女が命を差し出すコトです。あ、モチロン"例えば"の話ですょ」
「当然ね」
「会社や家族や自分自身のレガシーを守るため、全てを犠牲になさる覚悟が出来たなら、連絡をください。迎えを差し向けます。詳細は、お会いしてお話ししましょう」
ヴクナ教授は、有無を言わさず電話を切り、
呆然とするミユリさんの瞳を直視し告げる。
「私の講義、もう少し聞いて行く?勉強になるわょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。
僕は、アキバで最も高い高層タワーの屋上で聖地を睥睨しつつ、地球の丸さも実感する。
光の海が関東平野の形に広がっていて見上げれば満天の星々に手を伸ばせば届きそうだ。
コレで隣がモンスター継母でなければw
「飛び降りろとでも指示がありましたか?お手数おかけしましたが、作戦は成功です」
「テリィたん。ヴクナの指紋を採ったのね?」
「ミユリさんから渡されたスマホに、奴はベッタリ指紋を残した。この指紋と殺されたダイダの血液を古いナイフに転写します」
「ソレを万世橋に送るの?」
「うーん。今回は仕方なく嘘はつくけど、鮫の旦那を偽装に巻き込むのは気が引けますwナイフは桜田門に送ります。どーゆー偶然なのか、ダイダは公務員だったので、桜田門も昔の未解決事件に新展開だと歓迎するでしょう」
「テリィたんの仕事ぶりは聞いてる。でも、証拠の捏造は恐らく不本意ね?」
「背に腹は、とか申します。時に、手段を選んでいられないコトもアル。しかし、貴女の憂いに満ちた横顔は、そのせいでは無いのでは?」
「…驚いたの。まさか自分が、あんな犯罪組織のリーダーを継ぐ人間に見えていたとは。実は、元カレが死んで以来、ズッと自分を責め続けた。商売敵の恨みを買ったのか、交渉で強引すぎたか、何処ぞの独裁者やCEOでも怒らせたのか?と。夜も眠らず、独りで原因探しをやっていた。何が間違ってたの?とね」
「貴女が悪の玉座を継がなくて良かった。そうやって自分を責めて苦しむ貴女に、悪の黒幕となる資質は無いと思います」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
なーんてエラそうなコトを逝ってはみたが、早くもアチコチでボロが出始める。
不穏な動きを察したのはモチロン新橋鮫だ。敏腕刑事の看板はダテじゃないゼw
新橋鮫がミユリさんに電話したのが昼過ぎ。
「ミユリ。テリィと一緒か?」
「あら、鮫さん。テリィ様は今日はリアルで御出張ょ。いつもアキバにいるワケじゃ無いわ。お昼間はサラリーマンなのょ」
「あのな。確かに、例のナイフの血液はダイダのモノだった。指紋も不自然なぐらい綺麗に取れてヴクナの指紋と一致した」
「え?何のコト?話が見えないわ」
「黙れ。数時間前、桜田門が勇んでヴクナを逮捕しに行ったが行方不明で…蒸発してた。家にもオフィスにもいない。授業もすっぽかし友人も同僚も連絡不能だ。携帯は切られている。カードも使ってない。3年前の未解決事件の犯人が、今このタイミングで突然姿をくらました」
「あのね。鮫さん…」
「ミユリ、も少し黙れ。本件捜査には所轄も加わるコトになったが、お前に頼みがある。どうか用心してくれ。このヤマはヤバい。何か裏がある」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
まさか、僕と別れてからズッといたワケではナイだろうけど、モンスター継母が例の屋上に佇んでいると、ボディガードが駆け寄る。
「テリィ様から、コチラに向かうとの連絡がありました」
「あら。用件は?」
「存じませんが、護衛を集めろとのコトでした。自家用機で国外脱出の準備を進めろとも言われてましたが…」
「わかったわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数分後、僕が駆け付けると、モンスター継母は悲しげに微笑み、ボディガードを下げる。
「テリィたんが楽天家なら、今は得意満面でしょうね。ヴクナは社会的地位も名誉も捨てて蒸発した」
「あいにく、苦労性な性格なので生まれて此の方得意な顔などしたコトありません。恐らく貴女も同じでは?」
「あら。でも、悲観もしてナイの。コレで、桜田門にもヴクナの内通者が潜んでるコトが明らかになった。やはり、中々の組織なのね。しかし、ヴクナは状況の深刻さを悟って、テリィたんの脅しを本気で受け止め、人生も名声もかなぐり捨てて地下に潜った」
「あの容疑は、簡単には覆せないとは逝え、逃げ道も最低で6つはあります。恐らく組織内の反対勢力が勢いづいて、ソレでヴクナも姿をくらまさざるを得なかったのでしょう。さて…朗報はココまで」
「ヴクナは痛手を負って、組織を追われた。でも、手負いの獣は何処から襲って来るかも分からナイ。テリィたんの陰謀と見抜けば、見せしめに殺して力を示し、組織に返り咲く線を狙うでしょう」
「お気遣いありがとうございます。でも、ヴクナのターゲットが僕じゃナイ。ソレはとっくに継母さんは御存知でしょ?」
「ヴクナは、私の命を欲している」
「なら、早く御身を隠してください。赤道直下にある火山島の地下に秘密基地とかお持ちでは?」
「あはは。ヲタクと話してると飽きないわ…私は、朝までに秋葉原を立ちます」
「事件解決はお任せください。ミユリさんと僕とで必ずカタをつけて御覧に入れます」
「そうね。信じているわ。頼んだわょ」
彼女の、そんなフザけた答えを聞き、実は僕は眉をひそめたが、何故かソコを辞した方が良いように思えビル風に背を押され階下へ。
だから、彼女が電話で話すのを聞いてナイw
「ヴクナ教授、私です。先日の貴女からのお申し出を受けるコトにしたわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
真夜中の御屋敷。
とっくに閉店し、誰もいないカウンターでスピアがPCを開き、カウンター越しに未だメイド服のミユリさんと頭を寄せ合い話してる。
「テリィ様!何処にいらしたの?急に姿を消して」
「あ、ごめん。失踪が流行ってるね」←
「ヴクナの資金がらみをスピアに調べてもらってますが、収穫ナシです」
「恐らく、ヴクナは未確認の裏金で逃亡してる。他の追跡手段も空振りょ」
お手上げポーズのスピアは、御屋敷の常連で凄腕のサイバー屋だが…何故か白のスク水w
彼女が本気を出す時のお約束なのだ←
「ヴクナの過去の著書や論文から手がかりは?」
「もう分析済み。確かに彼は研究で世界中を回ってるけど、行き先はランダムで見当つかない。好きな大陸すら特定出来ナイわ。で、次に考えたのが実の娘だけど…」
「おいおい。まさか誘拐する気じゃナイだろうな?」
「少し考えただけょ。実はセクシーボーイズの"チーム6"が待機中…」
「あの現役JKとサラリーマンのコンビか?ダメだダメダメ!ヴクナは、一生お尋ね者となって自由に動けナイ身だ。今は、ソレで充分だろ?」
「アキバでなくても活動は出来るわ。地下に潜っても教授が危険な存在である事実は変わり無いのょ?」
「あのさ。もう嘘はつきたくないンだ」
「自分で作戦を立てておいて良く逝うわょ。相手は巨大なネットワーク組織なのょ。決着なんてつくハズない。永遠に」
ソコへ…わ!御帰宅だw
もう今宵は閉店ですょ…
「グンジさん?!」
「ミユリお嬢さん!ホントにメイドさんナンですね。こーゆー店は初めてナンだが…その、あの、例の奴を…」
「え?あ。お帰りなさいませ、御主人様?」
すると、グンジ氏は、心の底から幸せそうに微笑んだが…もしかして"萌えてる"のかw
とにかく!全身包帯で包まれたミイラ男状態でアチコチからコードや管が飛び出してる←
まるで病院を脱走した人造人間みたいw
「なぜココに?貴方、入院中でしょ?抜け出して来たの?」
「私は大丈夫だ、ミユリさん。実は、貴女の母上を探している。全く居場所がつかめないンだ」
「今頃は自家用機で空の上だょ?」
「テリィさん、ソレがそうでは無いンだ。この手紙が少し前に届いた。母上は、配達人の目の前で書いたそうだ」
「なぜ動揺を?」
「あの方の警護主任を20年勤めているが、急に解雇された。まるで理由がわからない。あの夜も全て命令に従っただけなのに…」
「爆弾犯を撃ったコトも?」
「正当防衛だった。しかし、もしアレが母上を怒らせた原因なら…」
「おいおい。手紙と一緒に解雇手当1千万円の小切手が入ってるぞ!」
「破格過ぎる。実は、母上は私の家族にも良くしてくださってる。もし、私が何かをしたのなら謝りたい。せめて、他の者だけでも残してくれと」
「他の者だと?」
「警護チームの全員が解雇された。危険は去ったから、もう必要ナイと」
「どうやら、継母さんは、決着のつけ方に自分なりの考えがあったみたいだ」
ミユリさんが悲痛な叫びを上げる。
「継母は、自分の命を差し出す気だわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田川沿いの廃工場跡。
中も外も落書きだらけ。
「よく来てくださいました。すぐ終わらせて差し上げます」
ヴクナ教授と向き合うのは…モンスター継母だw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
僕は思わず声を荒げる。
「違う!話をちゃんと聞け!」
「ゾヤニ女史は…ダメでしたか?」
「彼女からヴクナの行方を聞き出そうとしたが、部下がつなぎもしない」
「継母のロンドンオフィスも連絡がつかないと大騒ぎです。必ずしもヴクナのトコロとは限らないのでは?」
「他に警護を全員解雇する理由があるなら聞かせてくれ!」
思わぬ怒声にミユリさんが唇を噛む。
しまった…ミユリさんの携帯が鳴る。
「あ、鮫さん?」
「突然ヴクナの携帯信号をキャッチした」
「ホント?」
「外神田の3つの基地局で同時に反応が出た。奴は廃工場に身を潜めている。今、桜田門の特殊部隊が現場に急行中」
「お願い!気をつけて。人質がいるかもしれないの!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「立ち入り禁止だっ!」
「鮫の旦那!」
「…あぁ大丈夫。ソイツらは関係者だ。入れてやれ」
恐らく桜田門の制服組が不審な顔で、先ず新橋鮫を、次に僕達を睨みつける。
構わず非常線のロープをくぐって廃工場に入り、新橋鮫のトコロに駆け寄る。
「桜田門のSATは今、到着して廃工場内へ突入した」
「車がナイ」
「犯人は逃げた後だろうが、携帯の信号は出てる。ただ正確な場所が掴めないんだ。コンクリが分厚過ぎ、電波が遮られて追跡が困難だ」
「なぜ我々をおびき寄せたンだろう?」
「知るか。ミユリが人質とか言ってたが、また別の女性か?…え?何?何て言った?」
突入チームから無線連絡だ。
「死体を発見!」
「よし。入るぞ!お前ら離れるな」
「ROG」
突入チームは2Fで、打ちっ放しの崩れかけたコンクリの階段を駆け上がる。
突入隊員が四方を警戒する中、隊長と思しき人物が床に転がるモノを指差す。
「コチラです」
「おっと…自殺か?」
「いえ。違いますね。銃がありません」
僕達は、死体の顔を見て息を飲む。
「ヴクナ教授だ」
第4章 ヲタクはガキのママ
非通知:屋上へ
そんなメールを受けて、摩天楼の屋上に上がると…何と頭に包帯を巻いたグンジさんだ。
彼は、一言も発さズ黙ったママ、僕に向かって黙礼して、屋上ヘリポートの先を指差す。
モンスター継母だw
「ねぇ。誰かの蜂の巣箱があるわ。彼らは、冬の間もココにいるのかしら?」
「え?何ですって?」
「蜜蜂ょ。雨でも晴れでも、ココが彼らの家なのね」
「そうですね。じゃ貴女が処刑した女のコトより、暫く蜜蜂の話でもしましょうか」
「…あのね。教授には、指1本触れていないのょ」
「じゃあ誰が?」
「私達の新しい友人。ゾヤニ女史のお友達。先日の面会後に連絡があってね。やはり考え直して手を貸すって申し出があったの」
「目的は、投獄だったハズでは?」
「彼女には、別の考えがあったようね」
「うーん。ヴクナ教授をおびき出して殺し、ゾヤニ自身が玉座につく、と逝う作戦だったか」
「いいえ。後を継ぐのはゾヤニ女史じゃないのょ。後を継ぐのは…私」
「何だって?!」
「彼女の提案なの。頼まれたわ。ヴクナが消えた今、より堅実な舵取り役を手に入れるコトが彼女の望みだった」
「笑える。貴女の冗談、初めて聞いたょ」
「テリィたん。貴方のためなのょ。そして、ミユリも。貴方達の身を守る唯一の方法なの」
「僕達には"伝説のマタハ空挺団長"が決めたルールがある」
「それでも、御屋敷に爆弾を仕掛けられたコトを忘れたの?言ったでしょ?もう、私は親しい人を失うコトは出来ないの」
「そんな理由で、ビジネスのためなら暗殺も厭わない組織のリーダーになると?」
「他に壊滅させる手がある?あの組織は、ゾヤニ女史の言う通り、外部からの脅威に対しては滅法強くてビクともしない。でも、内側から突き崩せば…或いはね」
「ソレって自殺行為じゃナイですか?」
「私は、今夜ロンドンに戻ります。この組織は、今日以降、秋葉原からは撤退する。保証するわ…因果なモノね。テリィたんも私も、何故か大切な者達を危険に晒してしまう。前カノのエリスさんの話、ミユリから聞いたわ。テリィたんは、何年も自分を責め続けたのでしょ?」
「何が…仰りたいのですか?」
「テリィたん。貴方に推されるのは危険なコトなの。私もそう。だから、私達のような者は、そのような"人との絆"を望んではいけないのょ」
「ソレは違います」
「自問して。テリィたんが世界で誰よりも推す人は?その彼女の側にテリィたんが居続けたら、彼女はどうなるかしら?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
素晴らしい部屋だ。
昨夜、何か大事なコトを逝われてしまった屋上のワンフロア下。
中央にあるエレベーターシャフト以外、全く柱のない広い空間。
「テリィ様!メール見ました。なぜ継母の隠れ家に?」
「モンスター継母さんが…今日から僕のオフィスに使ってくれって」
「えっ?ココがテリィ様の…」
「帰国前、ミユリさんのモンスター継母がアキバの全物件をリリースした。多くはチャリティに。でも、ココは僕への贈与らしい」
「まぁ。お引っ越しですね?」
「いや。ミユリさんの御屋敷にどうかなと思って」
「え?私の御屋敷に譲ると?ソレって…例の継母の戯言のせい?」
「"僕は推しを滅ぼす"って話?うーん。その通りカモ?」
「まぁ大変。それでは、私がアキバから去ります。同じ国にいても不味いですか?」
「茶化すなょ。継母さんの逝ったコトも一理ある」
「あのね。テリィ様は、継母とは全然違います。彼女が、生涯孤独に生きるなら、そうさせとけば良いのです」
「このヤタラ見晴らしの良い駄々広い部屋、ミユリさんが要らないなら…あ、ミユリさんの腹違いの妹に物件売却を頼む?」
「…出会った時から、私はアキバには迷惑のかけ通しでした。それでも、この街は私を決して見捨てなかったのです」
「え?こんなトコロで懺悔?」
「テリィ様。私が冗談でメイドをやってると思いますか?」
「あのね。ミユリさん、アキバでメイドをやろうなんて娘は、そもそもリアルじゃない。ヲタクが何をしようが、誰も責めやしない。ソレにソレが本心なら、とっくにアキバは、ミユリさんを見放してる」
「だって、さっきテリィ様は、私が何故このアキバにいるのかわかってないって仰ったのでしょ?」
「そうさ。リアルに戻るなら今だ。逝けょ」
「ヒドい!やめてください」
「所詮は、全てヲタクが自分で蒔いた種だ。でもコレだけは逝っておく。ヲタクはいくつになってもガキのママ。ガキにとっちゃ自分の街が全て。だから、アキバが僕達の故郷ナンだ。ミユリさんも、そう思ってメイド服を着たンだろ?」
「確かに、私は大人になれない子供だけど、貴方に推されて学んだの。私にとっては、テリィ様がアキバそのものなの。でも、ソレが貴方に伝わらないのなら…逝くわ」
もちろん、ミユリさんは去らない。
優しく僕と彼女の視線が絡み合う。
「喉を潤そう。ミユリさん、ミユリさんのオリジナルカクテルを」
「かしこまりました。ご主人様」
おしまい(& ありがとうございました)
今回は海外ドラマでよくモチーフになる"故郷となる街"をネタに、国際的な悪の組織の後継争いに参戦する面々、使い捨てのPSYCHO-PASS達、それらを取り巻くヲタク群像を描いてみました。
海外ドラマで見かけるNYの都市風景を、コロナ渦中の秋葉原に当てはめて、展開した習作シリーズでした。
当初より10年かけて100話まで、と思ってましたが、良き手本に恵まれ、後半は週1作のペースで描け、勝手に流行作家気分を味わえました←
第100話までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。