フロア設置
ずずずずっ……。
お茶を啜る音が部屋に響く。
魔王さんがお茶を飲んでいるからだ。
あの後、声(猫)にどうすればいいのか尋ねたが気絶中の為、返事がない。
どうにもならないので、起きるまで待つ事にした。
そうして暫く待っていると、魔王さんがいつの間にか座敷で座ってて、側には骸姿の給仕?が居た。
(あの魔王さん、何でもありか。ゲーム的に考えると死者を操るか呼び出す系の能力か)
魔王さんが茶を三杯飲み終える頃に声が聞こえた。
『うわぁぁぁぁぁ!』
端末から猫がどうなっているのか見えるが、見ちゃいけないようなことになっていた。
昔、エクソシストという映画にブリッジしながら階段を降りるシーンがあったが、この猫もブリッジしながら駆けずり回っている。
構造的に出来ないと思うのだが、やれている。
こんな意味不明な行動をしてしまう程に恐怖したのだろう。
画面の中で数分ほどブリッジで動き回る行動をしていたが、正気に戻ったのか何事も無かったかのように猫が話し始めた。
『じゃじゃじゃじゃあ……次はフロア設置をしようか』
動揺は隠しきれないようだ。
「トラップゾーンとか迷路とかを付けるのか?」
『普通はトラップも迷路も設定できるがインフェルノでは禁止されている。その代わり、戦闘でプレイヤー側の成長率上昇、戦闘力上昇等の戦闘を行うことで得られる利益が大きくなっている。プレイヤーがゲストを倒すことで使用可能となる眷属化の成功率も高くなる。そもそもインフェルノモードは小細工無しでぶつかり合うのを観たい者達によって作られた物だ』
「今の状態だと、魔王さんしか戦える人が居ないんだけど。物量で来られたら魔王さん一人だと無理だぞ。難易度下げろ」
インフェルノモードは戦闘オンリーのダンジョンになるようにされているらしい。
仲間が、一人しか居ない現状でゲストに来られたりしたらどうあっても負ける。
魔王さん無視して俺を狙えば良いだけの作戦になるからな。
『今回に限ってはその心配は要らないぜ、ユー。第六天魔王のスキルは次元が違う』
スキルってなんだ?説明を受けていないからわからない。
ゲームと同じ考えをしていいのなら、個体が有する特技や特徴みたいなものだよな。
魔王さんの特徴と言えば火縄銃のイメージが強いから、いくらでも火縄銃を作れるとかか?
『取り敢えず、フロア設置しようぜ。この端末から設置できるぞ』
そう言われ、端末を色々と触ってみた。
今はまだチュートリアルなのかどこを操作すればいいのかが矢印で示されている。
操作を進めていくと、フロア購入という画面に行き着いた。
初回に限り無料と表示されているので、本来なら金やらアイテムやらを支払うのだろう。
フロア購入をタッチするとガチャガチャの演出が出る。
ガチャは悪い文化だと思います。
何のエフェクトも無かったのでノーマルレアを当てた。
『広大な戦闘フロアか、よかったな。ベストマッチだぞ。それじゃ、操作を進めて魔王を戦闘フロアに配置してみろ』
ガイドらしくなった猫に言われるがままに操作する。
フロアをこの暗い部屋と思われるアイコンの横に設置すると何を配置するのか聞いてきた。
今は魔王さんしか居ないので魔王さんを選択する。
選択したと同時に、魔王さんが部屋から消えて端末の画面にスキルの発動という表示がされたから。
スキルが何なのか知りたかったので、そこをタッチすると詳細が表示された。
第六天魔王・織田信長
world skill<乱世の魔王>
効果:配置された戦闘フロア全域に飢餓付与。草花は腐り、大地はひび割れる。この状態の時、一定時間ごとにスケルトン系の《餓鬼の骸》・《修羅の骸》が誕生する。
飢餓付与
生者は常に腹は満たされず、空腹の状態が一定時間続くと自身を喰らい始める。
《餓鬼の骸》
餓鬼道に堕ちた者の骸。常に何かを喰らおうとするが、骸骨なので満たされること無く永遠と繰り返す。鉄程度の硬度であれば一噛みで砕く。一度噛み付けば外れることはない。
《修羅の骸》
修羅道に堕ちた者の骸。常に争い、戦いを求める。相手がモンスターであろうと戦いを挑み、嬉々として殺し合う。戦う程に強くなり、強さに限界がない。神格すらも殺す程に強くなった個体を発見されてからは特級消滅対象に指定され、絶滅した。
「なぁ、これ大丈夫なのか?特に修羅の骸」
『オレはプレイヤーの情報をどんなことであろうと秘匿するように言われている。例え、神格をも殺せる奴らが無限に増え続ける事になっても言わない。まだ消えたくないなら、これを取得することを進める』
猫はある機能の購入を進めてきた。
【戦死の忘却】
効果:ダンジョン内でリタイア、或いは死んだものは魔物の情報を失う。これは記録物にも影響し、所持者又は使用者がリタイアすると魔物に関する全てが消える。
「これ、どうやったら購入出来るんだよ?」
『ポイントだ。ポイントはゲストを倒す、撃退する等で手に入る』
「これ、十桁あるんだが?一度や二度で貯まらないだろ」
こんな桁数、無理だ。
きっと、何年も普通に経営し続けてようやく貯まる量だ。
序盤のビギナーが買えるものじゃない。
『一つだけこの量を手に入れる方法がある』
「なんだよ」
猫は勿体ぶっているのかなかなか言わない。
端末を振り回してやろうかと思った時、ようやく言った。
『宣伝だ、ユー』
「……宣伝?」